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ボクが異世界?で魔王?の嫁?で!  作者: らず&らず
第3章 トランジションステージ
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第83話 無花果と非時果?

「ホーッホッケキョー」

「んん、ん? もう朝か……」


 いつもと違う天井、何も置いてない空き部屋、知らない鳥の鳴き声……この部屋には窓が無い。


 昨日は村に入って少し歩いた場所にある古ぼけた2F建ての倉庫のような家で、スノウの晩御飯を用意するという申し出を断って皆揃ってすぐに眠った。


 眠る前にアヤカが何故かボク以外の面子を集めて何か相談していたけど……ボクは退け者にされ一人1Fの扉や窓を厳重に結界で覆い開かないようにしていた。


「んごぉ」


 背後からイビキが聞こえて振り向くと、ルナがサーベラスを枕にして眠っていた。サーベラスはノアの箱舟で待機していた筈なのにルナの【一匹の犬の戦い】で召喚されたのだろうか?

 謎の多いスキルを持つルナだからそんな事も出来るのだろう、視線を戻しかけてふと思いつく。大型の犬猫が寝そべってそのお腹を枕に眠る構図は良く漫画で見たけど、あれって苦しくないのだろうか? サーベラスの表情を見る限り問題は無いように見えるけど……


 ルナとサーベラスとキャロラインが壁よりで眠っている、ボクの横にはメアリーとレイチェルが寄り添って眠っていて、周りを囲むようにジャンヌとマーガレットとロッティが眠っている、そのまた回りをアリスとアリシアとアヤカが囲み入り口の前よりにメリルを抱き枕代わりに眠るレオーネが居た。


「フェルティとアズリーが居ない? 皆起きて」

「ピスー、プスー」


 暢気に可愛いイビキをかくメアリー、スマホを見るとまだ六時だった。

 皆が起きない? 余程疲れていたのか声をかけても肩を揺すっても誰も起きなかった……


「これは、何か良くない事になっている気がする【解毒D】おっ効果があった!?」

「ん、んん、もう朝~?」


 メアリーに【解毒D】を使うと身動ぎした後意識が覚醒してくる、どうやら皆は睡眠系の毒で眠っているようだった。

 すぐさま全員に【解毒D】を使うとこの倉庫の外の様子を窺う、どうやらフェルティとアズリーはトイレにでも行ったのか、タイガーベアの毛皮はまだ暖かかった。


「良く分からないけどフェルティとアズリーが居ないトイレかもしれないけど……少なくともこの倉庫の中には居ない」

「早く見つけてこの村を出ましょう、やっぱり変だわ!」


 いつに無く焦るアヤカ、現状ボクに分からない何かに気づいたのだろうか?


「そう言えば昨日アヤカが何か言いかけてたし、ボク退け者にされた気がするんだけど、何かあった?」

「やっぱり気が付いてなかったんですの……昨日はあのスノウパンサーと意味の分からない言語で喋ってましたわ」


 皆装備を整えすぐにでも出発出来る様に準備を終えた。後はフェルティとアズリーを探すだけだ。


「もうかりまっか? ってやつなら大阪弁と言って……ん? 名前分かったのに他は分からなかったの?」

「名前だけ聞き取れる言語でした」


 ギルドのサブマスターに就いていたマーガレットが聞き取れないって事は、日本語で話していたのは確実だとして、何故名前だけこっちの世界の言葉?


「偽名だと思うわ、あと相当レベルも高いと思うの……」


 キャロラインはルナを抱えるとサーベラスと一緒にボクの側に歩いてきて答える。


「スノウパンサー……雪豹? ひょう、氷、平、兵……兵藤雪さんだったりして」

「惜しい、【鑑定S】によると豹屋敷雪さんね。アヤカ初めて聞く苗字だけど……」

「いや、猫屋敷って苗字が有るんだから豹屋敷が有っても問題無い気もする? とりあえず怪しいのは分かったけど、何で睡眠毒を盛られたかってのが今の問題だよね?」


 皆ウンウン良いながら考え中……不意にレオーネとメリルが何かに気が付いたように立ち上がる。


「「抜け駆け」です!」

「はぁ?」


 レオーネの自信に満ちたその瞳は、フェルティとアズリーが抜け駆けしていると確信している様子だった。メリルもそうだったけど……何で抜け駆け?


