第82話 未開拓地の村
日も完全に落ち、月明かりだけが光源となった真っ暗闇の中、ボク達は山間の村へ急遽寄る事になった。
マーガレットは大丈夫だと言っていたけど、ルナの調子が悪いのと……昼間の休憩中に道木を食べたラビイチのお腹の調子がおかしいからだ。
普段ラビイチ・ラビニ・ラビサンはコロコロと可愛い程度しかしない、食べた物の栄養をほとんど全て吸収して残ったカスが少しだけ出るとの事らしい、だけど今日は違った……
周囲の偵察から帰ってきたラビイチは休憩していたラビニ・ラビサンに何か鳴いて注意を促すと、横に倒れて100kgほどのブツをひねり出した。
ボクは思わず悲鳴を上げそうになり、真横に居たキャロラインの『ぎゃーーーー○×△!?』という奇声を聞いて我に返り、ラビイチに【治療C】と【解毒E】を連続使用する事になった。
【解毒E】がDランクに上がった所で症状がマシになったので、すぐさまノアの箱舟をスマホに収納し、ジャンヌとアンナとレッティがラビニとラビサンを手伝いラビイチを持ち上げると全員で休憩場所を移動した。かなり危ない状態だったらしく、ラビニとラビサンが大泣きしながらラビイチの顔を舐めていたのが印象に残っている。
夕暮れ時の森をノアの箱舟で移動せず歩くのは危険との判断を下し、マーガレットが地図で発見した小さな村へとボク達は足を運ぶ。
ちなみに非戦闘員のフェリとミリーとロニーは、スマホに収納したノアの箱舟の中で待機したままだ。
村へと向う途中、道にイチジクの木が生えているのを発見したボクは、何故か花が咲いていたけど実がなっていたので取って食べて見る事にした。プチプチと粒を噛む食感と口の中に広がる芳醇な果肉の香り……しつこ過ぎない丁度良いくらいの濃厚な甘さ、美味しい! もっと食べたい。
視線に気づき皆の方をチラ見すると、マーガレットとアヤカが顎が外れるんじゃないかと思うほど大口を開けて驚愕の表情を浮かべ固まっていた。
「え~? イチジクの実食べたいの? 二個しかなってなかったからこっそり食べようと思ったんだけど……」
「カナタ……今何を食べたのか分かってるんですの?」
「ガブチョガブチョ」
青い顔をしたマーガレットが必要以上に接近して聞いてくる、横を見るとアヤカも青い顔をしてマリヤを呼んでいた。
「無花果の実だよ? ん? 自分で言ってておかしい事に気が付いた。何で赤い花が咲いていたのかな? イチジクって確かあの食べる所が花で花が咲かないように見えるから無花果って名前だった気がする……」
『無花果の実』
栄養価の高い果実。
「花が咲いていたのなら良かった……アヤカ思わずマリヤに頼んで強力嘔吐剤を貰うところだったわ!」
「どういう事!?」
既にアヤカの手には赤黒い色の錠剤が乗っている、アレは危ないやつだ!
思わず一歩後ろに下がると、自分の足で歩けるようになったラビイチが背中を突いてくる。何かと思いラビイチの目を見つめてみると……いきなり嘔吐し始めた!?
