SS 有用性の証明
その時ルナは!
「早く行くよアズリー」
「OK静かにね……」
甘い匂いがして目が覚める。フェルティとアズリーが黒バックからイチの実の絞り汁を取り出し部屋に撒いていた。この匂いは眠くなるやつやね。
うちはそっと気配を消し二人の背後から近寄ると、這って出口に向う二人の足首を掴む。
「「ヒッ!?」」
「うちやで? こんな朝早くからどこ行くん? ……まだ五時にもなってないで?」
左腕のスマホで時間を確認して話しかける、フェルティとアズリーは何故かこっちを向いて土下座してくる?
「ボスはカナタの嫁の中の嫁だと見込んでお願いがあります、私達を見なかった事にしてくれませんか」
「このままじゃ私達はレオーネとメリルのオマケになってしまうんです」
フェルティとアズリーの言い分を聞いて普段のカナタを思い出す。カナタは基本受身やから自分から関わって行かないとダメや、グイグイ押されるのに弱い、そう言う意味ではマーガレットは強い……多分クリスティナも強い。
「多分カナタは全然に気にしてないと思うけど、その意気うちは好きやで? うちも手伝ったる!」
「「え゛っ……」」
こちらを見る二人の顔が凄く歪んだ。うちの事を信用できへんって言うんかな……
「嫌なら皆を今すぐ起こすで? 多分カナタ辺りは危ない事したらアカンって言うやろね……」
「全! 然! 助かります! ボスの力を借りれるならオークキングでもフライングラビッツでも何でも倒せそうですよね!」
「でも、私達の有用性を証明するにはボスの力が大き過ぎるような……」
不安そうな二人の顔を見てうちは分かった。確かに三人やと早く用事も済む、だけど手柄も三等分や、うちは手柄はいらんから新たなラビッツ供給の伝手を作る事にする。
あと――フライングラビッツってどんなのかな? 空を飛べるやつかもしれない、うちも飛べるから空中戦やね! どれくらいの大きさでどんな味がするのか…これはこの作戦が終わった後フェルティを問いたださないといけない。うちは深く心に刻んだ。
「大丈夫やで? うちはこっそり手伝うだけや。うちへの報酬はフェルティとアズリーが狩りで得たラビッツを持って来るだけで良いで? ちゃんとラビッツに対する報酬も出す」
「「それならよろしくお願いします!」」
「ん~むにゃむにゃ、あっ、カナタそんな、ダメっ……」
「「「!?」」」
メアリーの寝言やね……うちら三人揃って背筋が伸びた。それにしてもメアリーの緩みきった頬とカナタの足に絡みついた足……どんな夢見てるんかな?
「それではボス、私達が先に出て外に居る二人に連絡を取ってから怪しい場所を探すので、後で隙を見て抜けてきてください、ボスなら匂いを辿って追いかけてこれますよね?」
「昨日アヤカが言っていたあれやね……本当にここで魔薬の栽培されてると思うん? ラビイチが食べたのもたまたま生えてたやつかもしれんで?」
「昨日ノアの箱舟に戻る前のマリヤにチラッと聞いたんですが、無花果は普通に生えても非時果は絶対普通には生えないそうですよ? 育成の条件は多数あるらしいですけど絶対条件は魔物を苗床とする、これは確実らしいです。多分ラビイチが食べた非時果の実も木の根元掘ったら魔物が出てきますよ?」
フェルティとアズリーの話しを聞く限りおっかない植物や。プテレアも日々伸ばした蔦と蔓を使って奈落の穴の縦穴に飛んでる魔物を狩ってるって言ってたし、非時果にもスプライトかドリュアスが宿ってるのかもしれない?
