ウサギさんとファンタジーななにか2
えーと、話をまとめると、今から百年くらい前に人間、エルフ、獣族の間で大きな戦争があって、獣族は真っ先に負けてしまったということらしい。
獣族はそれぞれ動物で別れてて、しかも一族とか別れてるせいもあってわりとあっさり負けてしまったとか。
人間とエルフは和平を結んで、今はそこの間は平和。
っていうかエルフがいるんだ。ファンタジー世界の住民代表みたいな存在が。
「じゃあ獣族って今はどうやって暮らしてるんですか?」
「一ヵ所に居続けるのは難しいから移動生活だな。俺らみたいに時々木の実とか採りに森をうろうろしたりもするぞ」
「でもここは森の結構奥の方だからまだ人間の手が届いてないしで定住し始めた獣族もいるよ……って、どうしたの?」
ここで獣族がどう扱われてるのかはよくわかった。
こんなに可愛い子達が、人間やエルフに狩られ、怯えてひっそりとした生活を強いられている。
許せるものですか!
確かに可愛いからそばにおきたいっていうのもわかるけど、こんなに可愛い子達を怯えさせるなんて許せない!
「おーい、どうしたんだよ」
ぱたぱたと私の前で手を振ってくれるウサギさん。そういえば名前聞いてなかった。
「あの、名前を教えてくれませんか?」
「ん?そういえば名乗ってなかったか。俺はオル、セス族だ」
「僕はニム、ブヌ族だよ」
毛先カール君とブチ君、それぞれの名前が判明しました。
「ところでフィル君は何者なんですか?」
触るだけで真実を見抜く、みたいな。さっきのあれはなんですか?
「フィルは異能者なんだよ。心理察知の」
「といっても弱い方です。さっきみたいに触ってみないと正確にはわからないし。強い人は心が読めたりしちゃうんですよ」
手をぱたぱた振りながら説明してくれるフィル君、物凄く可愛い。こんな可愛いのに異能者、へぇ。
なんかもうさっきからいろいろファンタジーすぎて何が起こっても驚かない気がする。ひょっとして魔法とかあるんじゃないか?エルフとかファンタジー世界の住民がいるわけだし。
「この世界って魔法とかあったりする?」
「あるぜ」
即答、やっぱりか!あるんだ魔法!
「俺は下手くそだけどな。ろうそくの火くらいのちっさい火をつけるのがやっとだよ」
「オルはまだいいほうだよ、僕なんてほぼ魔力なしなんだから」
わいわいとウサギさんの魔法談義が始まった。
魔法かぁ、私にも使えるのかな。
手の先に力を集中させて、火出ろ火出ろ……と念じてみる。
火が出るどころか暖かくすらならない。顔は力が入って熱くなったけどね!
「なあオル、そろそろ戻ろうぜ」
一匹のウサギさんがある方向を指差して言いました。そっちの方に住んでるのかな。少ないって言ってたけど、どれくらいいるんだろ。ウサギさん以外もいるのかな。
「フジタミカさん……だっけ、いったん僕たちのとこに来る?」
ありがたいです!ぜひお願いします!
「お願いします。あと、私の名前、ミカだけでいいです」
フジタミカっておかしいもん。イントネーションもひとつながりでなんだかおかしなことになってる。
「じゃあミカさん、行こっか」
そう言って手を出してくれたニム君、紳士だ!紳士がここにいるよ。
ありがたく手を握らせていただきます。
足の感覚とか歩き方とかいろいろ不安だからね。ウサギの歩き方なんてわからない。
一歩目、さっそく不安。少しふらってなった。なんか短いしバランスが……
ニム君がすかさず支えてくれて何事もなし。
危なっかしく何歩か歩いていくうちに慣れてきたのかふらつかなくなった。よかったよかった。
「歩くのに慣れてないって感じだな」
「こんな姿で歩くの初めてですから……」
走れって言われたら一歩目で転ぶ自信ありです。
「伏せろっ!」
不意に一匹のウサギさんが叫びました。
何が起こったの?