「ラビョー、ラビョー、オッエ」
「これは……」
マリヤが躊躇せずにラビイチの嘔吐物へ手を伸ばすと一粒のイチジクの実を摘み取り、生活魔法で水洗いしてついでに乾燥させる。
『非時果の実』
魔力に汚染された無花果の変異個体の実。毒性が強く食べるのには不向き。
「非時果の実? 毒らしいけど……イチジクと見分けがつかないね」
「捨てなさい!」
マーガレットがマリヤの手を叩きトキジクの実を地面に落とすと生活魔法で水を大量に出しラビイチの口の中に注ぎ始めた。
「ラビョー、ラビョー、オッエ」
「胃の中身を全部出した方が良さそうなのか……ラビイチちょっと我慢しててね」
マリヤの手を念入りに洗うと、スマホから奈落の穴で手に入れた真水をラビイチの口目掛けて少しずつ放水する。
「ラビッ! ラビラビ」
「水溶性の毒、薄めると良い、そのまま水を飲ませ続けて」
「了解!」
メリルが黒バックから出した本のページを捲りながら指示をくれる、ラビイチも水が美味しいのか横になったまま両手両足をバタバタさせ水を飲み続けている。
「ラビイチ溺れてる気がするで……」
「ラビイチー!!」
「ラビッ……」
「ガブチョガブチョ」
ルナの指摘に我に返るボク、良く見るとラビイチは涙目で水を飲み続けていた。水を止めてラビイチのお腹を擦ると、体調がマシになったのかラビイチは起き上がりラビニとラビサンのところへ歩いていく。
「ここで全員に注意ですの。先ほどの非時果の実はモータルシンと呼ばれる魔薬の原料で、冒険者ギルドでは見つけ次第報告の義務があり、非常に危険な毒を複数もつので触ったら手を洗いましょう」
「モータルシン? 麻薬? 危ない植物もあるんだね」
念の為に全員の手を洗うマーガレット、子煩悩なお母さんみたい。
無花果は大丈夫って事は魔力に汚染されてるとアウトなのかな? でもボクが魔力を与えているプテレアや他のスプライトには危ない変化は無いような……
「カナタは勘違いしてると思うからアヤカが教えてあげるわ。麻って文字じゃなくて魔法の魔の方の文字ね? 魔薬よ、分かった?」
満面の笑みで頭を撫でて来るアヤカ、余程自分の知識を披露したかったのか『Yes! Yes!』とか言ってガッツポーズを取っていた。
「ありがと? その魔薬は使うとトリップする系?」
「モータルシンには複数の効能を持つ非時果の毒が原料に使われているので、加工方法で七つくらいの効果に分かれるみたいですの。気分が高まり何でも出来ると錯覚したり、特定の人物を嫉ましく思い殺意すら覚えるようになったり、怒りのままに暴走したり、全ての事を放り出し堕落した生活を望んだり、オレの物はオレの物・他人の物もオレの物になったり、お腹が無限に空くようになったり、超淫乱になったり……などなどですわ」
最後ちょっと頬が赤かったマーガレット、途中変なのが一個混じっていた気がする。
「体に悪そうだね……やっぱりじわじわと死ぬタイプ?」
「いいえ、性質の悪い事に無害です……無害と言っていいのかは難しい所ですが。健康に対する毒性は一切残りません。モータルシンに対する依存性が摂取すればするほど高まり、終いにはモータルシンの為なら何でもする人形みたいになってしまいますわ……」
キャロラインが難しい顔で答えてくれた。結構皆知っている、メジャーな魔薬なのかもしれない。
「結構皆知ってる薬なの?」
「他国との戦争があると暗殺者ギルドからモータルシン・ラースを国が買い取り、戦争に行く兵士に飲ませるんですわ――敵を憎み殺し蹂躙するために……」
顔を伏せ悲しそうに言うキャロライン、その背をルナがナデナデしていた。
「暗殺者ギルドは作ったり売ったしして良い権利とかあるの?」
「基本はダメ、栽培はそもそも斬首刑。稀に生えているのを冒険者ギルドに報告してから採取して暗殺者ギルドに売るのはアリ」
「皆物知りだね、メリルはその本の知識みたいだけど。その本どこで売ってるの?」
問うと顔を真っ赤にして怒り出したメリルがボクの胸をポコポコ叩いてくる。痛く無いけど変な気分になるよ!
「私が書いた。欲しいのなら写す」
「ご、ごめん! あまりにも分厚い本だったから……凄いね!」
「それなら良い」
少しふんぞり返ったメリルの後ろにはレオーネが立っており、後ろから両腕でメリルを捕縛したレオーネは『メリルは偉いのね~? ならなんで抜け駆けしたのかな~?』と問いただしている……レオーネは根に持つタイプのようだ。
「それじゃあもうかなり暗いし村に行って今日は休もうね、小さい村だから宿は無いかもしれないけど。最悪どこか端っこのスペース借りて魔法で簡易コテージでも作るよ?」
「ラビイチとラビニとラビサンは村の外を警戒して貰いましょう、あと見つけ次第さっきの実が生った木を集めておいてください」
マリヤの提案が出る、前半部分は問題無いでも後半部分は何故?