「ふむふむ、とりあえずアンナとレッティにナイショで連絡取った後うちにもメールしてや? すぐにばれるとダメやからサーベラス召喚して二人のタイガーベアの毛皮に潜り込ませとくで?」
「さすがボス! 私達の考え付かない事をすぐに思いつく! 大好きです!」
「さすがカナタ嫁筆頭! 今日も尻尾が綺麗ですね!」
「そんなに褒めても何も出えへんで、皆が起きる前に出て行かんと止められるから、早く行くんやで? 【一匹の犬の戦い】! サーベラス静かにな」
「ワン?」
うちはサーベラスを召喚するとフェルティとアズリーの寝床へ抱っこして連れて行き毛皮を被せる。
サーベラスは抜け出してうちの毛皮に入り込もうとするので大変やった。
「「行って来ます~」」
うちは目を瞑り寝たふりをして……気が付いたら眠っていた。
――∵――∴――∵――∴――∵――
目が覚めるとサーベラスがいつの間にか枕になっていた。うちは焦って部屋の中を見回す、皆起きて外に出る準備をしていた。
うちは何も知らない、うちは何も見ていない、心の中で自分に言い聞かせると、そっと後ろから着いて行く。
1Fに下りたところで知らない気配がこの家を囲んでいる事に気がついた。でも敵意は無いし良い匂いがする、一応カナタに注意を促すとカナタが外に飛び出していった。
「ルナ? 何かあったの? 妙にソワソワしてない?」
「何でも無いよ!?」
「ふ~ん……」
危ない、キャロルにばれるところやった。うちが何でも無いと言い首を左右に振ると、サーベラスが真似して首を左右に振っていた。
外に出ると庭でテーブルを広げて朝食の準備をする人達が居た。皆土木に汚れたローブを頭からすっぽり被っている……師匠の方が作りが良いし、背景との見分けがつかなかったからこの人達はまだまだやね。
左腕のスマホを見てメールが来て無い事を確認する、来たらすぐに出発する為に何か言い訳考えんとダメやね……
「ルナ~このベーコン美味しいよ? 一緒に食べよ」
「ワンワンッ!」
気が付くとうち以外皆テーブルに着きご飯を食べていた。危ない、目立つ所やった。うちはベーコンを頬張るキャロルとサーベラスの隣に座るとご飯を食べながら作戦を練る……
うまっ!? 何このベーコン美味い、ブレードラビッツには勝たれへんけど、なかなか良い線いっているで!
うちは夢中になって朝ご飯を食べると食後のカナタミルクを飲んで一服する、何か忘れてるような……
「ん? ブルブル震えた?」
「どうしたのルナ? メール着てるみたいだけど見ないの?」
危ない、朝ご飯に夢中になって忘れてた。素早く画面を確認するとアンナとレッティからのメールが着ていた。
「お腹減った。至急ご飯求む? ふむふむ……ちょっとそこのおっちゃん? ベーコンと硬パンと薬草ってまだある?」
「おっちゃんじゃねえよ! オレはまだ若い……と思っている。何だよ――お前は!? えっとベーコンと硬パンと薬草だなすぐに持ってこさせる、待っていろよ」
うちの顔を見て顔を青ざめさせるおっちゃん。何か変なモノでも食べたのかな? 逃げるように走り去っていく……気のせいか懐かしい匂いがしたような? 土木で汚れたローブが臭い所為で良く分からんかった。
すぐに別の人が食べ物を持って来てくれたのでサンドイッチを作る事にする。
硬パンを浄化・清掃したカナタナイフで半分に切り、開いた中へスライスしたベーコンと薬草を挟み、隠し味にうちオリジナルケチャップを少し入れる……完成したサンドイッチをプテレアの超乾燥蔓で編んだ籠に入れると黒バックに収納する。この超乾燥蔓は食べるが出来ないくらい乾燥させて繊維状にした蔓で編んであり、そこら辺のなまくらじゃ切っても切り傷一つ付かないくらい頑丈らしい、プテレアが言ってた。
問題はここからやで……どう言って抜け出すかが問題やね。
「ルナ? どうかしたの?」
考え事をしているとカナタに肩を叩かれた! 頭が真っ白になる、とりあえず外に出れたら何でも良い。
「! う、うちは眠ってたで? 何も見てないし知らんで? ちょっとラビイチの様子を見てこなあかんから先に出てるな、皆ゆっくりしてきてや?」
「私も行きます! サーベラス!」
「ワンッ」
