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もふもふ集落とお医者さん

 オル君の指示通り森の中を進んでいきます。

 小走りみたいなものなので、歩くのに慣れたばかりの私には難しい。

 そんなわけで、ついにみんなと私は別行動することになりました。

 一匹の灰色のウサギさんが一緒に来て集落まで連れていってくれるそうです。

 さっきオル君に戻ろうって言ってた子だね。

「俺はラウ、セフ族でオルの兄弟」

「兄弟?でも族が違いませんか?」

 オル君は毛先カールのクリーム色の毛で、このラウ君は灰色の毛の、ペットショップでよく見かけるウサギみたいな感じ。全然違うよ。

「あー、人間の種族のわけ方は知らねーけど、俺らは毛色と毛質で族がわかれるんだよ。見た目で別れるな」

「そうなんですか。一族って言うからてっきり家族とかそういうのだと……」

「まあある程度血縁は関係あるか。先祖の血によりけりだしな。でも絶対族が混じるってことはないんだよ。それに俺らはあんまり家族って感覚がわからないんだ。親がいないなんてことはざらだから」

 それは寂しいよ。捕まったりしちゃって家族がいなくなっちゃうんだろうな。

「集落に行けばウサギ以外の獣族もいるぜ」

 なんですと?ウサギさんしかいなかったからウサギのみの集落だと思ってたよ。そういえばオル君がウサギ以外の獣族もいるって言ってたな。

「あとどれくらいで着きますか?」

 慣れない身体で移動して、疲れたよ。

 早く他のもふもふにも会いたい!今すぐラウ君が抱き付かせてくれるならもっと頑張るよ!

 おっと、雑念が……

 疲れた人、今はウサギ……の目の前に等身大もふもふウサギがいるなんて、お腹すいた猫の目の前に鰹節置いとくようなもんだよっ!

「たぶんオルたちはもう着いてるはずだ。俺たちももうすぐ着くぜ」

 そうですか。じゃあここはぐっと我慢します。あと一時間とか言われたら速攻で抱き付いてたよ、癒しが欲しいから。

 ふさふさ揺れてるラウ君の小さいしっぽを眺めて耐えます。

 可愛い、掴みたい、掴んだらきっとびくってなるんだろうな。

 うー、想像してたらよけい触りたくなった。

 早く着いて、一時間とか言ったけどもう限界が来そうだよ……

「あれだよ」

 おお、着いた!ギリギリセーフだよ!もう少しでつかみかかるとこでした。

 どんなもふもふがいるのかな……と思ったら、あれれ?誰もいないよ。

 というか生活の跡すらないよ?

「あれあれ、あの洞窟とその前の茂み」

 そこそこ、とラウ君は指差して教えてくれるけどわかりません。

 洞窟はわかるけど茂み?確かに茂みはあるけどさ。

「外から見ると普通の茂みだけどよ、あれの中居住空間になってんだ」

「ほぇー」

 間抜けな声が……そうなんだ。

 ラウ君みたいなウサギさんたちと他の獣族が可愛らしくちょこまか動いてるような感じって勝手に想像してた。ちょっと……だいぶ想像と違うな。

「ほら、行くぜ」

 私がぼけーっと茂みの方を見ている間にラウ君は先に進んでいました。

 慌ててラウ君の方に行こうとしたら……

 バタッと盛大に音をたてて転びました。

 恥ずかしい!慌てすぎて足がもつれたの!

 急いで駆け寄って手を差し伸べてくれるラウ君、ありがとうございます。以後気を付けます。

 ぼふっ……

 勢いあまってラウ君に突っ込んでしまった!

 ごめんねラウ君、わざとじゃないよ!確かに触りたい……というか抱き付きたかったのは事実だけど、いくらなんでも初対面の子に抱き付くなんて失礼だよ!わかってるよそれはっ!

 ……でも気持ちいいです。夢にまで見た等身大もふもふです。失礼だとわかってるけど手が離せない!恐るべき破壊力!精神崩壊しそうです。

「……おい、大丈夫か?」

 普通に心配してくれます。そのまま気付かないでください。お願いですから。

 名残惜しいけどラウ君から離れます。さすがにこれ以上はだめだよね……

「すいません、勢いあまって……」

「いいよいいよ、まだ慣れてないんだろ?」

 はい、そういうことにしておいてください。

 まだ若干もふもふの感触が残ってて、思い出すたびに悶えます。

 ウサギっていいね、にやにやしちゃっても顔に出ないからっ!

