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CASE1 ゲーマー:10

 講義が終わり、梨恵は友人と3人で校門を出た。

前に奈緒が待っていた場所とほぼ同じ場所に、総志朗が立っていた。

ニコニコと笑顔で思いっきり手を振っている。


恥ずかしいやつ……


 梨恵は見ないふりをしたかったが、友人の一人が、「あれ、梨恵の知り合い?」と聞いて来た。


「知り合いっていうか……」

「彼氏?! あれ、年下だよね?! 梨恵ってばやるじゃん! 超かっこいいし!」

「いや、彼氏じゃないかな……」

「マジ?! だったら紹介してよ!」


 友人は浮かれながら梨恵をひきずって、総志朗のところへ向かう。

総志朗も信号が青に変わったのと同時に梨恵のほうへやって来た。


「はじめまして〜」


 急に猫なで声を出す友人に、梨恵はあきれる。

女とはこういう生き物なのだ。


「はじめまして。」


 いつもはスーツの総志朗だが、今日はTシャツにジーパンのラフな格好だ。

愛用しているサングラスをはずして、総志朗はにこやかに挨拶する。

色素が薄い緑のかかった茶色の瞳と、キャラメル色のくせのかかったねこっけの髪が陽に透けて、キラキラと輝く。

梨恵の友人は、ポッと頬を赤らめながら、梨恵を肘でこずいた。


「まじでかっこいいじゃん!」

「え〜・・・」


 梨恵は総志朗の性格を知っているから、いまいち納得できない。

客観的に見れば、確かにかっこいい部類に入るのかもしれない。

背もそれなりに高いし、線が細いように見えて、筋肉はついてる。

ハーフのような中性的な顔立ち、そして清潔感がある。


だけど、あほだよ! こいつは!!


 自分の考えに梨恵は突っ込みを入れながら、総志朗を友人に紹介した。

総志朗は自分の名刺を差し出し、「何でも屋やってます〜。依頼あったらよろしく〜」となにげなく宣伝。


「私、絶対、依頼します!」

「じゃあ、これにて。梨恵さん、行こう」

「え? ああ、うん。ごめんね、また明日ね!」


え、行っちゃうの? そんな顔をしている友人を置いて、梨恵と総志朗は歩き出した。






 ふいに鳴った携帯電話。家からだ。

うんざりした気持ちで、ケータイをながめる。

母親の小言をまた聞かされるのだろうか。ため息がこぼれる。


「電話、出ないの?」

「ああ……うん」


 通話ボタンを押して、電話に出ると、「なんで電話でないの?!」という母親の怒鳴り声が聞こえた。


「ごめん。なに?」


つっけんどんな口調で問いただすと、母親の理沙は大きな声でまくしたてた。


「おじいちゃんが、おじいちゃんが死んだの! 早く帰ってきなさい!」

「え……」


 何かの冗談だろう、そう思って、梨恵は笑いそうになった。

だが、母親のせっぱつまった声がそれが冗談ではないことを物語っている。


「病院に来なさい! いいわね?」


 電話の切れた音が鼓膜の奥で響く。


「おい、大丈夫かよ?」


 総志朗の声で梨恵ははっと我に返った。

覚悟していたことだ。祖父が永くないことは、入院した時からわかっていたのだ。


「あ…うん。うん。大丈夫。私、急いで帰るから…。」


 ふらつきそうになるのをこらえて、梨恵は早足で歩き出す。

だんだん歩調は速くなり、ついには走り出した。

 早く祖父の元へ。そう思いながら。





 病院の霊安室。そこには親戚がすでに何人か来ていた。

外は昼間の明るい日差しが照っているのに、部屋の中は暗闇のよう。

梨恵は踏み出すことが出来ず、突っ立っていた。


「梨恵!」


理沙が梨恵にすがりつく。


「……うそでしょ…」


 そんな言葉しか出なかった。

覚悟はしていた。でも、それが実際に起こるなんて、まだ考えていなかった。


 大好きな祖父。

梨恵にとって大事な理解者。

口うるさい両親を毛嫌いしている梨恵は、よく祖父の家に逃げ込んでいたのだ。

そんな梨恵をしかることなく、昔話を聞かせてくれた祖父。

大事な存在がなくしたことを、梨恵はまだうまく理解できないでいた。


「こんなの、嘘だよ……!」








祖父が遺したあの家は、私にとって本当に居心地のいい場所だった。

祖父がいた時も。

あなたがいた時も。

今はあの家に、誰もいない。

風化されてゆく思い出の中で、確かに残るあなたとの日々。

思い出すと、懐かしくて泣けてくるよ。

笑いあっていたあの家での生活が、愛おしいんだ。






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