うちは制止の声が放たれる前に逃げるようにして走り出す、キャロルとサーベラスが付いてきたけど問題無い、うちの嫁は優秀やしサーベラスも最近火をえずかずに吐けるようになったから強い。
ちょっと全力で走るとすぐに門に辿り着く、立っていたおっちゃんに挨拶して外に出る。何故かおっちゃんはうちの顔を見てさっきのおっちゃんと同じ反応をしていた? このおっちゃんとさっきのおっちゃんは何故か少し懐かしい匂いがした気がする。
うちとキャロルとサーベラスは森を走る。出合った頃のキャロルじゃ追いつく事は愚か後を追う事すら出来なかったはずやけど、カナタの眷属になってから動きが目に見えて良くなって来た。今じゃあ変身を使わなくてもうちと同じくらいの速度で走れるみたいやね。
「はぁ、はぁ、ちょっと、待って! サーベラス乗せてって!」
「ワン?」
同じ速さで走れるけどスタミナはまだまだやね……キャロルがサーベラスに跨って追って来る、皆何も言わないけどサーベラスは最近大きくなってきていた。キャロルとうちが一緒に乗っても多分走れるくらいのサイズやと思う。
「痛っ! お、お尻が割れる! 待ってサーベラス何で毛で私を固定するの!? 振動が直接お尻の骨に!?」
サーベラスは乗った者が落ちないように毛を伸ばし固定出来るみたいやね、飛び跳ねるたびにキャロルが悲鳴を上げていたので乗りゴゴチは悪そうやけど……
「見えたで! 森に出来た広間、アンナとレッティが居るはずやで!」
「サーベラス、ゆっくり、もっとゆっくり走って!」
「ワン…」
キャロルが無茶を言いサーベラスが首を傾げていた。
森を走っていると急に視界が広がる。広間の中央には木を適当に組んで押しつぶし、大きめの葉っぱを敷き詰めたなかなか座り心地の良さそうな巣が作ってあった。勿論その巣に居るのはアンナとレッティで、ラビッツ達は巣の手前の地面から頭だけを出して眠っていた。
巣の周りを三方向囲む様に立っているアルフとユノとユピテルは、ちょっと疲労困憊って感じやね。
「朝ご飯が来た! 交代してくれ、もう無理だ……ここに出る魔物、食べれるのばかりなのは言いけどちょっと強いぜ?」
「「ごめん、ボスお腹すいた」」
「良いよ良いよ、ユノとユピテルから交代でご飯食べると良いで? アルフは食べ終わったら交代やで」
「マジでか……」
アルフは愚痴を言いつつもちゃんと周りを警戒している、アンナとレッティに先にサンドイッチを渡すとユノとユピテルにはサンドイッチと特製ラビッツの燻製を渡す、勿論アルフの分もある。
「で、フェルティとアズリーはどっち行ったん?」
「この村の反対側に洞窟があって結構奥まで広がってるみたいですよ? ボスなら匂いで追跡出来ると思います」
「カナタには内緒だからね? 男三人も絶対話しちゃダメだからね! 私達が洞窟見つけてあの二人に連絡した事は内緒だからね!」
アンナが指差す方向を見る、村やね。村の反対側まで回らないといけないみたいで、ちょっと急がないといけない。
レッティはあの二人だけの手柄にしたいみたいで、うちらも異論は無いので皆で肯く。
「ラビイチ、お腹大丈夫なんかな?」
「ラビラビ!」
「「ラビラビ!」」
うちの声が聞こえたのか眠っていたラビッツ達が一斉に地面から出てくる、体に付いた土を生活魔法の水で落とすとブルブル震えて水気を飛ばしていた。
すぐ側に居たアルフがずぶ濡れになっていたけど、ラビイチが使った生活魔法の微風で一緒に乾かしているみたいやね。
「何かラビイチがついでに洗ってくれてるんだが……ラビッツって生活魔法使えるのな」
「一晩守ってくれたお礼やと思うで?」
「ラビ」
「そろそろ移動した方が良いと思うの」
キャロルはそう言うと、サーベラスに跨ったままで自分のお尻の下に丸めた毛皮を置き、位置を確認していた。
「それじゃあ行ってくるで~」
「おう、朝ご飯ありがとな! ん? このベーコンめっちゃうま! この甘い香りは……えっ!?」
「ボス……これウリボアの子供のベーコンじゃないですか……あっ!?」
「ちょっとまずくない!?」
「「ウリボアの親が来る!?」」
「「「「「アッーーー!!」」」」」
走り出したうちらの後ろで皆の悲痛な叫び声が聞こえたけど、何かあったんかな?
