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―軽々しい逃亡―2/3

さて…。もし三人で逃げることができたとして。

そのあとどうするんだ?

この星のことは何も分からない。

捕まっている地球人を助け出そうなんて考えはない。

俺はヒーローなんかじゃないから。

とにかく生き残ることに集中しよう。

もう、誰を失っても絶望したりなんかしない。

この先何があるのか分からないのだから、それだけは覚悟しておこう。


しばらくして堀田さんが帰ってきた。

「早いですね。」

「うん。近くに丁度日本人っぽい人がいたからさ。」

手を掴まれて堀田の一歩後ろから歩いてきたその人は、メガネをかけた女だった。

歳は、メルドや俺と同じぐらいだろう。高校の制服らしきものを着ているから間違いないはずだ。

「あの…。なにか用でしょうか…。」

「うん。ちょっと君を助けようと思ってね。」

「何カッコつけてんだよー。」

こいつは今は無視しておこう。

「俺は後冬春登。ちなみに高2。君は?」

「平尾奏多です。同じく高2です。」

「私は堀田麗花。どうぞよろしく。歳は…ふふ。」

まあ自己紹介は必要だろうからここは受け流す。

しかし何歳なんだこいつ。

それは今はおいといて。

「平尾さん。実はね。」

と、俺は堀田に伝えたように事細かに今の状況を話した。


「えぇ!?本当ですか。どうしよう。」

驚いた表紙にメガネがずれた。

「うん、だから、この3人で逃げようって話なんだ。」

「どうやるんですか?」

「トラックたちが帰るのを待って、出られるようになってから逃げ出すんだ。」

「あたかも自分が考えたみたいな言い草ね。」

「ちょっと黙っててもらえますか。」

「もう。」

この女に罪悪感を抱く必要は無かったな。

「で、どこに隠れるか考えてあるの?」

急に平尾奏多がタメ口に切り替えた。タメだから良いけども。

「トイレに隠れるのが良いと思う。長時間隠れても怪しまれないと思うんだ。」

さっき休憩している間に考えておいたのだ。

我ながら良い考えである。

「どっちに隠れるの?」

と、堀田。

「あ。」

盲点である。

男子トイレと女子トイレどちらに隠れるべきか。

「別れて隠れればいいんじゃない?」

そう奏多が言った。

「できれば3人でいたいんだけど。」

「私も。」

堀田と意見があってしまう。まあ別にいいけど。

「じゃあ二人ともどっちがいいんですか?多いほうでいいですよね。」

奏多が多数決に持ち込む。

「俺は男子トイレがいい。」

とは言ってみたものの、女が2で男が1なら結果は見え見えじゃないか。

しかし抵抗したところでどうにもならないだろうから

「あたしは女子トイレです。堀田さんは?」

「男子トイレ。」

「!!!」

まさかの。

いや逆に、この人ならやりかねないと思えなかった自分が恥ずかしい。

「な、何言ってるんですか堀田さん!ここは流れ的に…。」

平尾奏多が必死に言い聞かせる。それが普通の反応だ。

「ふ…。馬鹿ね奏多ちゃん。」

「?」

「春登くんなんかに…女子トイレの知られざる秘密を教えちゃってもいいの?」

「!!」

「どうなの?」

「駄目…です。」

なんだ秘密って。

確かに、女子トイレの中を見るなんて小学校まではまだあったものの、中学校からは無いような気がする。

それ以降に何を隠していたんだろうか。少し気になってしまう。

「なんですか秘密って。」

と素直に聞いてみる。

「それを言ったら秘密じゃなくなるじゃない。」

「そうだよ後冬君。」

「…。」

まあとりあえず奏多さんも同意してくれたようだから、もう深入りするのはよそう。


三人で城内のトイレに向かうと、そこで衝撃の事実が明かされた。

「男女共同じゃん。」

「良かったですね堀田さん。男子トイレに入る羽目にならなくて。」

この星ではこれが当たり前なのだろう。

「えぇー。」

と、堀田は口をとんがらせた。

これが本音なのだろう。

「なんで残念そうなんですか…。じゃ、後冬くん。もう今から隠れちゃう?」

「そうだね。」

共同なのでこそこそ入る必要もないから今からでも大丈夫だろう。

それぞれ一つずつ個室に入るのは迷惑なので、一番奥に三人で入った。

「ねぇ後藤君。」

奏多さんが唐突に話しかけてきた。

「なに?」

「三人で入るところ見られちゃったけど、良かったのかな。」

「!!」

良くねーよ。どうするんだ。というか何故気がつかなかった!

