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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第3章 トランジションステージ
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第85話 ブラッディメアリー!

「ハッ、はっ、ハッ、はっ」


 耳に入る不愉快な音? 自分の吐息だった。後方に流れていく景色。


「まだ見えないのか」


 ラビイチの足は速い、だけどここは森の中……行くてを遮るモノは沢山ある。


「時間が惜しい、ここで無茶しないで何処でするって言うんだ」


 狭まる視界、音が消えていく? 自分の吐く息の音すら聞こえなくなる。後方に流れていく景色が色あせ、世界が紙芝居のようにコマ送りになって行く。


 優先順位を確認する、一番は皆の安全。二番はなるべく他人でも死傷者を出さない。三番は……?


「何だ――簡単じゃないか、目的地まで整地する」

「ラビッ?」


 世界に色が、音が戻ってきた。心配そうにこちらの様子を窺うラビイチの背中を撫でる。

 ボクがする事は簡単、オリジナル魔法で目的地までの道を作り、全員集合して旅に戻る。魔薬なんてどうでも良い、サンプルは回収してるんだしマリヤが何とかしてくれるはずだ。ボクは自分の出来る事をすれば良い。


 イメージするのは風? 全てを押しつぶし道を作る? 違う、それじゃダメだ。下手すると皆に当たる。

 なら火はどうかな? 進行方向にある邪魔モノを全て灰燼と帰す……ダメだ。皆に被害が出る可能性が高い、それに火加減は苦手だ。

 ならば水? でも水源が無いとゼロから作り出すのは面倒だし、大規模な魔法を作るのには時間がかかる……


 答えなんて決まっていたんだ。ボクにはアウラの加護がある、土の原初精霊の加護って言うくらいだし、土に関してならあちらの世界でも家庭菜園で土弄りをしていた!

 ボクは見たじゃないか、魔力を吸い取られてアスファルトの様になった地面を……土を通して邪魔モノの魔力を吸い取る? 土の魔力を操る事は出来るけど邪魔モノから奪うのは無理だ。


「道……そうだよね、考えるからいけないんだ。道を作ろう」

「カナタ?」


 アリスの声が左後ろから聞こえる、振り返ると偶然口と口が当たりそうになった。アリスは身を乗り出してボクの左肩に抱きついている。


「アリスの【大地の祝福】で木々を全てどかせない? 地面はボクが何とかする」

「私の魔力が届かない、体液を触れさせるか直接魔力を操れないと……」


 顔を歪め今にも泣きそうになるアリス。

 ボクは体を捻り後ろを向き、両手をアリスの脇の下から背中に回すと抱っこして前に向き直す。向かい合わせになったアリスに抱き付くと背中を撫でる。


「ボクが地面に魔力を流す、アリスはボクの魔力を操って【大地の祝福】を使って? 大丈夫、MPなら加熱蜜結晶があるしもう大分回復したからね!」

「分かった。私とカナタの初めての共同作業!!」


 鼻息が荒くなったアリスが力いっぱい抱きついてきて口をふさいで来た。


 あっれ~? 魔力を直接操るなら体液関係無くない?


「ん、チュッ、ペロ、チュチュ」

「ぷはっ! ま、待って。直接魔力を操るんじゃないの?」

「久しぶりだから間違えたの~」


 自分の唇をペロリと舐め、抱きついたままスリスリしてくるアリス。これは確信犯だよね……


「私は準備万端なの~まだならもう一回やっとく?」

「いや、準備万端だって! ほら後ろから怖いお姉ちゃんもこっち見てるし、やるよ!」


 後ろを見なくても分かる。アルフの『真面目に、本当に真面目に!』と叫ぶ声が聞こえ、空気を震わすような魔力の迸りを感じる……


 自分の周囲の土に魔力で干渉し、目的の場所寸前までの道をイメージする。ラビイチの背中の上で走る振動もあり少し手こずる。


 アスファルトに覆われた高速道路……アッー! うちの近所に高速道路なんて無かったんだった!? あの田舎道のアスファルトで良いや!