「何で集めておくの? 魔薬とか作って売るのは無しだよ?」
「馬鹿にしないでくださいっ!」
「んむ? んーんー! ぷは、ごめん、謝るから! 別に本気じゃないから!」
切れたマリヤがボクの服を掴むと濃厚なキスをしてくる、次第にマリヤの右手が服の中に伸びてきた時は焦る。
「「逆上したと見せかけてチュッチュ……お姉様恐ろしい子」」
「ばっ! ソレを言っちゃダメっ!?」
シャルロッテとシャルロットの鋭い突っ込みに狼狽するマリヤ。暗闇の中ルナとマーガレットとメアリーの目が光っているからそう言う冗談は止めて欲しい。
「コレだけ暗いと凄く目立つね、ルナの赤い目とマーガレットとメアリーの少し赤い目。前からそんなに光ってたっけ?」
「うちはカナタに直してもらってからずっとやで?」
「私は最近だよ?」
「私はカナタを食べ――カナタと愛を深め合い始めてからですの」
言い直したマーガレットは生唾を飲み込みこちらを凝視してくる。ルナは分かるけどメアリーは最近光るようになったのか……何か体に変化が起きている? 皆の髪の色が黒っぽくなって行ってるのと関係があるかもしれない。
「この実を研究すれば解毒薬を作る事が出来ます、あと上手く効果を薄めれるのなら薬になる可能性もあります」
「そこまで考え付かなかったよ、さすがマリヤ……とシャルロッテとシャルロット!」
ボクの服を左右から引っ張るシャルロッテとシャルロットの名前を呼ばないのはダメだよね。三人姉妹なんだから仲良く調薬して欲しい。
「見えてきました。ラビイチとラビニとラビサンはそろそろ別行動してください、必ず三匹一緒に行動してくださいね。一応アンナと私はラビッツ達と一緒に行動するね? いざと言う時は【EMC】を使うからスマホが鳴ったら駆けつけてくれると嬉しいかも」
「【EMC】? 何それ?」
「アンナが今朝見つけたスマホ機能だよ? いつの間にか増えてたみたい」
名前:彼方=田中=ラーズグリーズ(サント=ブリギッド)
種族:UNKNOWN(人間) 年齢:18 性別:女 属性:無・聖
職業:盾戦士・冶金士・儀式術士・魔物の王 位:次期辺境伯
称号:【絶壁】【魔王の嫁】 ギルドランク:A
クラン:小さな楽園
団結:クリスティナ様護衛隊 楽園の剣 楽園の盾
レベル:1001[282+18+701]☆☆☆☆
HP :1783/1783[500+282+1001+☆]
MP :13513/13830[100+282+1001+☆]
攻撃力:1[282+1+★]
魔撃力:1[282+★]
耐久力:425[282+143+☆]×2
抵抗力:☆[1+16+☆]×2
筋力 :1001[282+18+701+★]
魔力 :1001[282+18+701]
体力 :1001[282+18+701+★]
敏捷 :1001[282+18+701+★]
器用 :1001[282+18+701+★]
運 :LUCKY[1+8+☆]×2
カルマ:191[229×2]
SES盗×
:【無垢なる混沌】【創世神の寵愛☆】【原初精霊の加護:土】
;【停止飛行】【創世神の呪★】【才能開花】
UNS盗×
:【魔力の源泉】【舞盾】【祈雨】
EXS盗×
:【眷属化】【冶金】【第六感】【物理耐性】【魔道具作成】
スキル盗×
:【生活魔法】【治療C】【解体D】【脱兎】【耐性:熱F毒E魔C石D】
:【解毒D】【精神強化E】【気配感知E】 【危機感知E】【絶倫】
Aスキル盗×
:【スピアスタブ】【シールドチャージ】【簡易儀式魔方陣】
:【分解】【テイム】【超硬化】【ARM力場】
装備品
武器 :黒鉄杉の槍棒150cm[攻+1]
盾 :魔盾スヴェル[耐+5抵+5]【氷化結界】
盾2 :玄武の盾[耐+3抵+1]【自己修復E】【反射E】
兜 :フェイクラビッツの帽子[耐+3抵抗+3]【自己修復E】
仮面 :特殊防弾ガラスの眼鏡[耐+1抵+1]【簡易鑑定】【光量調整】
服 :天使御用達の服[耐+1抵+1]【浄化S】【自己修復S】
鎧 :トロール皮のベスト[耐+2]【自己修復F】
鎧 :CNT製マント[耐+20]【超硬度】
腕 :スマホ[耐+1抵+1]【簡易アイテムボックス+16】【発展】
:スマホ【解析】【提携】【子機】【転送】【EMC】
腕 :円卓の腕輪[耐+1]【部隊作成】
腕 :エアコンのリモコン[耐+1抵+1]【空気調和】
腕 :CNT製アームカバー[耐+20]【超硬度】
手 :CNT製グローブ[耐+20]【超硬度】
足 :CNT製サイハイソックス[耐+20]【超硬度】
足 :CNT製レッグガード[耐+20]【超硬度】
靴 :フェイクラビッツの靴[耐+3抵+3]【自己修復E】
その他 :夜を背負った様な漆黒色の羽根[成長×2]【追跡者】
:全てを覆い尽くすような漆黒色の羽根[運×2]【黄金率】+-0
:魔王の花嫁[耐×2]【永遠の誓い】
:魔王の首輪[抵×2]【意思疎通】
:VBリング8個[運+8]【心体再生】
:ドッペルリング[業×2]【写し身】
:モウモウの肉取り放題券
:シュヴァルツカイザーバックパック【亜空間ボックス】【超硬度】
所持金93万イクス
レッティに言われてステータスを確認するとスマホの+が増えている。どうやらエッロシリーズを倒した時の魔晶の欠片でパワーUPしたようだ。今度からちゃんと確認しないといけない……覚えていたら。
「試しに一回使いますよ?」
「おぉ!? ぶるっとキタ!」
アンナがスマホを操作すると左腕にスマホ画面が浮き出し震えて地図を表示してくれた。地図にはマーカーと名前と危険度が色で判別出来るようになっている。コレは便利だ!