「私には分かる。あの二人は悩んでいた」

「悩む? 何を?」

「カナタには分からない、自分の有用性を証明出来ない者の惨めさが」

「えぇ!? 何それ、ボク全然気にしないよ?」

「カナタはそう、だから皆焦る」


 メリルは力いっぱい拳を握ると真っ直ぐボクの目を見て答えた。


「つまりカナタがヘタレだからダメなんだとアヤカは思うわ。全員抱けば良いのよ?」

「ふぇっ!? で、でも、焦るって……レオーネとか落ち着いてるよね!」

「私はいざとなったらカナタを押し倒す覚悟ですよ?」


 思わずレオーネの目を見る、大丈夫だ……肉食獣のソレにはなっていない、でもトロッとした優しい瞳についつい甘えたくなるようなそんな雰囲気をしていた。


「カナタはまだまだ青いですね! マーガレットが肉食獣なら、レオーネは食人植物ですよ? もう捕まったら最後カラカラになるまで搾り取られ――って痛い、痛いです! 指が頭にめり込んでますよ!?」


 物騒な事を言い始めたロッティの頭にブレーン・クローを決めると右腕の力だけで持ち上げるマーガレット……口は災いの元だね。


「兎に角探すわよ? メールに反応が無いって事はちょっと大変な事になってるとアヤカは思うの」

「すぐ反応出来る時と出来ない時があるような……」

「「「「「「それはカナタだけです!」」」」」」


 そうですね、そもそもスマホとか電話やメールのやり取りする相手が居ないとただの情報端末ですよね……


「囲まれてるで!」

「むむ、とりあえず結界張ったよ? ここ窓が無いし外に出ようか」


 歩く度にギシギシと酷い音がする階段を下り、1Fの物置を抜けて玄関へと移動する。幸い玄関の結界は破られては居ないようだった。


「いつ見ても見事な結界。私とカナタとの子供が生まれたら史上に残る魔法士になる」

「将来ね……」


 ボクの腕に抱き付きニヤニヤと笑うメリル、こちらを見てニヤニヤするレオーネ。


 あ、アヤカがレオーネに近づいて肩を叩いた? 何故かガッチリ握手をする二人……ニヤニヤと笑うアヤカ、何か凄くイヤな予感がする。


「とりあえずボクが外を見てくるから待機してて、皆いつでも動けるように。もしもの事があったらEMC使って村の外集合で!」

「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」


 コンコンっと外から扉を叩く音が聞こえる、皆に緊張が走った。

 そっと扉に張った結界を解き扉ごと外にタックルで飛び出たボクを待っていたのは……


「ノックはあったのに誰も扉の前に立っていない? 面妖な……」


 倉庫を囲むように5mほど離れて例の土木で汚れたローブを頭からすっぽり被った人達が立っていた。


 ――手に料理が乗ったお皿を持っている??


「お、おはようございます……建付けが悪いのは分かっていました。お気にせず……」


 開いた扉の後ろからスノウの声が聞こえてくる……どうやら開いた扉でプレスしたようだ。

 それにしてもどう見ても朝食の用意を持って集まっている村人、何が何だか分からなくなってきた。睡眠毒を盛ったのは村人じゃない? フェルティとアズリーはどこへ……?


「えっと、ごめんなさい? あの……何用で?」

「昨晩はご飯も食べずに眠ってしまわれたので、せめて朝食はと……この村の慣わしで皆揃って庭で食べるのが習慣なんのですが」


 後ろを振り返り両手を振る、拍子抜けした皆は倉庫の外へ出てきた。一応何があっても対応出来るように皆マントの内側に己の獲物を隠している。


「スイマセンでした……ちょっと寝ぼけていたようです」

「いえいえお気になさらずに、どうぞ席を用意させますので」


 扉にプレスされたスノウを助け出すと庭と呼ばれる場所へと案内される。途中村の中を地図で確認してみた所フェルティとアズリーの反応は無かった。どこに行ったのかな?


