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CASE1 ゲーマー:09

「梨恵さん。」

「なによ?改まっちゃって。」


ピシッと姿勢を正した総志朗。

とてつもなく真面目な表情なので、梨恵は少し緊張した。


「依頼内容は、自殺を止めること、ですよね?」

「そうですけど?」

「全くその気配が無いんですが。」


梨恵は思わずウッとうなる。

自殺する気なんて無い。

ただ誰かを困らせてうさ晴らしをしたかっただけ。

誰かにそばにいてほしかっただけ。

自殺を止めろ、なんて依頼をしたこと自体、ほんのり忘れていた。


「……わかったわ。これから、とある自殺スポットに行きたいと思う。」

「おお!!なんか依頼らしくなってきたじゃん!」


そんな流れで、梨恵と総志朗は栃木県にある自殺スポットで有名な滝へやって来た。


「すっげ〜!」


勢いよく一直線に流れ落ちる水が大きな音を立てている。

総志朗は嬉しそうに柵から身を乗り出す。


「ちょっと。危ないわよ。」


そこは、滝が正面から見られるように立てられているデッキのような場所。

地面はけっこう遠い。

梨恵が総志朗の腕をつかむと、総志朗はつまらなそうに口をとがらせた。


「立場、逆じゃないですか?」

「……それもそうね。」


梨恵は柵に肘を置き、滝を眺める。

自殺スポットなんて言われていても、雄大で美しい景色だ。


「梨恵さん!!自殺しないで!!」


いきなり総志朗に飛びつかれる。

冷たい目線でにらんでやると、総志朗は「やっぱり気配ないしぃ。」とぶつくさ文句を言いながら、柵に寄りかかった。


「すごいね。」

「うん。」


こうして一緒にいると昔からの知り合いのようで、梨恵は安心しきっていた。


知り合って間もないのに。なんでだろ?


ちらりと総志朗を見る。

楽しそうに滝を見つめる総志朗。


弟みたい。


そう思ったら、なんだか嬉しかった。






3日目の朝。

今日は総志朗の姿は無かった。

その代わりに、相変わらず短いスカートの制服姿の奈緒がいた。


「おはよんよ〜ん!」


朝っぱらからテンションが高い奈緒に閉口する。


「あんた、学校は?」

「うぇ〜!なしえっちって口うるさいおばちゃんみたい!」

「おばちゃんとか言った?」

「言ってないよ!」


メラメラと怒りのオーラを放った梨恵に、奈緒は冷や汗をかきながら、すばやくとぼける。


「あ、あのね、総ちゃん、今寝てんの。だからね、あたしが代わりに来たんだよ〜。」

「総志朗っていえばさあ……。」


ふと、クラブ・フィールドに行った時の総志朗を思い出す。

緑色に輝いた左目。

彼は「光喜」と名乗った。

一体、あれはなんだったというのか。


「クラブの時の総志朗、変だったじゃない?あれって、何?」

「あ〜あれねぇ……。」


奈緒は首をかしげながら、たどたどしく言った。


「にじゅうじんかく、らしいよ〜。あたしはあんまり会ったことないけどぉ。

学ちゃんは気にするなって言ってたよ〜。」


二重人格。

そう言われて、梨恵はすぐさま納得した。

説得力のある話だ。

確かに、彼らは全く別の人格。

のん気でのんびり、ひょうひょうとした総志朗。

神経質そうで、すべてを見透かしたような鋭さを持つ光喜。

だが、二重人格というなら、あの瞳の色はなんだというのか。

もともと総志朗は緑がかかった瞳の色ではあるが、『光喜』の時はその緑色が強さを増す。

あれは一体なんなのか?


そんな疑問が頭の中を駆け巡っている梨恵に、奈緒は犬のようにつきまとう。


「ねぇねぇ、総ちゃんとエッチした?!してないよね?!」

「してません。」

「よかったぁ!なしえっち美人だから、総ちゃん手篭めにされちゃいそうでさぁ、不安〜!!」

「手篭めって…。」


バカそうなのに、そういう言葉は知ってるんだ…。


出そうになった言葉を飲み込んで、梨恵は学校へと向かう。









ただの二重人格だったのなら、まだ良かったのかもしれない。

あなたにつきまとう影はひとつではなかった。

それでも、あなたは『加倉総志朗』という人間であろうとした。

その強さを、どうすれば取り戻せたのだろう。

……ごめんね。

失わせたのは、私なのに。









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