トイレにいたのが地球人だけならいいけど、この星の奴がいたらかなり怪しまれたことだろう。

いや地球人でも怪しがるに決まっている。男女3人で一つのトイレの個室に入るなんて。

「ハタから見れば、連れ込んで何かやってるとしか思えないよね。」

「黙れ痴女!」


しかしそれから数十分が経ったが、見つかる気配は無かった。

「…そういえばさ、事件が起こったとき、何してた?」

堀田が話題を振ってきた。

「俺は修学旅行で京都に行っていました。」

「あたしもです。でも旅行先は沖縄でした。」

「そっかぁ。若いなあ。」

「その時友だちと外を歩いていたんですけど、まさかあんなことが起こるなんて…。」

「だよね。あたしはその時UNOやってたよ。宇宙人に会ったのは観光中だったんだけど、事件起こるまで信じて無かったなあ。」

UNO大人気だな。

「春登くんが一緒に歩いてた友達って女子でしょ。」

なんで分かるんだこの痴女。

「え?違いますよ。普通に男友達です。」

「嘘だあ。女の直感っていうのかな?なんか今それがビンビンなんだよね。絶対女の子だよ。」

「ぐぬ…そ、そうですよ。幼馴染の女子です。」

「あっはっは、やはりね。私の目をごまかせると思ったのかい?」

得意げに堀田さんが胸を張った。

「えー!じゃあそういうことなんだよね?高校生だし修学旅行だし夜だし外だし。」

奏多さんまでノってきた。

「そういうのじゃないって。色々あったんだよ。」

「その色々がそういうことなんじゃないの?結果はどうなったの?」

「その様子じゃ相手から来たって感じね。当然OK出してあげたんだよね?」

二人してうぜぇ。ここらへんはやっぱさすが女って感じだな。

「本当のこと言いますけど、どっちが告白したとかじゃないです。」

「「えぇー。」」

心底ガッカリした顔だ。

「何故かそいつがあの事件が起こること知ってて、それで呼び出されたんすよ。」

「…。」

「特に何か教えてくれたわけじゃなかったけど、別れの挨拶みたいなかんじで…。」

「…いやそういうのどうでもいいから。」

「え?」

「だからどうでもいいって。なんっにも面白くないし。」

しらけるどころか反感を食らってしまった。

…これ言ったのが奏多さんなんて信じられない。

堀田さんですら、奏多さんの突然の狂言に理解不能状態に陥って、固まっていた。

そして何故かメガネを外して制服の胸ポケットにしまった。

「ありえないわー。そこは嘘でも話つなぐべきでしょ。何考えてんの?」

「…。」

「後冬ってそういう奴だったんだ。へー。」

「ご、ごめん。」

「いいよ別に。後冬がそういう奴ってこと知らなかったのが悪いんだし。」

と、そっぽを向いた奏多さんに俺から掛ける言葉は無かった。

そしていつのまにか「後冬」と呼び捨てされているのに気がつきショックだった。

そして「そういう奴」ってなんなんだ。

そして何故怒られているのかも分からなかった。


気まずい状態が何時間も続いた。

いや、実際にはあれから数十分しか経っていないのだろうけど、それぐらいに感じた。

堀田さんもそのときノリノリだった手前、どちらに味方していいのか分からずずっと押し黙っている。

組んだ足と顎の間に腕のつっかえ棒をしてじっとどこかを見ている奏多さんと、発言権の無い俺。

何故3人目をOKしてしまったのだろう。何故4人目を連れてこなかったのだろう。

このどうにもできぬ問題はいつ解決するのだろうか。


「ね、ねぇ春登くん?」

もうこの状態になって2時間は経った頃、とうとう堀田さんが口を開いた。

「なんすか?」

「トラックが帰ったかどうか、どうやって確認するの?」

「……!!」

考えていなかった。

どうしよう。

「ハァ。」

奏多さんの静かに吐いたため息が、グサリと心を突き刺した。

「すいません…。どうしましょう。」

「とりあえず一回外に出てみる?」

「はい…。」


閉めていた鍵を開けて個室の外に出る。

誰もいないのを確認して先陣を切って小走りで移動していく堀田さんを、追いかける。

もう大広間には誰もおらず、しんとしていた。

見回りらしき人影も見当たらず、割りと楽に庭に出ることができた。

まだ太陽が出ていて明るいが、もう人集りは無く、トラックもなかった。

そこからは三人とも歩き始める。

そこまで走ったわけじゃないけれど、緊張していたためか三人とも少し息が切れていた。

「良かった。これで逃げられますね。」

「そうね。でも注意は必要よ。」

「はい。」

ちなみに奏多さんは未だに口を閉ざしている。

堀田さんもなかなか声をかけづらそうにしている。

「堀田さん。」

「なに?春登くん。」

「城から出たら、どうします?」

と、唐突に聞いてみる。

「んー…。まだ考えてないなあ。まずはちゃんと脱出する。話はそれからだよ。」

「へえ…。…ねえ堀田さん。」

「なに?」

「思ったより頼りになるんですね。」

と褒めてみると、堀田さんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「ま、大人だからねえ。頼りにしてもらわなきゃ。」

そうは言うが、ただ人のいない城内を抜け出すだけのことを先頭で走っていただけだ。

あくまでも、「思ったより」である。そうとうハードルが低いのだ。


広い庭ももう終わり、開けられている門をくぐる。

「脱出成功ーーー!!」

と、堀田さんが叫んだ。

「ちょ、何やってるんですか。見つかりますよ!」

「あ、ごめんごめん。」

顔の前で手を合わせて謝ってきた。

最後までこの人はマイペースだったなあ。

全く。と、ため息がでてしまう。

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