はじまりの街
sword of dragons
王道VRMMOと銘打ちされた一本が発売され、正式サービスオープンを迎える今日。
20XX年、ゲームと言えば、VRMMOと言われるような時代背景だ。
もう一つの現実と形容される世界。
人生は一度ならやり直せる。
そこに希望はあるだろうかと問われれば勿論ある。
ゲームの世界でトップになることが叶えば、装備やキャラクターのRMTによりリアルのお金も手にすることが出来るからだ。
様々なVRMMOが発売されてきたが、この作品は王道というだけあってβテストでの前評判が良かった。
皆、結局王道が好きなのだ。
多数のゲームをやりこんできた俺だ。
今まで、食い扶持もこのVRMMOで稼いできた。
そしてまた始まるのだ。
地獄の廃人仕事が。
だから、今、俺は高々に宣言することが出来る。
俺の職業はニートだと!
ーーーGAME START!!ーーー
声高々にそう叫ぶと、ロード状態がどうとか、セーブ状態が云々、健康状態が云々、アップデート情報が云々。
ベッドに寝転んで天井を見ていた視界が暗転した。
パチパチと瞬きをし、周りを見渡して見る。
「ここ、フィールドなのか?」
大体、初めてログインする場所は街の広場だと相場は決まっていそうだが、ここはフィールドだ。
他の多くのプレイヤーはゾロゾロと同じ方向に向けて歩いているみたいだ。
「向こうに最初の街があるのか」
敵は湧いてないみたいだが、そうなると何故街ではなくてこんなフィールドから始まるのだろうか。
誰もが疑問に思うことであろう。
そして、大勢のプレイヤー達が向かっている方向に森は見えているが、丘があって段差があるからなのか街までは見ることが出来ない。
では、街を見つけたという奴はどうやって見つけたんだろうか。
それもこんなログインしてすぐに。
考えられる事は、正式サービス開始すぐだから街のサーバーに負荷をかけ過ぎないようにしようとして、ログイン場所を変えて運営の奴が案内役を勤めているのか。
それとも、これは何かのボーナスステージなんじゃないのか?
どちらかというと、前者の方が現実的だが、俺は後者な予感がしている。
大体のMMOといえば、多人数参加型における協力プレイだ。ゲーム初期からパーティーを組んで狩る奴は阿呆だが、Levelが上がっていけば、それは当然になってくるのが常識だ。
そして、このVRMMOは、今じゃビジネスとなってる。
つまり、RMTは認められている。
ならば、後半に出るレアドロップは多人数で狩るから、その価値もその分だけ減ると言っていい。
ということは、あるはずだ。
稼げる物が。
それもこの場所で、そしてこの始まったばかりの期間に唯一のレアドロップがあってもおかしくない。
パーティーを組んで狩り始めれば、それは言ってしまえば、パーティー全員が同じような実力・Levelにしかなり得ない。
だから、あってもおかしくないはずだ。
初期の今に、ある程度、一気にトッププレイヤーにのし上がる方法が。
結果を言おうか?
そんなものは無かった。
ふん、俺の妄想か。はっはっはっしね。
ずっと一人で何かを探す滑稽な俺の姿を誰ももう見てくれない。
そう。この場所にもう人はいなくなっていたのだ。
陽は暮れ、夜になろうとする時刻。
俺は何をやっていたんだ?
自問自答した。
ゲーム開始の午後一時から六時間を経過しようとしている。
正真正銘の阿呆はここに居た。
知ってるか?
ゲーム開始の数時間がどれだけ重要なのか。
VRMMOにおいてLevelがいかに大事なのかと。
やっちまったよ神様!
多分もう皆は、最初の街にとっくに着いて、俺なんかよりLevelが一回りも二回りも違うんだ。
萎えて来たな・・・。
ゲームというもんは不思議と一回萎えると一週間は触れられ無い物だ。そして気付いたらまたやり始めている。
ダメだ。俺の場合、ニートが仕事なんだ。これを一週間でもやめては生きていけない!
そんな時…頭が震えた…
ピロロロロンッ
運営からメールが届いた。
システムウィンドウを指を動かして出しメール箱を見てみる。
※※※※※※
from:運営
本文:一度出たら二度と行くことの出来ない幻のステージである初心者の聖地で最後の一人となった幸運?の持ち主に捧ぐ。
※※※※※※
本文を読み、メールに添付されている物を受け取る。
インベントリに入ったアイテムを見る。
三つあるみたいだ。
幸運のマント 《運+100》
幸運のネックレス 《運+50》
幸運のリング 《運+30》
運とは、全状態異常抵抗増加、アイテムドロップ率増加、経験値増加、追加クリティカル率増加、追加回避率増加、追加命中率増加という効果だ。
すげー良いもんもらったじゃんと思う人もいるかもしれないが、そんな事は全くない。
この装備が使えるのは精々、低Levelから低Level卒業くらいの期間だろう。
だが、ラッキーなのも間違いない。
六時間出遅れたが、これが有ればまだ追い越せるLevel帯なのも間違いない。
さあ、頑張りますか。夜からが廃人達の活動時間帯なのだ!と叫び街がある方角へと走り出して行く。
まだまだ試合は始まったばかり。
まだまだ焦る時間じゃないさ。
俺のsword of dragons の廃人プレイの日々はこうして始まった。