 加熱蜜結晶の瓶を取り出すと三個口に含みガリガリと噛み割り追加で三個また食べる、一応アリスの口にも一個放り込むと頷く。


「母なる大地よ、我らが進む栄光への道を指し示し、遮る全てを押し流さん! グレートアウラロード!」

「お、オリジナル魔法だ!」


 抱きかかえるアリスの体が焼けるように熱くなり急激に冷えていく、顔色が真っ赤から真っ青へ、唇が震えてボクの背中に回った手の力が抜けていく。


 一呼吸置いてから発動したアリスの魔法は、世界に劇的な変化を起こした。


 前方の地面が隆起し土の上に在る全てのモノが脇に流されていく、地面が土が石が岩が砂のように微塵に分解されアスファルトの道へと再構成されていった。


 足を思わず止めたラビッツ達の背中の上から、ボク達はその光景を眺め一瞬全ての事を忘れて見入ってしまう。


「あぁぁぁ!」


 ボクの腕の中で何かに耐えるように震えるアリス、咄嗟に【治療C】を使いながら魔力を口移しで流し込む、ゆっくりと、アリスの背中を撫でながら。

 次第に振るえが止まり、体温も顔色も元に戻ってきたアリスの頭を撫でると、ラビイチの背をポンポンと叩き移動を再開させる。


 気絶したアリスをアウラ縄で体に結びつけ落ちないように固定すると、一応ステータスを確認する。



 名前:アリス=アーデルハイト(彼方=田中=ラーズグリーズの眷属)(生命虚脱・魔力欠乏・精神疲労)

 種族:人間 年齢:12 性別:女 属性:聖

 職業:狩人・聖女 位:無し 称号:【奇跡の担い手】【亡国の姫】 ギルドランク:F

 クラン:小さな楽園


 レベル:45[22+13]☆

 HP :12/231[200+6+25]

 MP :8/143[100+18+25]



「なっ!? 無茶し過ぎだよ! 瀕死なんてレベルじゃない! 【治療C】【治療C】【治療C】」


 アリスは自分の生命まで削って魔法を使っていた。頭に上っていた血は引き、ボクの願いを無茶をしてまで叶えてくれたアリスをすぐに回復させる。

 MPもヤバイレベルに減ったみたいで、さっき口に放り込んだ加熱蜜結晶の分がもう消費されてなくなっている? 焦るボクは加熱蜜結晶を三個自分の口に含むと噛み砕き溶かし、気絶したアリスに口移しで飲ませる。

 意識が無いのでほんの少しずつしか飲み込まない、だけど危険な状態なので時間をかけてむせないように注意しつつ口移しを続ける。


「もうすぐ森を抜けます! カナタはアリスをアリシアに任せて戦闘の準備を、私とレッティがディフェンスでロッティとアルフが救援、カナタは先陣を切って下さい!」

「了解! ラビイチ、一度止まって体制を立て直すよ! あとラビイチとラビニとラビサンは周囲を警戒しつつ援護よろしく。アリシアはこれを噛み砕いて溶かして飲ませ続けて! ミミアインは……どんなことが出来るかよく分からないから臨機応変に対応して!」

「「「ラビラビ!」」」

「かぱっ」


 さすがアンナ、冷静な判断で咄嗟に指示を出し動きをまとめ上げてくれた。ボクはラビッツ達に指示を出すと、加熱蜜結晶が入った瓶をアリシアに渡す。


「サーイエッサー!! これは治療、これは治療……お姉ちゃんが治療してあげるからね!」


 アリスを大事に抱えるアリシアは真剣な眼差しで瓶を受け取ると、途端頬を緩ませだらしない顔になった。姉妹愛……だよね?

 小さい頃から周囲は敵だらけ、妹の影武者を押し付けられてただ妹の為だけに生きてきた。そんなアリシアがアリスを恨むどころか(いと)おしく思うのは姉妹愛の成せる奇跡……だよね?


 アリシアはちゃんと超硬化済みの硬皮の盾を二つ取り出し左手に一個、背に一個装備すると真面目な顔に戻り治療を開始する。ラビサンがその側に立っているのでこっちは問題無いと思う。


「ん! 二回目のEMC使用者はアヤカ!? 先に着いたのか! 早まらないでね…」


 ブルッと左手が震えEMCのコールと共にアヤカの現在位置が表示される。


 ん? この位置はキャロラインと少し離れている……突っ込まずに現状確認中?


 ブルッとまた左手が震えメールが届いた。内容は――『我、敵の後方を占拠せり。敵、増援の可能性大。至急援軍に来られたし』ふむ、こんなメールを送れるのならまだ余裕は有るみたいだ。

 続きがある? 『ちょっとマズイかも、ルナが暴走中。暴走したルナ相手に立ち回れるG虫みたいな村人が一名、敵の増援に村長が混じってる。キャロラインが重度の負傷、足に毒と思われる傷有り治療不可。アズリーが片足を根元から切られてる、幸いこっちは止血済みでフェルティが守ってるからまだ何とかなる。カナタの突撃と同時にこっちも動くから早めにね!』――全然余裕無かったよ!


