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CASE7 ストーカー:07

 除夜の鐘の音がする。梨恵は友達四人と初詣に来ていた。刺すような冷たい空気の中、それぞれに防寒対策をした格好で、小さく縮こまりながら神社の列に並ぶ。


「なにお願いする?」


 友人が手袋で口を覆いながら、皆に聞く。皆それぞれ「彼氏が出来ますように」「今年もいいことありますように」と自分のお願い事を口にしていく。

 梨恵はぼんやりと自分の願い事が何なのか考えていた。今年、いやもう去年の出来事になってしまった数々の出来事を思い出す。総志朗に出会ったこと、彩香の死、生意気な小学生の篤利、いつも笑顔の奈緒。去年は総志朗に出会ったことで様々なことを経験した。そして、色々なことを考えた。感じた。今、考えていること、感じていること。もたげる不安。

 今現在の願いはただひとつしかない。


 どうか、奈緒ちゃんが無事でありますように。


「梨恵、もうすぐだよ」


 友人の声で前を向くと、賽銭箱が見えてきた。梨恵の前にいた友人が賽銭箱に五円玉を投げ入れ、真剣に手を合わせて祈っている。

 なにより気がかりなのは奈緒。だが、ふとした瞬間に思い浮かぶのは、もしかしたら自分も壊される――それは殺されるということなのか――かもしれない不安。

 だが、光喜は言ってくれた。『守る』と。そう言ってくれた時の光喜の表情はとても真面目で、真剣な目をしていた。信じたくなる。彼の言葉を信じてしまいそうになる。

 惑わされている、とも思う。惑わされてしまいたいとも。


「梨恵?」

「あ、うん」


 賽銭箱に小銭を投げ入れる。今は奈緒の無事だけを祈ろう。そう思った。






「あけましておめでとう」

「んあ?」


 つけっぱなしだったテレビから、正月のバカ騒ぎが聞こえてくる。昨日の夜はフィールドで年越しイベントに参加していた。帰って来たのは朝方。まだ陽の見えない時間に帰宅し、テレビをつけっぱなしで寝てしまったらしい。どうせだから初日の出を見ようとしていたのに。総志朗は舌打ちをして、起き上がった。


「もう三時だぞ。寝すぎじゃね?」


 篤利が箱を持って立っていた。また不法侵入だ。


「お母さんに頼んでおせち料理少し持ってきたんだ。食べる?」

「まじ? お前の母ちゃん最高!」


 眠気が一気に覚めていく。テーブルに置かれた弁当箱には、伊達巻や焼き豚、紅白かまぼこ、黒豆……おいしそうなおせち料理が入っていた。

 箸をにぎり、まずは伊達巻を食べる。ほんのりと甘い卵の味が口の中に広がってゆく。


「うめぇー!」

「ところで、総志朗」


 篤利が手づかみで栗きんとんをつまみながら、総志朗を睨みつける。


「なんだよ?」


 今はおせち料理のおいしさに舌鼓を打っているのだ。邪魔してほしくなくて、総志朗は不機嫌気味に返事をする。


「依頼、手伝うって言ってんのに、なんでオレに何も指示出さないわけ?」


 食べていた昆布が喉につまり、「ごほっ」と咳き込んでしまった。またもやすっかり忘れていた。いや、忘れていたというより、わざと忘れた。厄介極まりないことは忘れるに限る。


「悪かったよ」

「別に謝ってほしいんじゃなくてさ。指示をくれ」

「え……ええと」


 篤利が期待に満ちた目で総志朗を見ている。数の子をほおばりながら、総志朗は考えを巡らせていた。


「わかった。ちと待て」


 一枚の紙を取り出し、さらさらと字を綴る。なかなかにいいアイディアが思いついた。


「この手紙を真奈美に渡してきてくれるか? 本人に直接、必ず渡すんだ」

「了解」

「手紙の中身は見るなよ? あと、お前身長いくつ?」


 手紙を両手でしっかりと受け取りながら、「一五七センチ」と答える。総志朗は満足そうにうなずいて、「じゃあよろしく」と笑みを浮かべた。


「これだけ?」


 手紙を渡すなんて誰にでも出来ることだ。篤利は不服そうに口を尖らせる。


「いや、これだけじゃない。とにかく行って来い。話はそれからだ。オレはフィールドにいるから、フィールドに来いよ」

「わかった」


 どうにも腑に落ちない、そんな表情をしながらも篤利は手紙を握りしめ、部屋を出て行った。





「何の用だよ? 正月早々」


 不満たらたらで、俊文がクラブ・フィールドにやって来た。総志朗が呼び出したのだ。


「ちょっと話があってね」

「話?」


 開店していないフィールドの店内にいるのは、総志朗と俊文と学登のみ。静まり返った店内で、学登が洗い物をしている音だけがやけに大きく響く。


「オレさ、真奈美ちゃんのこと、好きになっちゃった」

「は?」

「だから、オレたち、ライバル?」


 嫌味なほど爽やかな笑顔で総志朗は言う。呆然としていた俊文の顔が紅潮していくのがわかった。


「どういうことだ? 真奈美は俺の女だ!」

「真奈美ちゃんとあんた、つきあってねえじゃん。だったら、真奈美ちゃんはお前のもんじゃんねえし」


 鼻で笑い、俊文を見据える。俊文は一瞬怯んだのか一歩後ずさったが、気を取り直したように、また一歩前に踏み込んだ。


「てめえに真奈美はゆずらねえ!」

「お前の自己満足につき合わされてる真奈美ちゃんが哀れで仕方ないよ。真奈美ちゃんはオレがもらう。あきらめてとっとと手を引いてくれよ。手を引くことだって愛情だって早く気付け」

「な、なんだと!」


 俊文の顔が怒りで真っ赤になってゆく。今にも総志朗につかみかかりそうになっているのだが、総志朗がポケットに手を突っ込み、余裕の表情なので、どうにも手が出しにくい。


「黒岩さん、こいつ、怒りで沸騰しちゃってるよ。冷たいジュースでも出して、冷やしてやって」

「ふざけんなっ!」


 殴りかかってくる俊文をさらりとよける。俊文はその勢いでテーブルに体をぶつけてしまった。すぐに体を起こし、また総志朗に殴りかかるが、またよけられてしまう。


「てめえ!」

「お客様、店内で暴れないでくださいね」


 店をめちゃくちゃにされたらかなわんとばかりに、学登が俊文の腕を取る。その隙に総志朗は事務室へのドアへと、足取りを弾ませて行ってしまった。


「じゃあね〜」


 むかつく笑顔で、ドアの向こうに行ってしまう総志朗を、学登はあきれ気味に、俊文は怒り心頭で見つめていた。








 私は、どこかで未だにあなたを信じてる。

 馬鹿みたいだと、思うけれど。

 でも、どうしても……

 すべてが嘘だったのだとは思えないの。




更新が滞っているな……と思ったらそうでもないですね(^^;

最近週2以上更新しているので、一週間も更新しないと変な感じです。

軽く五月病にかかり気味ですが、読者の皆様は大丈夫ですか?

GWあけはだるさの極地に陥るかと思いますが、頑張って乗り切りましょう!(特に私!)

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