「OK! どんなのか分かったから各自緊急時にはこれで!」
「「「「「「サーイエッサー!」」」」」」
「小さい声でね」
暗い森の中騒ぐと魔物が寄って来るかもしれない、そして今から行く村の人に迷惑がかかる可能性があるのであまり物音を立てずに進む。
「それじゃあ朝になったら迎えに来てね? 全員七時にタイマーセットを」
「六時じゃないん? うちは平気やで?」
普段が六時起きなのでルナの疑問も分かる、でも旅路くらいはゆっくり行こう。
「ルナの体調回復もあるし、たまには一時間くらいユックリしようね? ラビイチも一緒に村に入れたら良かったけど見た感じ小さい村だから多分迷惑になるかな?」
「ここから見える感じだと、村全体で三〇人も住んでいない感じですね」
ここから見える光景は、2mくらいの丸太を組み合わせたバリケードに囲まれた村で一応やぐらが組んであり見張りの人も二名立っている。スマホの撮影モードで拡大してみると、土と葉っぱで結構汚れているローブを頭からすっぽり被った屈強な男と思われる見張りの人が見えた。
「そんなの見ただけで分かるのか……さすがロッティ!」
「適当です!」
「はぁ……」
ダメだ、一瞬尊敬しそうになったけどドヤ顔のロッティを見てがっくりだよ! マーガレットも溜息ついてるよ?
「アンナとレッティは大変かもだけど交代で見張りお願い、明日はノアの箱舟の中でボクがマッサージするから頑張ってね」
「「了解!」」
「それじゃあ私と妹達はノアの箱舟に戻ります。出して?」
マリヤとシャルロッテとシャルロットはノアの箱舟に引き篭るつもりのようだ。パワーレベリングが終わるまでは安全第一だしね。
ノアの箱舟を出すと中からアルフとユノ&ユピテルが出てくる……
「あれ? 夜になってる気がするんだけど……いや、まてよ? もしかして……」
青い顔のユノ&ユピテル、アルフは首を傾げて自分の置かれている現状を確認しようとしていた。
「アルフとユノとユピテルはラビイチの警護やね……今まで休憩してたんや、朝まで頑張りや!」
ルナは凍えるような冷たい視線をアルフ達に向けると静かに見張りを言い渡す。見ているこっちが震えてきたよ!
「え? いや、ノアの箱舟から皆が下りていった後、酔ったユノを介抱してたら外が真っ暗だったから出てきたわけで……数分も立ってない気がするんだが……それにラビイチの方が強いし、オレ達が警護する意味なんて?」
「あのラビイチを見てもそれが言えるならな……」
ルナが答えて指差す方向にはまだオッエオッエ言っているラビイチが居た。
「何か拾い食いでもしたんだろ? ラビッツは繊細だからな~」
「顔かお腹か手か足か……好きに決めたら良いで?」
空気を裂く良い音をさせながらシャドウボクシングを始めるルナ、格好が様になっているのはアヤカが教えたからであろうか?