「ルナ暴走、キャロライン重傷、アズリー中傷、フェルティ軽傷? ボクが突撃と同時にアヤカ達も出てくるから同士討ちに注意。あとやっぱり村人は敵だったみたい、敵の援軍に村長が混じってるらしい。高レベルの冒険者で特殊なスキルを所持している可能性が高いから迂闊に近寄らないでね!」

「「「「「サーイエッサー!」」」」」

「……」


 皆が元気良く返事をする中、マーガレットが不貞腐れて側に生えてる木(・・・・・)を毟りながらこっちをチラ見してくる……一番初めに動き始めて何も言われずにもアリスとアリシアごと自分に結界を張り、周囲を抜け目無く警戒するマーガレットには指示は必要無いと思ったんだけど、お気に召さなかったらしい……


「マーガレットは臨機応変に、一番冒険者としての経験値も高いし頼りにしてるよ!」

「カナタがそこまで言うのなら本気を出しますの!」


 狐耳をピンと立て尻尾をくねらせるようにフリフリさせたマーガレットは、黒鉄杉の槍を二本黒バックから取り出すと両手に構える。槍の二本使いなんて初めて見たよ。


「行くよ」


 ボクは一言静かに呟くと、森の木々から飛び出しルナ達の入る場所へと足を踏み入れた。




 ――∵――∴――∵――∴――∵―― 




 カッコつけて飛び出した先には誰も居なかった。場所を少し移動してアヤカ達の居る現在位置を目指す、今度はコソコソと気配をなるべく消し音も立てずに忍び寄っていく。勝手知ったる森と言った感じに、森を移動するのには慣れてきた。


「ガァァァッ!」

「ウボボボ」


 ルナの雄叫びと誰かの奇声が聞こえてきた。踝までの短い草花が生い茂った森の中を中腰で進むボクは、右手を肩の位置まで挙げ後ろへ手の平を向け、待て、の指示を出す。


 そっと木々に隠れて様子を窺う、村人が二人フェルティを左右から攻撃しているけど軽くいなしている。抱えられたアズリーも意識を取り戻したのか、自分の足を治療している途中みたいだ。ちゃんと足がくっ付いている。


 視線を開けた森の広間中央から少し左に移すとルナと村人が戦っている途中だった。

 ルナの様子がおかしい、爪と牙が何故か長い、手の甲に毛が生えて目がいつもより赤く輝いている?


 すぐにでも飛び出したいところだけど、アヤカ達の位置を確認してからじゃないと危険だ。もう一度スマホの地図を確認する、丁度反対側の少し崖になっている場所? 背が高い草がいっぱい生えている位置からメアリーの耳が覗いていた。


「あぁん? 崖に誰か居るぞ!」


 時を同じくして敵にも見つかってしまったメアリー……アヤカとメリルのと思われる土の鎖が草から飛び出しフェルティと対峙していた二人を拘束した。


「こっちも行くよ!」

「待ってください、様子がおかしいです」


 ボクの左肩を握り突撃を止めたロッティは、指に風の精霊をまとわり付かせていた。


 ロッティは精霊魔法なんて使えないのに、精霊を呼べるのかな?

 こうしている間にもアヤカ達が飛び出し、拘束した相手を気絶させて……えっ?


「「ウボォーーー!」」


 拘束された二人の村人は無理やり土の鎖を引き千切ると、奇声を上げてフェルティに襲い掛かる。盾を構えていたフェルティは盾ごと吹き飛ばされ5mほど地面を転がって倒れこんだ。抱えられていたアズリーは何とか衝撃を殺し自分の足で地面に立つ。


「おやおや、どんなネズミがかかったのかと思えば……可愛い子猫ちゃんだこと。崖の上に隠れている子ネズミも出てきな!」

「チッ、それがモータルシンの力ってとこかしら?」


 アヤカとメリルとメアリーが茂みから姿を現し崖を滑り降りてくる、ジャンヌとレオーネは隠れたままだ。


「グゥゥ…」

「ウボボッ!」


 半獣化したような姿のルナは赤黒い長剣を咥え奇声を放つ村人に苦戦している様子で、相手が隙を見せるのを待っているかのように周りをゆっくりとクルクル回っていた。


 スノウが懐から白い錠剤を一粒だして倒れているフェルティに近寄っていく?