 朝食はいたってシンプルな分厚く切って焼いた謎の肉ベーコンに生で食べれる薬草のサラダ、それと小豆に似た豆が沈んでるスープと因縁の硬パンだった。



『ウリボアのベーコン(焼)』

ウリボアの子供の肉で作ったベーコン、栄養価が高く葉物の野菜と少量の穀物があればこのベーコンだけで生きていける。



「ウリボアの子供の肉で作ったベーコンか……うまっ! 脂がフルーツみたいに甘い、この薬草サラダの苦味がマッチしてなかなか良い感じ、ドレッシングがかかってないから心配したけどこれならベーコンと一緒に食べれば十分だね! 硬パンは歯が立たないけど……」

「通ですね、一見してコレがウリボアの子供のベーコンだと分かるとは、大人のウリボアは独特の臭みが出てくるので慣れてない者には出さないようにしてるんですよ」


まぁ左目で見た結果なんだけどね、アヤカも一応出される食べ物は全て鑑定してから食べているみたいで、ボクが他の皆の分も左目で見てアイコンタクトを送ると皆食事を開始していた。


 食後にメアリーが黒バックから出したカナタミルクを飲んでいると、ルナが妙にソワソワしていたのでそっと肩を叩いて話しを聞いて見る。


「ルナ? どうかしたの?」

「! う、うちは眠ってたで? 何も見てないし知らんで? ちょっとラビイチの様子を見てこなあかんから先に出てるな、皆ゆっくりしてきてや?」

「私も行きます! サーベラス!」

「ワンッ」


 挙動不審ここに極まりと言った感じのルナは、右手と右足、左手と左足を同時に前に出し怪しい動きでボクから離れると村の外へ向かって走っていく。追いかけるキャロラインとサーベラス。


「怪しい、怪し過ぎて逆に清々しいくらいだね……」


 メアリーはそう言うと少し考え、何かに納得してこちらを向きなおすと『多分大丈夫』と言った。


「あっ! そうだった。スノウさん? 村長さん? どっちが良いのかな」

「スノウで結構ですよ? 何か?」


 一緒のテーブルでご飯を食べ食後のカナタミルクを飲んでいたスノウは、ボクの質問に答え小首を傾げる。大柄で結構筋肉のついた身体をしているスノウには少しミスマッチな仕草だ。


「その、お礼とかお代とかそんな感じの事を相談なんですが……」

「必要ありません。外とほとんど交流も持たないこの村に、偶然やってきた旅人など数年振りなので」

「いえいえ、流石にそれは悪いし十分な休憩が取れましたのでその御礼をしたいです」


 ボクがそう言うとスノウは自分の頬に人差し指を当てて考え事を始める。若干見た目アマゾネスなスノウがすると迫力があり結構ミスマッチな仕草だ。


「行商人の真似事などいかがでしょうか? こちらがこの村の特産品なのですが、何かと交換か買い取ってもらえるとありがたいですね」


 スノウが側に立っていた護衛の人に手を指し伸ばすと、護衛は腰のポーチから無花果の実を取り出しその手に乗せ一歩下がる。スノウはそのまま手をこちらに差し出してきた。



『無花果の実』

 栄養価の高い果実。


 ちゃんと確認してみると無花果の実で間違いない。緊張して固まっている皆の誤解を解く為に、差し出された無花果の実を生活魔法で出した水で軽く洗い二つに割って食べる。


「もぐもぐ、美味しい無花果の実ですね。市場で見なかったのでこっちには無いのかと思ってましたが」

「こっち? 無花果の実はその見た目と毒を持つ似た植物のおかげで食べる者はほとんどおりません。栄養のある果実なんですがね……」


 残念そうな顔で無花果の実を見るスノウ、隣の護衛がボクの手に残った半分の実を見て喉を鳴らす。よっぽど無花果の実が好きなのかな?