 また転ぶといけないから、とラウ君は私の横を歩いてくれました。口調はちょっと荒っぽいけど親切。

 見た目は全然似てないけど、やっぱりオル君の兄弟ですね!口調とか!

 そんなことを考えているうちに、洞窟の前に着きました。

 茂みじゃないんだ、と思ったけどまあどっちも生活空間なんだよね。

「戻ったぞ」

 ラウ君は洞窟の奥の方へ声をかけます。

 ……何も返ってきません。静かです。

 まさかニム君に何かあったのでしょうか。私は思わずラウ君の方を見ます。

「診察中なんだろ。行くぞ」

 そう言って、ラウ君は洞窟の奥へ進んでいきます。

 自然の洞窟そのままなのか、だいぶ足場が悪くて転びそう……

 よたよた歩いていくと、明かりが見えてきました。あそこに誰かいるのかな。

 ラウ君がそっちに進んでいくので、きっとそこにニム君がいるんだ。

 ……無事だといいんだけどなぁ。もとはといえば私のせいだから。

 恐る恐る先を見てみます。

「オオカミ!?危ないよ!」

 なんと、ベッドっぽい布の上に寝転がってるニム君をオオカミがじっと見てる!

 オオカミって肉食だよね?あわわ……どうしよう!

「落ち着け、確かにオウラはオオカミ獣族だが医者だ。普通のウサギとオオカミの関係ならそうだが、獣族同士だぞ?食べたりするわけねーだろ」

 ラウ君が慌てて教えてくれました。

「そうなの!?」

 思わず大声が出ました。

 ニム君に注目していた獣族さんたちが私の大声に一斉にこっちを見ます。

 だってウサギとオオカミですよ?食べる食べられるの関係の例を述べなさい、って聞かれたとき誰もが納得する解答じゃないですか!

「そのウサギ獣族は何でそんなに驚いてるんだ?しかも見かけない顔だな」

 オオカミ獣族は不思議そうにまわりのウサギさんたちの方を見回します。

 どのウサギを食べようか物色してるようにしか見えません。

「元人間なんだってよ。しかもこの世界の人間じゃなくて異世界から来たらしい」

「……はあ?何を言ってるのかさっぱりわからん」

 そりゃあそうですよ。私だってまだわからないんですから!

「もう一回言うが、オウラは医者だ。ニムの診察してるんだよ」

 医者……オオカミがお医者さん……

 ミスマッチにも程があると思うよ!どっちかというとオオカミって傷付ける側のイメージだもん。

 まあ、でもみんななんとも思ってないみたいだし、これでまあ普通なんだ。きっとそうなんだ。

 無理やり自分を納得させて、改めてニム君の方を見ます。

 お医者さんがオオカミなのを気にしてはいけない。慣れるまで、うん、慣れないとね……

「ニムならもう大丈夫だ。誰がやったか知らんがすぐ止血されたお陰で出血も思っていたよりは少ない。まあ二日くらい安静にしていれば完全に回復する」

 そうなんだ、よかったぁ。

 身体中の力が抜けて、その場にへたりこんでしまいました。

 私の治癒魔法……だっけ、が役に立ったんだ。

「よかった、よかったよぅ……」

 ぽろぽろ涙まで出てきます。これはなんだろう、嬉し涙?とにかく安心したよ。

「その子……ミカがニムに治癒魔法をかけたんだ。かなり高い魔法だったぜ」

 オオカミのお医者さん……オウラさんが目を見開きました。

「このウサギ獣族が?確かに完璧な治癒だったが……」

「俺もよくわからねえよ、ミカとは今日初めて会ったしな」

 うーん、みんな私の魔法を誉めてくれるなぁ。でもよくわかんないよ。確かにあのときは夢中だったけど、感覚とか、その辺りよく覚えてないし。

「一度外に出るか、ニムは今晩はここに泊まらせよう」

 オウラさんは肩に手をあてながらニム君の側から立ち上がります。

 うっ、でっかい。

 完全に見下ろされてる。オオカミなだけあって威圧感もすごいです。

 ぱくっと食べられそうで怖いよ。

 ぶるぶる震えてます。無害だ無害だと自分に言い聞かせてもやっぱり怖いよ。

 オオカミに見下ろされる。仮に私が今ウサギじゃなくても怯えるよ。

「そんなに怯えなくていいだろう。獣族なんだから」

 低音ボイスで怖い声だけど、どこか優しい。

 うん、悪い人じゃない。みんな信用してるっぽいし、きっといい人だ。見た目はあれだけど。

 とりあえずニム君以外みんな洞窟から出るらしいので、押されるようにして私は洞窟から出ました。

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