うちとキャロルは首を傾げて村の反対側の洞窟を目指す、生活用水を取る為か、村のバリケード側には溝が掘られてどこかの川か湖に繋がっているみたいやね。
うちらが溝の横を走り、村の反対側に回った頃にはフェルティとアズリーは洞窟に入ってしまったみたいで、洞窟前には誰も居なかった。
「暗いから灯火でも蹴りながら進む?」
「明かりの生活魔法の方が明るくて良いと思うわ」
うちとキャロルはそれぞれ別の生活魔法を使い洞窟へと足を踏み入れた。
「ワンワンワン~」
「サーベラスも来るんやで!」
「クゥ~ン…」
入り口で座り込み日向ぼっこを始めようとするサーベラスを抱えると、先行する二人を探し始める。
――∵――∴――∵――∴――∵――
おかしい、途中まで足跡が二人分だけやったのに……今はいっぱいある、それもサイズがバラバラで色々な匂いがする。
うちらが洞窟に入ってすぐにおかしな事に気が付いた……キャロルが。
「住居? 魔物どころかラビッツすら生えていませんわ……」
「クゥーン」
尻尾を丸めてうちの尻尾にまとわり付いてくるサーベラス、どうやら暗い所が怖いみたいやね……
キャロルの話しによると、この洞窟は人が沢山住んでいる可能性があるらしい。
「フェルティかアズリーに電話するで?」
「了解、私はちょっとお花を摘みに……サーベラス一緒に来て?」
何故かキャロルが洞窟で花を探し始めた。サーベラスを引っ張るように連れて行って、今見つけた分かれ道の狭い方へと進んでいく……すぐに足音が止まった?
「ルナ、耳塞いでて?」
「耳? 分かったで、敵が来ないとも分からんから早く戻ってきてや?」
うちは耳を閉じると電話が出来ない事に気が付き少し焦る。キャロルに声をかけようとしてニオイに気が付き思いとどまる。
「ふぅ~ルナもう耳良いわ」
何食わぬ顔で戻ってきたキャロルは、うちの閉じた耳を起こしてくれた。
「うちもオシッコ行ってくるから待っててな!」
「なっ! 何で……あ」
うちが鼻をヒクヒクさせると真っ赤になったキャロルがサーベラスの背中を撫でていた。うちは何が恥ずかしいのか分からない、狩中に漏らすよりマシやと思う。
「あれ? 戻ってきた。ボス?」
うちがキャロルと同じ場所で用を足して居ると、道の奥からフェルティとアズリーが歩いてきた。気配で知っていたけど少し恥ずかしい……うちはさっきキャロルが顔を真っ赤にしていた理由が分かった。
「ちょっとだけ後ろ向いててや…」
「「サー!」」
無言になり三人でキャロルの所へ戻る、分かれ道の分岐点ではサーベラスと一緒にもう一方の道を警戒するキャロルが居た。来た道も警戒していないと危ない気がする。
「おかえりー? 合流出来たみたいね」
「何か見つかった? うちら今入ってきたところやけど」
ニンマリと頬を緩めるフェルティとアズリー、取り出したのは非時果の実? ニオイが甘くないから無花果の実じゃないと思う。
「これと瓶に入った錠剤が大量に隠してある部屋を見つけました! どう見ても、コレが魔薬ですよね?」
「大手柄やね! フェルティとアズリーはそっちの道から来たん?」
「ボス達と同じで入り口から入って来ましたよ? 右に曲がってからくるりと一周して戻ってきました。左の道も行って見ます? 欲を言えばもう一つくらい手柄が欲しいですね!」
「欲張り過ぎだと私は思うけど……それも有りだと思う私も居る!」
フェルティの提案にノリノリのアズリー、キャロルとサーベラスが先ほどから左の道を見張っていたので何も無かったか一応聞いてみる事にする。うちの鼻には他人のニオイは引っかからないので多分大丈夫やけど……
「キャロルはどう思う? うちも左の道行ってみたい」
「良いと思うけど十分注意して進んだ方が良いかも、どうやらこっちの道に足跡が続いてみるみたい……」
「「なら行きましょう!」」
変なニオイも気配もしない、多分大丈夫やね。うちらは左の道を進む事にする。サーベラスの反応が少しおかしい、しきりに足跡のニオイを嗅いでいる? 何故か先頭を歩き始めたサーベラスの後を追うように奥へと進むうちら。
「ん? 今ピリッっとしたで? このニオイは……」
「これは……結界? 何かマズイ気がしますわ」
「「大丈夫~大丈夫~」」
ピリッっとしてから空気のニオイが変わった。非時果のニオイに混じる人の臭い……獣の臭いがする。
「牢屋? 黒鉄杉で出来た牢屋が有ります! 中に誰か入っている……?」
「下がっときや、これは良くないやつやで……」
「うぐっ、この臭いは……るなぁ」
フェルティが見つけた牢屋を覗き込んだキャロルはうちの左手にしがみ付いてくる、牢屋の中には壺が一つと毛皮が敷かれた木のベットが一つ、ベットの上には裸で横たわる女の人が居る。
「どう見てもあの人…普通の状態じゃないです、それにこの臭いは……」
うちは無言で牢屋の鍵を爪で引き裂き扉を開ける。取ってが無いので格子に手をかけ引っ張ってみるけど開かない……押してみても開かない?
