ウサギさんとファンタジーな何か
目を覚ましたらなんだか、何人かに見られてました。
誰だろ、確か私いつも通りペットショップに出勤しようと角を曲がったら、急に足元の感覚がなくなって……
私どこかに落ちたのかな?うーん、若干頭が痛いよ。
まわりがぼんやりとしか見えないので目を擦る。
あれ?なんか変だ。私の手ってこんなふさふさだったっけ………
「えぇぇ!」
なにこれ、思わず叫んだ。
手がふさふさの、動物の手になってる。
今までペットショップ店員として見てきたものと照らし合わせると……う、ウサギ?ウサギかなぁ、これ。
ぺたぺたその手で顔やら身体を触ってみると、ん?毛だ。薄い金色で長めの毛足。
まわりを見ると、そこにいたのは……これまたウサギだ。
長い耳にひくひく動く鼻、ひげ……ウサギさんだよ。どこからどう見てもウサギだよ。
普通と違うのはずいぶん大きくて服を着てるってことくらい。
だってウサギに見下ろされるってあり得ないもん!寝転がってるけどウサギにこんな角度で見下ろされるってあり得ない!
っていうか私ウサギになってるの?状況が全くわからないよ……
「なあ、大丈夫かあんた」
喋った?ウサギさんが喋った!
「名前は?どこの一族だよ」
一族?なにそれ。
それより今の状況、服を着た等身大のウサギさんに囲まれてる。なんてファンタジーな。
しかもウサギさんたちみんなもふもふだよ!
特に私の目の前にいる、ちょっと口調の荒っぽいウサギさん。
毛先カールしてるじゃないですか!絶対さわり心地最高だよ!毛づやもいいね。触りたい、全身でもふもふしたい!
口調と見た目のギャップがさらに……状況はよくわからないけど幸せ。
なにを隠そう、私はもふもふが好きでペットショップ店員になったんだ!
まあペットショップだからもふもふ以外もいるし、世話とかいろいろ大変だけど、毎日もふもふを見れて、触れるって幸せ。
「……なんで、俺を見るんだ?」
はっ、可愛くてついじっと見てしまった。そうだよね、失礼だよね。
「えーと、ここはどこで、私はウサギですか?」
混乱しすぎて意味がわからない質問をしてしまった。私はウサギですかってなに聞いてるの?たぶんすごく変な子だと思われたよな。
「はっ?」
やっぱり変な子だと思われた!だって目がなんか、呆れてるみたいな、そんな目してるもん!
「ウサギですかって、あんたどっからどう見てもウサギ獣族だろ。あとここはレベレの森で、あんたは上から落ちてきたんだよ」
やっぱり私はウサギになってるんですか。ゆ、夢じゃないよね、ベタだけどつねってみよう……あっ、手の感覚がわからない。上手くつねれないよ。まあウサギの手になってるわけだし。
「ほんとに大丈夫か?降りれないなら木に登るなよ」
あー、木に登ってたと思われてるのか。見上げると確かに木が生い茂ってる。
「で、名前は?」
「名前……藤田美夏です」
「フジタミカ?変な名前だな。どこの一族だ?」
一族?一族ってなんだろ。なんとか族とかに別れてるのかな。
「金毛ならダフだろーけど、にしては色が薄いし毛足長いし」
「ライは……あそこ金っていうより黄色だよね」
ウサギさんたちが話し合いを始めた。
へぇ、毛の色と毛質で別れてるんだ。普通のウサギとおんなじだな。
見るとここにいるウサギさんたちはみんな毛の色と毛質が違う。
私は……なんだろ。私犬猫はそこそこわかるけどウサギはあんまりわかんないんだよな。ケージ見れば書いてあったから。
「わからないです」
素直に言おう。わかんないから。
「まさかあれか?変異生まれで追い出されたとかそんなのか?」
へぇ、一族の毛の色と毛質と違うと追い出されるのか……でも違うよ。そもそも私は元人間なわけだし。
「えーと、知らないんです。族があるのも今知りましたし」
「はぁ?」
驚く、といっても口をぽかんと開けてるだけだけど、可愛いな。ペットショップでは普通のウサギはこんな顔しないもんね。可愛い。駆け寄って抱き締めたい。
「知らないってどういうこと?獣族なら普通わかるよね?」
この口調の丁寧なウサギさんは毛足の短い黒と白のブチ。もふもふってほどもふもふしてないけど、なで心地は良さそう。
「いえ、あのっ、私獣族じゃないんです……」
だんだん語尾が小さくなっていく。
何言ってるのこいつみたいな目をしないでっ!いくら可愛いウサギさんの目でもそんな目されたら悲しいよ!