「謹んで警護に回らせていただきますサー!」
「「サー!」」
「初めからそう言えば良いんやで?」
ニッコリと笑い肩をポンポンと叩くルナに顔を引きつらせて笑うアルフとユノ&ユピテル。リトルエデン内での明確なヒエラルキーが垣間見える。
アンナとレッティはラビニ・ラビサンに乗ってラビイチの後を着いて行く、勿論アルフとユノ&ユピテルがラビイチの左右後方を固めていた。体調が戻ったラビッツ達に勝てる魔物が居るとは思えないので多分大丈夫だ。
村の入り口まで一直線に歩いて行く、途中薬草が道端に生えていたりしてメアリーが飛びつきそうになったけど、村の人が植えたやつかもしれないので引きずって歩いて行く……
門番の姿がはっきりと肉眼で確認出来る距離まで来た。手には60cmくらいの長めのナイフが握られており、刃の途中が少しくの字に曲がったククリマチェットと呼ばれるタイプの物だ。山や森に入った時、枝打ちや草木の刈払いに使われる生活必需品に近いナイフだったと記憶している。
門番の姿はやぐらに居た者と同じ土木に汚れたローブを頭から被っていて、じっとこっちを見ていた。
「何かめっちゃナイフ構えて無い?」
「スンスン、敵対する気配は無いで?」
ルナがスンスンと匂いを嗅いで答えた。こっちが風下のようで門番の匂いが流れてきているみたい?
「匂いでそんな事も分かるの? 凄い便利だね~」
「あと手が震えてる……こんな未開拓地の村にまで【絶壁】の噂が回ってるんだね……」
メアリーの指摘にもう一度門番を見てみる、確かにナイフを構えた手が緊張の為か少し震えていた。
あ、見張りの人が一人下りて行った。村長の人とか呼んで来てくれるのかも知れない。
門までゆっくりと歩き近寄っていく、門の手前丁度5mくらいに着いた時に中から大柄な女性が現れた。
やはり土木で汚れたローブを着ている、他の者と違ってフードの部分が取られており顔が確認出来た。黒髪黒瞳で身長は180cm近くある気がする? 顔立ちは日本人っぽい、と言うか日本人じゃないのこの人?
「もうかりまっか?」
「ボチボチでんなあ~……って何でやねん!」
大柄な女性は大阪弁を話し『儲かりますか?』と問いかけてくる、今リトルエデンはかなりの好景気なので反射的に返事をしてしまったけど……にわか大阪弁なのですぐにボロが出そうだ。
「カナタ!」
「ん?」
「夜分遅くにこんな山奥の村に何用でございましょうか?」
アヤカが背中を突いてくるけど、大柄の女性が問いかけてきたので手で制して村の中に入れてもらえるよう交渉を優先する。
「うちのクラン員が体調を崩してしまったので、一晩だけこちらの村で休ませて貰えればっと思いまして」
「それはそれは大変でしたね…すぐ休める部屋の用意をさせますのでどうぞ村の中へ」
大柄な女性が手を上げると、見張りやぐらに居たもう一人も降りてきてどこかに歩いて行った。
敵で無い事が分かった為か、門番の緊張もほぐれ腰の鞘にナイフを仕舞って直立不動の体勢になっている。
それにしてもいきなり初対面の相手に親切過ぎる気がする?
「部屋まで用意してもらえるのは嬉しい限りなんですが、その……ボク達が盗賊とか? 悪い人だとか思わなかったんですか?」
「私はスノウパンサーと言います、スノウとおよび下さい。多分そちらの女性は同郷の者かと、袖触れ合うも何かの縁。それに女子供だけの盗賊など……居たら同業者の餌食になりますね」
大柄の女性はボクの後ろに視線を送りアヤカを見ている、どうやら日本人で確定のようだけど……案外こっちの世界に来ている人が多い? 天使のおつかいかどうかは分からないので何とも言えないけど、敵では無い様子なので一先ず安心かな?
「あっ、ボクはカナタと言います。あちらの女性はアヤカでこっちの「結構です」ん?」
「一夜の宿に泊まるお客様の代表者の名前さえ分かれば」
ふむふむ? ずっとアヤカを見ていたけど……まぁ良いや。
「大分遅いのでお静かにお願いしますね? それではこちらへ……」
微笑み手を取って案内してくれるスノウ、門を越えて村の中へ入って行く。
お客様と呼ばれたからには料金とか払わないといけないのかな? と考えていると後ろでやけに緊張したアヤカの声が聞こえた。
「皆注意して、この村おかしい……村の人にはばれないように警戒して」
アヤカの注意を促す声は小さかったので一緒に歩くスノウの耳には入らなかったみたいで、村の特産品の話しなどを聞かせてくれていた。




