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―軽々しい逃亡―3/3

とにかく、これで俺たちは自由なわけだ。

これからどうするか、考える必要がある。

「奏多さんは、これからのこと考えてる?」

このまま口を聞かないのは厳しいモノがあるので、恐る恐る聞いてみる。

「考えてないよ。これからそれを決めるんでしょ?」

「そ、そうだね。」

思わず下に出てしまう。

機嫌…、戻ったのか?

少しまだ怒っている気がする。

「とりあえず、少し歩いてみない?こうやって城の前にいると怪しまれそうだし。」

と、堀田。

二人とも特に断る理由もなく承諾して、それから城壁を右手にして道沿いを歩くことになった。


城から出てすぐは周りを林が囲んでいておいしい空気が漂っていたが、

ものの10分も歩くと、四方八方を灰色が囲んだ。

しかしここは本当に違う星なのだろうか。

地球と…、いや日本と、全くと言っていいほど変わらない。

街行く人はスーツなどの出勤服や、地球のファッション雑誌で見たことがあるような服を着ている。

歩行者を数倍のスピードで追い越していく車はまるで地球から輸入したように似ている。

少し辺りを見渡せば、ファーストフード店、コンビニ、デパート、パチンコ…。

「すごいね。」

堀田の口から言葉がもれた。

まさにその一言に尽きる。

自分と同じ顔の人間が3人はいるように、同じような星があってもおかしくはないのだろうか。

いや、おかしいだろ。流石にここまで似るわけがない。

「ここ、本当に地球じゃないんでしょうか。絶対何かの冗談ですよね。」

と、奏多さん。

「う~ん…。でも書いてある字は、読めるけれど地球の字とは全然違うよ。」

「そういえば、日本語だと思って話していたこの言葉も、全然違う言葉ですね。」

「本当だ!」

当たり前のように通じていたからわからなかったのだろう。

「あれ?二人とも日本人なんですか?」

と、急に奏多さん。

「「…え?」」

「あたし、中国から来たんですけど。」

「「…えーー!?」」

いつのまにかメガネをかけなおしていた奏多さんが衝撃の事実を明かした。

外見は日本人と変わらないし、言語も同じだから勘違いしていたのか。

「平尾奏多って日本人の名前じゃん…。」

「父が日本人なんですよ。」

「でも、さっき修学旅行で沖縄にって…。」

「海外に修学旅行って最近は高校でも珍しくないですよ。」

「へ、へぇ。時代は変わったんだねえ。昔は修学旅行自体、無い学校もあったのに。」

堀田さんが心底驚いたような顔をしている。

確かに、近くの私立高校も修学旅行は海外に行くのだと聞いたことがある。

それにしてもあんた一体何歳なんだ。なんて聞けないなあ…。

「奏多さんの家って金持ちなんだね。」

「まあ中学校の時は少し目立ったけど、高校では普通だったよ。」

そりゃそうだよ。周りも金持ちだったんだろうから。

とにかくもう怒っている雰囲気は無いので、良かった。

「さて…と。」

これからどうしたものか。

もう一度辺りを見回す。

「そうだ、あのコンビニっぽいところに行ってみませんか?もしかしたら地図があるかも。」

と奏多さん。

確かにまずは地理を学んでから行動するのが最良の手段だろう。

「そうね。行ってみよう。」

そうして道路を挟んで50mほどの距離にあったコンビニへと入ることになった。

「ピロリロリロ、ピロリロリロ」

と入店の合図らしき音楽が流れた。こんなところまで地球そっくりだ。

「いらっしゃいませー。」

元気よくレジに立つ兄ちゃんが挨拶してきた。

三人ともそれを無視して雑誌コーナーへと足を運ぶ。

それは地球のコンビニと同じような位置に確かにあったのだが、当然それがあると思っていたことに今更自分で驚いた。

そしてそこにはこれもまた当然のように地図が置かれていて、三人とも特にそのことを気にもせず一冊ずつそれを手にした。

少し地球と違うところといえば、地域の地図だけでなく国全体の地図まであったところだ。有難い。

だがそれをそれぞれが黙々と読む光景は、周りから見ればかなり異様なものだっただろう。

「…この地図が本物なら、やっぱりここは地球じゃないですね。こんな地形の国は地球には無いですから。」

流石お金持ち高校に通う奏多さん。全ヶ国覚えているなんて、頭もかなりよろしいようで。