「こちらは保存食に最適な乾燥カナタ芋の蔓でどうでしょうか? 水で戻すと煮物焼き物何でも有りな美味しい蔓に戻りますよ!」

「是非是非! すぐに無花果の実を用意させますので、生の物と乾燥した物どちらが良いでしょうか?」

「生の物を大目に少し乾燥した物くらいでお願いします、あとこちらが出せる量は最大でこれくらいなので見合った量を貰えれば嬉しいです」


 ボクは黒バックから王都で卸してくるようにプテレアに頼まれた乾燥カナタ芋の蔓を二束ほど取り出しテーブルの上に置く、乾燥蔓の長さは50cmくらいで一束の直径が30cmほどあるのでかなりの量になる。

 スノウは目を輝かせてすぐに準備を始める。すぐに荷押し車みたいな物に乗せられた無花果の実と透明な瓶に入れられた乾燥無花果が大量に用意された。


「凄い量…アヤカとカナタで全部見るのね……」

「分かっているようで助かったよ、後でアヤカもマッサージする?」


 ボクが聞くとアヤカは顔を真っ赤にして手に持っていた無花果の残り半分にかぶりつくと、小さく肯いた。

 二人で手分けして実を選別していく、非時果(トキジク)の実が混じっていると後で大変な事になるので念入りに行なう。

 優雅に食後のカナタミルクを飲む皆、実一つ一つを手に取り黒バックに入れていく作業を行なっているボクとアヤカ、村人は何故二人だけで作業をしているのか首をかしげてこちらを見ていた。

 物が小さい無花果の実とは言え、数が多かったので軽く二〇分くらいかかってしまう。ボクは受け持った全ての実を黒バックに入れ終わりアヤカの方も手伝い作業が終わったのは食後三〇分といったところだろうか? 幸い非時果(トキジク)の実は混じっていなかった。


「それではボク達は先を急ぎますので、また機会があれば立ち寄らせて貰います~」

「はい、あなた達の行く末に幸多き事を」


 スノウは胸元から出した天使を象った石の十字架を少し掲げて、まるで呪文のように言った。

 その像を見たアヤカの反応が、見ているボクの方が心配するくらい狼狽していたのは何故だろうか?


 皆揃って村の入り口門へと歩いて行く、昨日は暗かった為気が付かなかったけど道の端には必ず薬草が植えられていた。

 門まで送ってくれたスノウに手を振ふると、アンナとレッティにメールで集合地点を指示し歩き出す。

 すぐにアンナからメールの返事が来たけど……内容がおかしい。


「メールの件名は……ルナとフェルティとアズリーが危ないかも、私とレッティはもっと危ないかも、早めに来て。これは……件名と本文間違えてるよ!?」


 誰もがやってしまう初歩的なミス、しかし今はそれどころじゃない可能性がある。


「皆走るよ! アンナとレッティが何かに襲われてる、後ルナがフェルティとアズリーと共に村の反対側にある洞窟に入ったらしい! キャロラインとサーベラスの事が書かれて居ないのが気になるけど先にアンナとレッティに合流するよ!」

「むむむ、二手に分かれた方が良い? アヤカと何人かで先に洞窟に向う?」


 ふむ、冷静に考えると全員で合流に向うより二手に分かれた方が効率は良い。焦りが判断を誤らせていたようだ。


「それじゃあアヤカとメアリーとジャンヌとレオーネとメリルは先に洞窟に向って、でも必ず入らずに待っていてね! すぐに合流して向うから、残りの者は一緒に合流地点へ向うよ! 地図を見る限りじゃアンナとレッティも移動しているからまだ平気だけど……急ぐよ!」

「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」


 走り始めてすぐにへんな気配が現れた事に気が付く。強力な魔物? それにしては気配が小さいような?


「グォォォォゥン!!」

「合流地点からです!」


 謎の雄叫びが聞こえる、運が悪い事に合流地点に指定した少し木々が無くなっている場所からだ。


「ラビッツ達も居るし大丈夫なはず、でも急ぐよ!」

おや……アダマンタイトミミックの様子が……?

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