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CASE7 ストーカー:08

「ふ、ふざけんなよーーーーー!」

「え? なにが?」

「何がじゃねえ! これ! これ、これ何?!」


 篤利の絶叫がクラブ・フィールド店内に響き渡る。山びこでも聞こえてきそうな篤利の大声に、レコードの準備をしていたDJが振り返って怪訝そうな顔をした。

 総志朗はきょとんとした顔で、『それ』を手でくるくると回し、受け取ろうとしない篤利に、むりやり『それ』をつかませようとする。篤利は拒否しようと両腕を広げ、ぶんぶんと首を振り続ける。

 彼らの間で押したり引いたりされている『それ』。『それ』とは……


「何これって、どう見てもカツラじゃんかよ」


 そう、カツラ。茶色の長い髪の毛のカツラ。サラサラの触り心地から人毛のカツラだろう。


「カツラなのはわかってんだよ! なんでそれをオレに渡すわけ?!」


 篤利はもう半分泣いている。カツラを渡される。その答えとは。


「オレに女装しろってのか?!」

「それ以外に何がある」

「意味わかんねっ! 女装する意味がわかんねっ!」


 小学生とはいえ、プライドがある。いや、まだ幼いがゆえのプライドだってある。なんで自分が女装なんてわけのわからないことをしなければならないのか。総志朗の平然とした顔が憎たらしい。


「お前、わかってねえな。いいか、依頼人は女の子だ。危険な目に合わすわけにはいかない。だから、お前が身代わりになるんだよ。すっごく大事な任務だ。篤利、やったじゃねぇか! 記念すべき初仕事だ!」


 キラキラと総志朗の背中から光が溢れてきているよう。その目も心なしか輝いて見える。任務とか関係なく、状況を楽しんでいるようにしか見えない。


「……初仕事がコレって、どう考えても最悪なんだけど」

「なんか言ったかい? 篤利君」

「何でもねえよっ!」


 有無を言わさない、これでもかという爽やか笑顔の総志朗に蹴りを入れたい気持ちを抑えつつ、篤利は歯を噛み締めた。

 手伝うと言ったのは自分自身だ。やりたくないことでもやらなきゃいけない。


「色々やって、男は強くなるのよ、あっくん!」


 オネエ言葉でそう言う総志朗を、篤利は我慢できずに蹴り飛ばした。




 総志朗は車で真奈美を迎えに行く。真奈美は白いもこもこしたニット帽、白いダウンコート、細身のジーパンという服装で総志朗の車に乗り込む。


「着替えは持ってきた?」

「はい。篤利君が持ってきた手紙の通りに」

「オッケィ」


 車はそのままクラブ・フィールドへと戻る。ルームミラーからバイクがついてくるのが見える。真奈美はそれを確認し、一瞬身震いした。


「大丈夫。今日で解決する」


 総志朗の力強い言葉を受けて、真奈美は無言で大きくうなずいた。







 真奈美と総志朗はクラブ・フィールドの裏口から事務室へと入った。事務室には篤利が待っていて、不機嫌そうな顔で二人を睨みつける。


「篤利、ぶうたれてんじゃねえよ」

「わかってるよ!」


 そう言いつつも頬を膨らませたままの篤利に、総志朗は苦笑しつつ、真奈美の方に向き直る。


「手紙で説明したとおり、真奈美ちゃんと篤利には入れ代わってもらう。真奈美ちゃんはこのテープレコーダーに『セリフ』を吹き込んでほしい」

「はい」

「ことが終わるまで、真奈美ちゃんはここで待機。黒岩さんにそばにいるようにたのんであるから、心配ない」


 真奈美は神妙な顔でうなずく。それを笑顔で受け、総志朗は篤利の肩をポンと叩いた。


「やれるよな?」

「当然だろ!」

「さすが。オレの助手だね」




 数分後、真奈美は着替えを済ませ、篤利にそれまで着ていた服を手渡した。テ―プレコーダーにも『セリフ』を吹き込んだようで、「これでいいんですか?」と少し不安げに頭を掻く。

 真奈美と総志朗は休憩室の方に移動し、篤利が着替えてくるのを待っている状態だ。

 しばらくして、ドアノブがかちりと動いた。総志朗と真奈美の視線がドアの方に降り注ぐ。

 少しだけ開いたドアが、それ以降動かない。総志朗は腹の底から笑いが込み上げてくるのを我慢して、「篤利、早くしろ」と急き立てた。

 ドアがまた少し開く。が、止まる。そして、閉まる。


「あつこちゃん、早くしてよぉ」

「あつこって誰だよっ!」


 ドアが勢いよく開いた。総志朗はもう笑いが我慢できずに腹を抱えて笑い出した。真奈美も悪いと思って我慢しているようだが、口元が笑いを抑えきれていない。

 真奈美とほぼ同じ身長の篤利には、真奈美の服装がぴったりマッチ。長いカツラも白いニット帽をかぶっているおかげで違和感もない。白いダウンコートだって似合っているし、線が細い子どもの体型の篤利には、細身のジーパンも合っている。


「に、似合ってるわ〜。あつこちゃん」

「あつこちゃんて呼ぶな!」

「じゃあ、あつみちゃん」

「なんであつみなんだよっ」

「結局あつこでいいんだろ?」


 篤利は相当不服なようで、「オレは男だ」「あつこってなんだよ」「あつみの後はあつよとか言い出すんだろ」と文句をずっと言っていたが、総志朗に連れられ、仕方なく休憩室を出た。









 ねえ、総志朗。

 篤利君が、今何してるか知ってる?

 私も詳しくは知らないけれど。

 何でも屋みたいなことやってるんだって。

 人は、人に影響を与える。

 あなたが与えた影響は、篤利君の心にずっと残っているんだよ。

 忘れないで。

 あなたがいたこと。

 まだ、ここにいること。


週一更新が続き、申し訳ないです。


これから先、週一は必ず更新しますが、週に何回も更新できるかわからない状態です。(申し訳ないです。仕事が忙しいため……ご了承いただけると幸いです)


ですが、毎週日曜か月曜の深夜(深夜なので月曜か火曜の更新ということになります)には必ず更新します。あとはその週に出来れば何回か更新するという形でしばらくはやっていこうと思います。


これからもどうぞ『ライオンの子』をよろしくお願い致します。


ご意見ご感想、疑問などあれば、いつでもコメントやメッセージをいただけるとすんごく嬉しいです。

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