「まあ、地球が滅亡する姿はちゃんとこの眼で見たんだから、ここは違う星で間違いはないと思う。」

まだ体感としては事件から一日も経っていないからか、あの時の光景が脳裏にくっきり浮かぶ。

しかしすでに三人ともショックからかなり立ち直れているところを見ると、これもスーツの影響なのだろうか。

ここはスーツの故郷。生きていく術は本能的にこのスーツに刻み込まれているのだろう。

落ち込んでいる暇など無いということなのだろうか。

とにかく、行動さえしていれば、ちゃんと生きていけそうな気がする。

「あ、この本の表紙に『パラディア地図』って書いてありますよ。見たところ国の地図っぽいですし、ここの国名でしょうか。」

と奏多さん。

「そうっぽいねー。まあ国名なんてどうでもいいんだけどさ。」

と堀田さん。どうでもよくはないだろ。

そしてそのまま、「ここがどこなのかは分かんないの?」

と続けて聞いてきた。

「さっきここに入るとき、看板に『ピピリピ店』って書いてありましたよ」

「はたしてそれはこの地名なのか、それとも店長の名前なのか…。」

「だったら店長、ピピリピさんなんですかね。ブフッ。」

「地名でもなかなか無いよね…。プッ。」

二人して何を笑っているんだ。失礼極まりない。

「もう、ふざけてないで、店員にちょっと聞いてみましょうよ。この街の名前クフッ。」

「人に言えないじゃん。」


ピピリピは反則だ。


聞くところによれば、この街の地名は「パラディア城下町」というらしい。

教えてくれたその店員の名札には『ピピリピ』と書かれていた。

「…あんまり人の名前を笑うのっていけないと思うのよね。」

「ですね。」「ごもっとも。」

とにかく地名が分かったのだから、その地図を探そう。


パラディア城下町地図は元の場所ですぐに見つかった。

地図を見る限りでは、街の中央部に城が建ち、それを囲むように森があり、さらにその周りに繁華街がある。

その外は住宅地と田畑が続いていて、別の街に繋がっている。

少し歪な形の円形で、広さで言えば3時間歩けば端から端へ行けるぐらいの大きすぎず小さすぎない街だ。

ところどころに黒点があり、その中に白い文字で数字が書いてある。

地図の余白に、それぞれの数字の建物の名前が書いてあり、なかなか読みやすい。

「さて…、どうする?日本にでもあるようなものは一通りあるっぽいけど。」

と堀田さんが俺と奏多さんに聞く。

「俺は少し腹減ったなあ。何か食べたいです。」

と答えた。

「そういえば、お金もってないよね。食べ物とかどうすればいいんだろう。」

「盗めばいいんじゃないですか?」

「「…。」」

奏多さんのなんのためらいもない言葉に俺も堀田さんも固まってしまった。

「いや…、その…。ねえ?」

「せっかく抜け出してきたのに、結局捕まるぞそれじゃ。」

「じゃあなんですか?山菜でも採って食べるんですか?地球の植物とは違うんですから下手すりゃ死にますよ。」

「「…。」」

この子は一体どこでそんなサバイバル感覚を身に付けたんだ…。

この気持ちは堀田さんも同じように持っていただろう。

「と、とにかく、盗むとかは無しよ!こうなれば、図書館に行って食べられる山菜を調べましょう!」

「賛成賛成!!」

堀田さんの、話題を逸らすための言葉にしてはなかなか良い考えにあわてて賛同した。

「でもこの地図によれば、図書館があるのはパラディア城内だけですよ。」

「え…。」

戻れるわけがない。

「諦めよっか…。」

と堀田さんがうなだれる。

「しかもこの街に限らず、どうやら図書館というものは一国に一つ。その国の城内に設置されているそうです。」

「へぇ。」

なら尚更望みは潰えたな。

「だけどこのパンフレットによれば…。」

と、奏多さんは地図を片手にもう一方の手で開いていた旅行用パンフレットを見せてきた。

「この近くにある駅から、他の国へと移動できるようです。しかもパアディア発の場合は無料らしいですよ。」

…。

「流石エリートや…。」

別に関西人でもないのだが何故かそんな言葉が漏れてしまった。

「偉い!あんたは偉い!」

と言って堀田さんはワシャワシャと奏多さんの頭をかき混ぜた。

奏多さんは無愛想に顔を赤らめた。


かくして、俺らは国外逃亡を計ることになったのだった。

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