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CASE1 ゲーマー:05

「ちょっと外でない?」


そう総志朗に声をかける。

総志朗は一瞬怪訝そうな表情を浮かべるが、学登に声をかけて先に出口へと向かった。

その後について、梨恵も外に出る。


「今日は涼しいな。」


心地よい風が吹いていて、夏の暑さは少し和らいでいる。

総志朗はゆるめていたネクタイをさらにゆるめた。


「…で、話って?」


ネオンが暗い夜を明るくする。

どこをみても輝いているそれに、梨恵は目を移した。


「あんた、何でも屋なんだよね?」

「まあね。」

「依頼、あるんだけど。」


そう言って、総志朗を見る。

彼の顔にネオンが当たり、輝いて見えた。


「まじで?!なになに?何でもやるよ〜!」


依頼という言葉が、よっぽどうれしいのだろう。

総志朗の言葉は弾んでいる。


「ゲームをしない?簡単なゲーム。」


総志朗の表情が固まる。

梨恵の言わんとすることを伺うように、梨恵の顔を覗いた。


「私が死ぬか、生きるかのゲーム。

ルールは簡単。私が死んだら、あんたの負け。」

「意味がわからん。」


からかってんのか?


総志朗は眉をしかめる。


「遺書を書くわ。『加倉総志朗って男に殺されそう。』って。」

「やっぱ意味がわかりません。」


梨恵の目線は遠い。


「つ・ま・り。

私は自殺をしようとする。

あんたはそれを止める。

私が死ねば、遺書のせいで、あんたは刑務所行き。

私が生きてれば、あんたの勝ち。

あの家に、あんたを住まわせてあげる。

どう?のる?」


梨恵が妖しい笑みを浮かべた。

何を考えているのかわからないその笑みは、魔女のよう。


怖っ何考えてんだこの女!


総志朗は梨恵を睨みつける。

どこ吹く風と、梨恵はネオンを見つめた。


「冗談はよせよ。自殺ゲームなんかにゃつきあえね〜よ。」

「…そ。じゃ、その辺で首つってくるわ。遺書かいてさ。」


にやりと梨恵は有無を言わさない笑みを浮かべた。


「あんたは『NO』は言えないの。あんたが私を止めなけりゃ、あんたは殺人犯になって刑務所行くだけ。」

「ふっ…」

「何笑ってんの。」

「笑ってんじゃねーよ!ふざけんなっつってんだよ!」


怒鳴りつけたが、梨恵は鼻で軽く笑って流してしまった。


「あの家に勝手に住んでるの、訴えてもいいんだけどねぇ。不法侵入罪かな〜。」

「あ〜の〜な〜!」


勝利を確信した梨恵が、してやったりとあざ笑う。

これは勝てないと、総志朗は肩を落とした。


「わ〜かった。ゲームの期間は?」

「そうね…。今夜の0時スタートで、3日間。どう?」

「おーけぃ。やってやろうじゃんか!」


今の時間は23時45分。

梨恵のゲームがもうすぐ始まる。






時計の針がゆっくりと12のところで重なる。


「ルールにひとつ付け加えてくれ。

家の中で死ぬのは無し。さすがに家の中にまで侵入できないだろ。」

「ん〜まあ、いいよ。」


梨恵の家までついていくと、総志朗は言う。

ずっと監視していなければいつ死んでしまうかわからない。

四六時中くっついているとなると、もうそれはストーカーだ。


面倒くさいことになったな…


家に着き、梨恵はとっとと自分の部屋に行ってしまった。

それを外から眺めている自分は、ストーカーと言わずしてなんだというのだ。

梨恵の家族に訴えられなきゃいいなぁとわざとらしく電柱の影に隠れてみる。


一方梨恵は、部屋に入るなり、ベッドに横たわった。

両親はもう寝ていたので、小言は言われないですみそうだ。

死ぬ気なんてさらさら無い。

ただ、誰かをからかって遊びたかった。

幼稚くさいそんな心理に嫌気がさすが、やっぱりなんだが面白い。

そっと外を覗くと、電柱の横で体育座りしている総志朗が目に入った。


なにあれ!


ぶっと吹きだす。

あれじゃあ家から追い出されていじけてる子供だ。

あまりに間抜けなその姿に、梨恵は腹を抱えて笑う。

こんなに笑ったのは久しぶりだと梨恵は思った。




朝の光に目を覚ます。

スズメの鳴き声が心地いい。

カーテンをめくって外を見ると、総志朗がいない。


あいつ…どこ行きやがった。


そんなことを考えて、思わず笑う。

なんだか楽しい。


今日は朝から講義がある。

とっとと用意をすますと、外に出た。


「ちょっとオニイサン。」


門を出たところで、不審者発見。

総志朗は門に寄りかかって寝ていたのだ。


「ふああ〜よく寝た。おはよん。梨恵っち!」

「よくうちの両親に見つからなかったわね。」


共働きの両親はもう家からでている。

こんなところで寝ていたら、両親(特に母親)は『怪しい人がうちの門で寝てるわよ!!』と騒ぐに決まってる。


「ん?オレ、忍者ハッ○リ君尊敬してるから。なんとかなるさ。」

「意味がわかりません。」


梨恵はすたすたと歩を進める。

総志朗はのん気に鼻歌を歌いながら、その横を歩く。








なんだか昔からの友人のようだった。

ううん。

もっと深い。

恋人のようで、違う。

友達のようで、違う。

家族のようで、違う。

あなたと私の関係を言葉で表すなんて難しいのかな。

でもね。

なによりも深くあなたと私はつながっていたと思うんだ。








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