そう思う前にぐいっとニム君におもいっきり押されて倒れます。
次の瞬間、さっきまで私の頭があったところを黒い影が横切った。
……ニム君に押されなかったら絶対謎のあの黒い影とぶつかってた。なんだったの?あれ。
「今のは……」
みんなの緊迫した雰囲気が伝わってきます。
「魔物だよ!」
「まっ、魔物?」
黒い影は一瞬で消え去って、もう見えません。
顔をあげようとすると……
「まだ顔を上げるな!まだ近くにいる!」
いつの間にかウサギさんたちの手には小刀が握られて戦闘体勢になってます。フィル君でさえも小刀を持ってる。
グルル……
何かのうなり声がすぐそこの茂みの中から聞こえてくる。これが魔物の鳴き声?まさに獰猛な肉食獣って感じだよ。
グルル……
えっ?また別の茂みの中から同じ鳴き声が……
まさかまだいるの?こんな可愛いウサギさんたちに倒せるの?
悲惨な未来しか浮かんでこないよ!人間やエルフだけじゃなくて魔物まで敵なんて……
ガサッと大きな音をたてて黒い影が茂みから飛び出してきました。
ウサギさんがザクッと小刀を黒い影に突き刺すのが見えて、次の時には黒い影から赤黒いもやのようなものが吹き出します。
……あれが魔物の血なのかな。
そう思った瞬間、赤い液体が地べたに投げ出されてる私の腕に飛んできました。
魔物の血があのもやのようなものだとしたら、これは……
考えるまでもありません。これはウサギさんの血、思わず飛んできた方を見ると……
「ニム君……?」
黒い影はよく見ると巨大な狐のような形をしていて、ニム君の黒と白の体はそれにくわえられるようになっています。
私を押し倒したから?私のせいでニム君はあんな風になっちゃったの?
ウサギさんに刺された方の魔物は苦しそうに呻いて、オル君がとどめをさそうとしていますが、暴れていて難しそうです。
しかももう一匹、同じような姿をした魔物が少し離れたところに見えます。じりじり近寄ってきていて、飛び出すタイミングをうかがっているようです。
「だめっ!」
私が叫ぶと、不思議なことが起こりました。
なんと、オル君がとどめをさそうとしている魔物が一瞬で火だるまになり、同じようにニム君を噛んでいる魔物にも火がつきました。
魔物は突然のことに驚いてニム君を離します。
私が近寄ってきている魔物の方に目を向けると、一筋の光がその魔物の方へ向かい、光がその魔物を貫通したとたん、魔物が爆発しました。
何が起きたのかなんて考えず、私は迷わず放り出されたニム君の方へ駆け寄ります。
もしニム君が死んじゃってたらどうしよう!私のせいだ、私がなんにもわかってなかったせいだ!
ニム君の毛皮の白い部分は、ほとんどニム君の血で真っ赤になってしまって、まだ赤いところが広がっていくところから、ニム君の傷の深さがうかがえます。
でも、わずかだけど胸のところが動いてる!まだ息はあるよ!
私はまだ出血しているニム君の傷口に手を当てます。
止まるかなんてわからないけど、これ以上のことは私にできないもん!
不意に、私が手を当てているニム君の傷口が光りました。
「へっ……?」
魔物の歯によって規則正しく出来た傷口が私の手に近い方から次々光っていく。
「……ニムの出血が止まった?」
呆然とオル君が言います。
確かに、手をどけてみるとニム君の傷口が全部塞がっていました。
「治癒魔法?あれだけの出血が一瞬で止まった……」
みんなぽかんと口を開けてニム君と私の方を見ます。
私、何をしたんだろう。
治癒魔法っていうのを使ったのかな。それにさっき魔物に火がついて爆発したよね……
「今何が起こったの?」
思わず横に来ていたオル君に質問します。
「何がって、魔法だろ」
……これが魔法?呪文とかそんなのを一切使ってないのに。
「あんた、かなりの能力者だろ。あんたがさっき使ってたの上級魔法だぜ。治癒魔法も相当なもんだ」
そうなの? 確かにあれだけ強そうな魔物が一瞬で燃えたり爆発したけど。
「とにかく今は戻ろう、ニムを医者に見せないと」
ニム君の出血は止まったように見えるけど、ほかにもなにかあったらいけないもんね。
にしても私、魔法使えたよ。しかも結構すごいらしいです。
傷口は塞がったけどまだニム君の意識は戻ってきていません。
私たちはオル君の指示に従って早足で森の奥に進んでいきました。




