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CASE4 ダブル:01 

「人探しの依頼ねぇ」

「そ。それがさあ、依頼人のヤローの連絡がつかねえのよ」


 篤利と依頼の契約をした日、クラブ・フィールドに訪れた高校生の依頼。

 それは、行方不明になった双子の兄・相馬光喜そうまこうきを探してほしいという依頼だった。

 依頼人である相馬優喜そうまゆうきは、光喜の行方がわかったら連絡しろとケータイ番号を教えてくれたが、そのケータイに何度かけても彼とつながることはなかった。

 相馬光喜の手がかり、それは何一つないのだ。


「見つかる見込みは?」

「さあね。4年前にいなくなってんだってよ。どっかでポックリ死んでんだろ」


 打つ手無し、と総志朗は手を左右に振ってみせる。

 学登はテーブルを拭いていた手を止め、大きくため息をついた。


「俺の方で、調べつけとくか? 依頼人の身元くらいは調べてやるよ」

「まじっすか〜」


 それを期待してクラブ・フィールドに来たのだ。学登の申し出に総志朗はほくそ笑む。


「それを頼みに来たんだろ? お前の魂胆は見え見え」

「まあいいじゃないの〜。学ちゃんあっての何でも屋稼業なのよ。頼りにしてんだよ〜」


 調子のいい言葉を並べて学登を拝むと、「気持ち悪いんだよ」と一蹴されてしまった。


「おだてたってタダにはしないからな。ちゃんと情報提供料を払えよ」

「小難しい話は置いといてさ」

「置くなよ。お前そうやって金払わないで逃げる気だろ」


 図星だった。とりあえず笑ってごまかす。それが一番だ。


「金はきっちり払えよ。で、その依頼人の住所でもわかればいいか?」

「んだね」

「依頼人の名前は?」

「相馬優喜」


 学登の顔が一瞬でこわばる。布巾を掴んだ手を見つめ、何事かをぶつぶつとつぶやいたあと、ゆっくりゆっくりと視線を総志朗に送る。


「優喜……だと? まさか、高校生くらいの男か?」

「そうだけど。なんだよ、黒岩さん、知り合い?」


 不自然なほどに顔を歪め、学登は布巾を握り締めた。いつも穏やかな学登からは想像がつかない異様な雰囲気。


「その依頼、断れ」

「なんで」

「いいから、断れ!」


 普段は優しい学登の声が、怒りを帯びる。なぜ怒鳴られたのかわからず、総志朗は困惑する気持ちを隠すことが出来ない。


「断れって言われても……。梨恵さんが仕事しろ仕事しろうるさいのに断ったりなんて出来ねえよ。オレが梨恵さんに殺されてもいいわけ?」


 世界で1番恐ろしいのは梨恵だと思っている総志朗は、角が生えた梨恵を想像するだけで体がびくつく。これで仕事を逃したことがばれたら、あの家から追い出され、寒空の下、おうちのない人々のところに行くしかなくなってしまう。


「兄ちゃん、若いのにこんなところに来ちゃいかん」

「寝るところがないなら、俺の家に泊まるか? 青いビニール製だけどな!」


 おうちのない方々の優しいセリフがなぜか脳裏をよぎった。ワンカップのお酒を酌み交わすところまで想像できる。


「総志朗! 聞いてんのか? とにかくその依頼だけは断れ。わかったな」


 学登の声でようやく我に返った総志朗は、学登の否応無しのセリフにむかっ腹が立ってきた。従う理由なんてない。頭ごなしに「断れ」と言われて、納得することなんて出来ない。


「なんなんだよ? そんなに相馬優喜がやばいのか? 一体何者なんだよ? 黒岩さん、知ってるやつなの?」

「……とにかくだ。その名前は忘れろ。絶対に関わるな。いいな?」

「いいわけないじゃん。忘れろなんて言われたら余計気になるし。オレは仕事を断る気なんてないからな! もう黒岩さんには頼らねぇ!」


 むかついてきた総志朗は、さっさとクラブ・フィールドの出入り口に向かう。重さのある扉を両手で開けて、半身を残したまま出る。ほんの少しの隙間から半身を出したまま、総志朗は言った。


「他の依頼は頼るからな!」





 バタンと扉が閉まる。

 それを見届けた後、学登はカウンターに置いたままだったタバコを手に取った。タバコに火をつけようとするが、オイルが底をついた100円ライターから火が出ない。イライラを抑えようとタバコを銜えたのに、余計にイライラが増す。

 意固地になって、ずっとライターをジッジッと擦る。すると、誰かの手がすっと伸びてきて、火のついたジッポを差し出してくれた。


「どうも……」


 お礼を言いかけて、口ごもる。まだ開店してもいないし、従業員が出勤してくる時間でもないのに、一体誰が。


「俺たちを遠ざけても意味無いことくらい、わかってんじゃないの?」

「……光喜」


 そこにいたのは、総志朗の別の人格、光喜だったのだ。

 ようやく火のついたタバコは、学登が吸おうとしないために、ゆるゆると火が消えていく。じりじりと赤く光っていたそれがやがて消えた。


「あれから8年もたったんだ。あいつも起きようとやっと動き出した。わかるかい?」


 目を細め、くっくっと喉を鳴らす。光喜のその口元には常に笑みが絶えない。


「ユキオが……目覚めると言いたいのか」

「その通りだよ。俺もあんたもただ手をこまねいてあいつが目覚めるのを待つのかい? 俺はそんな気はさらさら無い。俺がユキオを消してやる」


 そう言って、光喜は自分の胸を親指で指差した。とんとんと2回胸を叩き、にやりと笑う。


「ユキオを消して、それでどうする? お前はそれでどうするんだ?」

「わかりきってることを聞くなよ」







 あなたの中に眠る彼。

 あなたの中で笑う彼。

 あなたの中で苦しむ彼。

 あなたの中で楽しむ彼。

 それぞれの思いの中で、あなたは。

 ひたすらに生きようとしていたね。

 ただひたすらに。

 それこそが、生まれた意味だったから。




 


 


ユキオとは一体誰?






前半部分をひっそりと改訂してます。内容は変わらないです(^^;

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