「多分横? こっちにも牢屋がいっぱいある! これは……カナタに連絡した方が良いと思います」
「!? 横にズレたで!」
アズリーが奥に進み次々と牢屋を発見していく、うちは一つ目の牢屋に入り横たわっている女の人に【治療F】を使う。
横たわったまま瞬きをする女性、その視線はどこか遠くを見ているかのように焦点があっていない。
何の反応も返さない女の人にうちは嫌な予感を覚えて牢屋を出る。
「るなぁ……もう戻ろ? これ以上は良くないと思うわ。カナタを呼んでからにしましょう、魔薬の依存症状が出た人をいっぱい牢屋に閉じ込めてるなんておかしいの」
「グルルルゥ!」
「逃げて!!」
急にサーベラスが唸り声を上げるとアズリーが向かった通路の先を睨み始める。一緒に向ったフェルティが叫んで走ってくる?
「キャロル! 退路の確保頼むで!」
「了解! ルナも無茶しないでね?」
通路の奥、曲がった角からアズリーを抱えたフェルティが飛び出してきた。フェルティが抱えたアズリーは右足が無かった。サーベラスが走り寄り、フェルティの後ろへ火を吐くと一緒に戻ってきた。
「何があったんや!? 取りあえずうちが一番後ろで走るから先行ってや!」
「虚ろな目で赤黒い長剣を持った村人が! アズリーが声をかけたらいきなり切られた! 足と装備は持ってる!」
フェルティは息絶え絶えにそれだけ言うとうちをすれ違いキャロルの後を追う、抱えられているアズリーは自分の足を抱き締めており、CNT製サイハイソックスを装備した足をギリギリ根元で切られていた。装備の無い少しの地肌を狙われたみたいで、うちはそれだけの事が出来る敵やと認識を改める。
「グルルルルゥ! ガォー!!」
「下がっときや」
すぐに通路の角から敵が姿を現す、土木に汚れたローブを着ている村人が両手で長剣を握りこちらを睨みつけると飛び掛ってくる。
「ガァー! オッエ!?」
サーベラスが火を吐くとえずき、涙目でこちらを見てくる。今日の火はお終いみたいやね……
「ウボボボ」
「ハァッ!」
右手の爪を少しだけ伸ばすと奇声を上げ飛び掛ってくる男の長剣を横から叩き落とす。違和感を覚えたうちが右手を見ると、爪の先が黒くなりボロリと折れた!?
「毒や! サーベラス逃げるで!」
「キャイーン!」
一人で戦うには危ない相手や、うちの感がそう告げる。サーベラスと一緒にすぐさま踵を返し撤退する。
「ウボーーー!」
背後から奇声が聞こえる、走りながら振り向くと長剣を口に咥えて両手両足を地面に付けG虫の様に這い寄って来る男が見えた。怖い……
「全力疾走やでーーー!!」
「キャイーーーン!!」
足にめいいっぱい力を込めると地面を蹴る、横でサーベラスが悲鳴をあげ、ブツを漏らしながら走っている。うちは緊急事態なので何も見なかった事にする。
「ウボッ!?」
「あっ、滑った」
ブツを踏んだのか掴んだのか、後ろから追ってくるG虫男が滑りこける。
光りが見える、外に出れる! 左手が震えてスマホ画面が浮き出る、この反応はEMC?
「嬢ちゃんで最後だな? おいっ、絶対逃がすなよ! 魔薬漬けにして一生飼ってやるぜ!」
「るなぁー!」
「待ち伏せされてました。あの結界でバレタみたいです……」
洞窟を出てうちが目にした光景はアズリーを抱え傷だらけになったフェルティと、ラビッツレイピアを構えてフェルティの背後を守るキャロルだった。
キャロルの足には黒く染まった刺し傷があり足元に赤黒い短剣が転がっている、左手で治療をかけているみたいやけど傷が回復していない。
「なに、してるんや……」
全身がザワザワする、爪が、牙が伸びてくるのが自分でも分かった。
「フェルティとアズリーはカナタの嫁や! キャロルはうちの嫁やで!!」
視界が赤く染まる、全身が熱い、尻尾が膨らむ。
「ガァァァァァッ!!」
うちの喉から知らない声が出る、体が勝手に動く、目の前の獲物を狩れと――
「るなぁー!」
うちは動き出す、目の前の獲物を狩り殺す為に……