「動くな、今動けばこの子ネズミの命は無い。貴女達二人の魔法よりそこのモータルシンプライドを飲んだ兵士の方が早いよ。モータルシンプライドは並の兵士なら知性を無くす代わりに、化け物のような力を得る事が出来る薬よ?」

「チッ…要求は何?」


 アヤカが苛立ち舌打ちをして右足をトントンさせている、一定のリズムで刻まれるその足音はまるで合図までのタイミングを計っているかのようだった。


「貴女達の飼い主のあの少女が欲しい。同じ日本から拉致された者同士、貴女を殺したくないし性奴隷にするのも心が痛むわ」

「私が肯くとでも思っているの?」

「嫌でも良い返事をしたくなるはずよ? このモータルシンラストを飲んだこの子ネズミちゃんがよがり苦しむ姿を見たらね!」


 スノウは手に持った錠剤をフェルティの口元へと運んでいく、咄嗟に飛び出そうとしたボクを後ろから抱き締め止めたのはマーガレットだった。


「待ちなさい! 分かったは、でも何でうちのリーダーなの?」

「何でって…それ本気で言ってるの? 【絶壁】が手駒になるのよ? 【絶壁】が来るまでの時間稼ぎをしたいなら交渉はここで終わりね?」


 錠剤を持った手を引くと手の平の上で錠剤を転がし、アヤカを見て微笑むスノウ。


「要点が見えないの。強い冒険者なら他にもいっぱい居る。【絶壁】の噂は殆どデマよ?」


 アヤカの迫真の演技、聞いてるボクですら信じてしまうくらい熱の篭った声でそう言うと、スノウの出方を待つ。


「まぁ、私だって八割はデマの噂だと思うわ。それでもあの黒髪黒瞳は魅力的なのよ! 王族の直系に近い黒……いいえ、アレこそがノーブルブラック。モータルシンラストを飲ませて子を量産すれば、その子供の価値はとてつもないモノになるわ!」


 両腕を大きく広げ諭すようにアヤカに言うスノウ、天使の微笑みにも似た柔らかい笑顔で話す内容は下種の極みだ。

 瞳に狂気を宿したスノウを見て吐き気がする、本当に元日本人なのか……この世界は人をここまで変えてしまうくらい過酷なのだろうか。


「カナタ、周囲に接近していた敵勢力は全部捕縛しましたよ? 敵勢力と言っても六名だけですが……」


 アンナのその声を聞き、ボクは周囲に気が行っていなかった事を思い出し肝を冷やす。

 マーガレットがボクを放し左肩に指を起きトントンとリズムを取り始める、そのリズムはアヤカの足が刻むリズムと同じだった。


「下種ね、同じ日本人として反吐が出るわ……一応言っとくけどカナタも中身は日本人よ? 殺されない事にだけ感謝しなさいね! いまっ!」


 ボクの肩を叩くマーガレットの指が止まり背を押してくれる、飛び出したボクはまず土の鎖で視界に入る敵を全て束縛する。


「なにっ!? いつからそこに、無詠唱でこの数の精霊魔法! 魔法士系のユニークスキル持ちか! その獣人の子供を殺しなさい!」

「「「ウボボボボォ!!」」」


 鎖で捉えたはずの村人三人は自分の手足が千切れるのもいとわず、立ち止まったルナを目掛けて走って行く。

 ルナなら大丈夫。そう思っていたボクが見た光景は――赤黒い長剣に右手首を切られ、村人が投げた赤黒い短剣を左腕に受けた無残なルナの姿だった。


「ルナっ!? どうして!」


 こちらを見るルナの表情は固まり、何かに怯えていた。


「うちは何をしようとしたんや、カナタ……うちを見んといて!」


 地面にへたり込み震えて動かなくなるルナ。


 ルナは何を言っているの? ボクに怯えている? 何故?


 右手首を切り落とした赤黒い長剣は再び掲げられ、村人が放った右肩から左脇腹に抜ける袈裟切りが、今にもルナを襲おうとしていた。


 普通じゃ間に合わない、絶対に守る!


「隔離結界! 【舞盾】!」

「ウボ? ウボ?」


 地面にへたり込むルナにダイヤを作る時以上に頑丈な結界を張り守る、咄嗟の思いつきだったけど何とかなった。多分結界が張れなかったらあの村人を殺していたかもしれない……

 目の前にいきなり現れた透明な壁に、思わず武器を放してノックをし始める村人。


「ジャンヌ! レオーネ! すぐに敵を拘束して、メリルあの魔薬を飲んだ村人は皆の手に余る、ラビイチを呼ぶから一緒に無力化して! あとの皆は他の敵を拘束、中央に集めて! ボクはとりあえず鎖の制御で動けない、力加減をミスすると絞め殺しそう……」

「「サーイエッサー!」」

「ラビイチ、ラビニと共闘してその村人三人をノシちゃって。一応赤黒い長剣には注意を、多分その剣に毒が塗ってある。アンナとレッティはすぐにルナとキャロラインの治療を、毒は後でボクが何とかするから傷だけでも先に治してて」

「「サーイエッサー!」」


 ボクは出るタイミングを失った二人に拘束を任せすぐにラビッツ達を呼ぶ。ラビサンに乗ったマーガレットとアリシアに意識を取り戻したアリスも姿を現した。アルフとロッティとミミアインが居ない?