「どっからどう見てもウサギ獣族だろ」
そんなっ、冷たい目で見ないでください!可愛いさより悲しさが勝るから……
「じゃああんたは何者だ?自分自身のことぐらいわかるだろ」
信じてもらえるのかな、でもこれくらいしか言うことないし。
「私は……なんなんでしょう、今……たった今ウサギになりまして」
「たった今って……じゃああんたなんだったんだよ。犬か?熊か?」
全部動物なんだね……いや、まあ人間も動物か。
「えーと、人間?わかるか……」
「ああ?人間!?」
「何で人間がここにいるの?」
えっ?何でみんなそんな、さっきの冷たい目より冷えきった目になってるよ。
「人間っていってもここの人間じゃないよ」
自分が震えてるのがわかるよ。今までこんな目で見られたことないもん。
「当たり前だろ!ここに人間がいてたまるかよっ!」
なにかあったのかな……そもそもここってどこなの?レベレの森って言ってたけど、ここって日本、というか私のいた世界なんだろうか。喋るウサギさんがいるし。
「たっ、たぶんここは私のいた世界と違うんだと……」
「まさか人間どもの間者か?人間どもに俺らの居どころ探ってこいって言われたのか?」
「そんなことないです!そもそもここのこととか一族とか全く知らないんです!」
みんな顔を見合わせながら疑わしげに私の方をちらちら見る。信じてもらえないよ……どうすればいいんだろ、というかなんでこんなことに……
「嘘は言ってないよ」
救いの声が!信じてくれるの?誰だろ。
見るとそこにいたのは他のウサギさんより一回り小さいウサギさん。子供かな?毛まだふかふかしてるよ、子ウサギさん?
今まで他のウサギさんの後ろにいたっぽい。顔だけひょっこり出してる。
「うーん……フィルが言うならほんとなのか?」
フィルというのか、ありがとうフィル君!信用されてるっぽいし。
「触ればはっきりするんだけど……」
触ればはっきりするの?どうぞどうぞ、触ってくださいっ!というか触らせてくださいっ!こっちから触りにいきますよ!
思わず目が輝くよ。そしたらびくってなるフィル君、可愛い。早く触ってください!私からいくよ!
はっ、つい興奮してしまった。
完全にフィル君に怯えられたよ……食べたりしないから、せめて私が無害だって証明だけしてください……
「いったん押さえとけ、フィルが怯えるから」
どこからどう見ても怯えられたみたいです。
ぼけっとしてたらがっつり腕を掴まれた。
ウサギさんの毛の感触が……もふもふだよ。気持ちいいよ。こんな状況でもなんか嬉しい。
ぺたっとフィル君の小さい手が私のおでこに触れた。頑張って手を伸ばしてる。ああ、小動物って何してても可愛いな。
私のおでこに触れていたフィル君はしばらくして手を離して言った。
「嘘じゃないよ、全部ほんとみたい」
フィル君がそう言ったとたんみんな安心したようにほっと息をついた。私、信じてもらえたの?て言うかフィル君何者なの?
「ちょっと雑念が多くて分かりにくかったけどね」
雑念って何?確かにずっと可愛いとかもふもふの感触に悶えてたけど……そうだね、雑念だよ。
そして、手を離してもらえました。
もうちょっと掴まれててもよかったんだけどね。まあいいです。
「ちょっと手荒だったがすまなかったな。見た感じどこの一族でもなさそうだしで警戒しちまった」
丁寧に頭を下げてくれるウサギさんたち。こんなの見せられたらゆるしますとも!触りたいのをぐっと堪えてお礼を言います。
「こちらこそ、今の状況が全くわからなくて」
「あんたの話をまとめると、あんたは異世界から来た人間で、なぜかウサギ獣族になった……と」
そういうことです!まったくもってその通りです!
私がうんうんとうなずくと皆さんの私に向ける目がふっと柔らかくなりました。
「じゃああんたはここについてなんにも知らないのか?」
「はい、あのっ、ウサギ以外の獣族?っているんですか?みんなふかふかしてますか!?」
欲望丸出しの質問をしてしまった。いや、でも気になるじゃないですか。こんな可愛い子がもっといると思ったら夢が広がるよ。
「いるけどよ……数は少ないぜ。人間やエルフに狩られてるから」
「へっ……?」
狩られてるって言った?こんなに可愛い子達が狩られてる?
「あんた人間だったならわかるのか?あいつらからしたら俺らみたいな獣族は可愛いらしくて、愛玩やらで狩られて売られるんだよ」
たっ、確かに。こんなに可愛い子達がいたら日々そばにおいてもふもふしたい。わかる。わかるよそれは!
「普通のウサギを飼えばいいのによ、なんでわざわざ……」
へえ、普通のウサギもいるんだ。でもさ、やっぱり等身大もふもふには憧れというか、どうせなら全身で感じたい。
「昔はもっと多かったんだぜ。でも俺のじいさんの代だったかな、獣族と人間とエルフの間で戦争があって……」
ウサギさんのフジタミカの発音はコスタリカと同じ感じです。
もふもふ大好きなので、文中にたくさんもふもふって単語は出てきます。