黄色く光る
【キャッスルエリア】内ダンジョン〈剛風の祠〉
風属性の竜型ボス、ウインドドラゴンの力尽きた姿の横にはいつも通りの仲違いが起きていた。
「やっぱウインドドラゴン戦は盾装備とAR編成のレイド。これに限るよな!SRとかエルフとかのバカどもは中ボスのスケルトンに追っかけ回されてろってンだ。」
「ホントっスよ、新参の貧弱ステータスの奴等は俺達にアイテム流してりゃいいんだよ!」
「おいおい、エルフを新参の一括りにすんなよな、動けなくてソロじゃ封印安定の大魔法使ってるやつばっかじゃなくて古参でエルフになってそのままARぶっぱなしてる奴だってたくさんいるし、SRだって弱点部位狙ってたじゃねぇかよ!」
いつもこれとほぼ変わらないのである。
キャッスルエリア 導入から半年で行われた賛否両論の新アップデート、種族の追加はプレイヤー達を大きく動かした。見た目とNPCからの待遇が変化すると言った内容で、古参のプレイヤーは人間か、機械に勝手に組分けされたのだが、街で変更が可能である。しかし問題があったのはエルフの追加である。エルフは古参が組分けされていないのと、エルフ目当てで新しくロジカルワールドを始めた人間が多い。勿論古参もなりたければ、エルフへの種族変更が街で可能である。しかし、圧倒的初心者の数と費用面の手間から、エルフは数は古参に負けないもののプレイヤーの平均技量の差が大きくついてしまった。
今回の攻略用複数のパーティーの四~五組の集まり、レイドにいるエルフも古参の人間、機械のプレイヤーについていくのがやっとで、普段のパーティーでもエルフを入れているパーティーは殆どおらず容姿、または技量が良くないエルフは基本的にソロと呼ばれる単独で危険な、一人だけで、またはエルフだけのパーティーでダンジョン攻略に励んでいる。
いつも通り無駄に今回も起こった論争は次第にプレイヤー達が先に進み街へと帰っていく。
何度も繰り返し論争が起きる内、皆既に聞き飽きてしまったのだ。
種族人間、武器 ARの古参、G-ondaもその一人だ。
少し前までは大きいパーティーやレイドの人数を越えて繋がる大規模コミュニティ、ギルドに入っていたが、仲間との考えの違いでソロに転向し、新たな盟友を探しているのである。
ゴンダ自身、今のロジカルワールドにはあまり不満は無い。論争が起きるのはおかしい。と、考える方であり、そんなに魔法を撃つエルフが嫌ならガンエリア に行けばどうとでもなろうといつもは古参側を諭して和解を手伝ったりしている。
しかし今日は何故か気分が乗らず、そんなことより帰りたい。そう思っていた。
ボスのいた奥、転移盤の上に乗ると光に包まれ、いつもの街が目の前に広がる。
海風と市場の街、
ホームエリアNo.4、地中海エリア
「んー!…やっぱいいなぁ、ここ。」
潮の香りに運ばれつつ上機嫌で空を見て歩く。
鴎が飛び、商売文句に口説き文句も市場の通りを駆け回る。 このまま場の雰囲気に浸りつつログアウト。そうしようと思っていた時、ゴンダは呼び止められた。
上を向いていた首をいつもの目線へ、そして振り返る。そこには麗しい女性剣士のプレイヤーアバターがゴンダの方を向いて立っていた。
上と下が一つになっているローブは白を基調としつつクリーム、黄緑のラインが至るところに入り、
全体を、引き締めている。そして紅く鋭い大剣。エルフ程ではないが耳が尖り、顔は美しく整っていて、彼女の種族を口に出してしまう程だった。
「ハーフエルフ…?」
ハーフエルフは種族変更、又はキャラクター新規作成時にランダムか、エルフか人間、で決定すると稀に現れる人間とエルフの交配種というレアな種族であるが、神話上人間とエルフが交わる事を禁忌とされているからか、NPCからの待遇が一定の基準に達するまで頗る悪くアイテムの購入などが制限されるという仕様が施されている。その代わりハーフエルフのアバターは容姿がユーザーに好まれるよう設計されているだけでなく、ジョブの習得までが他種族の一・三倍かかる分ステータスが上がり易いという利点もある。
しかしエルフはエルフなので古参からは嫌われ、エルフ側からも蔑まれがちな種族である。
そんなハーフエルフの彼女はゴンダにこう問いかけた。
「私と、パーティー組んでくれませんか?」
ー出会いが始まる。