「かぱっ」

「ふう、やっぱりミミアインは凄いぜ! この中の謎空間宝物庫みたいになってる。ウリボアの親と目が合った時は死ぬかと思ったけど、アイツ一応草食なのな! 大人しいモノだったぜ」


 崖伝いに歩いてきたのかミミアインが広間に姿を現し蓋を開けると、何故かアルフが飛び出てきた。少し間を置いてからロッティも飛び出してくる?


「捕まって奴隷になっていたと思われる人達の救援完了しました!」

「「「「「「えっ?」」」」」」

「「えっ?」」


 ロッティとアルフ以外の疑問の声に続き、本人達も疑問の声を上げる。

 救援ってルナとキャロラインとフェルティ――怪我をしたうちの面子の事を言ったつもりだったしロッティとアルフ以外の者もそう思ったはずだった。この二人は何をどう勘違いしたのか、どこぞに捕まっていた奴隷を救援してきたのかな?


「はっ、茶番だね。殺すならさっさと殺しな! あと、そこに隠れているゲリーとネル、こいつらを騙せても私の目は誤魔化せないよ! 出てきな」

「そりゃないぜ……」

「ゲリーはともかく、俺は助ける隙を窺っていただけだぜ?」


 ボク達は驚愕し視線を揺れた茂みに、現れた男ゲリーとネルと呼ばれた二人に移す。背後で地面を蹴る音が聞こえ咄嗟に振り向くと、スノウが鎖から抜け出し後方に高く飛び上がっていた。


「あばよっ! ゲリー、ネル、私が寿命で死ぬまで地獄で待っててくれよ? 【絶壁】の首を持って行ってやるぜ!」

「「マジですか……」」


 真ん丸の目で自分達の親分を眺めるゲリーとネル、二人はそのまま諦めたのか地面にへたり込みスノウが逃げた方角を見ていた。


 結界で捕縛を……ん、結界が展開出来ない? 動きが早くて座標が特定出来ないのかもしれない。


「馬鹿ね、カナタを害する者をラビイチとメアリーが許すわけ無いじゃない……」

「「「「「「えっ!?」」」」」」


 アヤカのその言葉を聞いた人間――敵も味方も含めた全員が唖然とし、逃げるスノウの姿を目で追う。


「あ、ラビイチが飛び上がった」


 視線の先にはいつの間に移動したのかラビイチが走っており、ラビッツ自慢のジャンプで大きく飛び上がり顔を引きつらせたスノウを尻尾で叩き落とす。かなり遠くで『うげぇっ』と悲鳴が聞こえような気がした。


 それから数分の間、森の奥から喉の奥から漏れ出たような悲鳴と、尻尾で叩かれる様な軽く乾いた音と、何かを殴る鈍い音が聞こえてきた……


「ふぅ、お待たせカナタ~とりあえず半殺しにして、治療して半殺しにして治療して半殺しにしといたよ?」


 数分後……両手を血塗れに濡らしたメアリーが、尻尾を真っ赤に染めたラビイチと共に広間に現れた。

 微笑むメアリーが引きずっているモノは、四肢が変な方向に曲がり顔をタコのように腫らしたスノウだ……と思う。


 メアリーのガチギレを見た全員が生唾を飲む、そしてメアリー……治療が一回足りない気がするよ!


 広間の中央に集めた敵勢力をアウラ縄でしっかりと結ぶ。動けないように縛った全員の足首を結び繋いで逃亡防止にする。さっきみたいな事が無いように工夫した。

 ここで敵勢力は二一人も居た事が判明する。一応スノウには一瞬治療をかけ、話せるくらいには回復させた。


 これから始まる尋問と言う名の拷問に、尻尾をフリフリさせるメアリーとラビイチ。よっぽど非時果(トキジク)の実が堪えたのかメアリーと一緒にスノウをボコッて来たラビイチはテンション上げ上げだ。


「お手柔らかに頼むぜ……」

「嫌!」


 ゲリーの懇願をバッサリ切り捨てたメアリーは、腕を回しながら手近な村人へと近づいて行った……

次話で3章が終わり幕間とSSを挟んで4章へと移る予定です。

4章では王都デビューを果たしたカナタ達一行や、屋敷に監禁されたクリスティナが動き出すお話しを予定しております!

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