三面鏡
「え、いやあの…君は?さっきのボス戦はいなかったとは思うんだけど。どういうこと?」
ゴンダは尋ねる。数日前のギルドとのいざこざでギルドのメンバーに狙われている可能性を考慮して少し距離を取った。ホームエリア内でのPKはできないが、付きまとわれてエリアを出たところをキル。何てことが可能性としてはあるので身構える。
「えっと、私ナターシャと言いまして、ゴンダさんの噂はかねがね耳にしているんですが、勝てないボスがいまして、それに付き合って頂けないかというですね…。」
ナターシャと自己紹介した美女はおどおどしながら言った。要約するとこちらに共闘を依頼している、ゴンダとしては受けても問題はないが、話はこれからが本題である。
「なら、ナターシャさん。俺には何の得があるんだ?お金とか、アイテムとかそういうの。用意してくれてるんだよな?」
ゴンダは少し鎌をかけるように言った。
前に依頼して来たプレイヤーにこう訊ねた時報酬アイテムを追加してくれた事があったからだ。
「は、はい!…交換条件は、私の倒したいボスのドロップアイテムで、確定で二つのレアアイテムが落ちるんですけど一つが武器強化の宝玉で、もう一つが【伝説武器】なのでそちらを…」
「武器玉と【伝説武器】!?」
ゴンダはさっきまでの表情を一気に崩して驚いた。入手困難なアイテムの二つが確定でドロップするモンスターなど滅多にいない、エルフがパーティーにいないと入れない[種族限定クエスト]だろうか。
「私はこの[ディアボロ]があるので私の方にドロップしたアイテムもゴンダさんに…」
「ディアボロ!?もしかしてあの【魔剣ディアボロ】!?」
二回も話の途中で口を挟んだので、しまった。と、口を押さえる。
「は、はい…昔、[死神事件]で話題になった魔剣です。私は急に声を掛けられてそれで譲り受けたんですけど…。」
[死神事件]とは、昔、まだ【魔剣ディアボロ】を装備出来る人間がいないと言われていた頃、オークションに超高額で出品されたディアボロを何者かが購入、出品者をキルし、その時死神と名乗った手紙を置いていった事件である。
「そうなんだ…今ステータス上がった古参が血眼になって探してるけど、見つからない訳だ。それにディアボロが味方についてるなら安心だ。一辺そのボス見に行こう、ナターシャさん。」
ーーーー[秘境 双面鬼の間]
ダンジョンに踏み入れて直ぐ、ゴンダは驚いた。
入っていきなりボスが現れるとは思っていなかったが、ボスの容姿に驚いたのである。
巨大なボスに合わせた和室に立つのは、
白と黒二つの色が半分ずつ配色された鬼。
特徴的なだけでなく、盛り上がる筋肉に圧倒される。何より、今までのイベントにも登場したことのない全く挙動がわからないボスが出てきた事である。
「世界は広いって事なのかな…。こんな面白そうな奴、見たことない。ナターシャさん、前言撤回。俺、倒すつもりでいくよ。」
ー伝説の始まり。