好きは嫌いの始まりなのだ
「冴島(さえじま)さん! 付き合ってください!」
「はい」
名前もうろ覚えな人は喜んでいる。でも私は知っている。
好きは嫌いの始まりなんだってことを。
私は世間的に言うと美人に当てはまるらしい。なので今までいろんな人に告白されて、いろんな人と付き合った。
けれどそのどれもが最終的には破局。向こうから言ってきた。「なんか思ってたのと違う」「愛されてない感じがする」……。
なんでだろうと考えた結果、私が導き出した答えは……。
好きとは嫌いの始まりなのではないかということだ。
好きというきっかけは嫌いという過程と結果を生み出すものだと。それなら今までのことに説明がつく。
「冴島さんってなん股もしてるらしいよ」
「セフレも何人もいるって聞いた」
「頼めばヤらせてくれるって」
「ビッチじゃん」
キャンパス内での私の評価は概ねこんな感じだ。来るもの拒まず去るもの追わずをしていたらそんなことになった。
私は「好き」という幻想の呪縛から他人を早く解放してあげたかった。早く、現実に戻れますようにと。
「お前!!! 浮気してたのかよ!!!」
ゴッ。私は彼氏の一人から殴られた。
「うん」
「ふざけんな!!!」
彼は私を殴り続ける。しこたま殴られた後
「出てけ!! 二度と面見せんな!!」
彼の部屋から追い出された。
また一人、呪縛から救ってあげられた。
私がじんじん痛む顔をそっと撫でるとスマホの通知が鳴った。
『今からいける?』
セフレの羽灘(はなだ)くんからだ。私は
『いけるよ』
と打って、その場を後にした。
「……お前、どしたん?」
羽灘くんは目を丸くしていた。
「彼氏……元彼に殴られて……」
羽灘くんは私の腕を掴む。
「病院行くぞ」
「そこまでしなくても……」
「いいから」
「(変な人……)」
病院で治療してもらった後、手頃なファミレスで羽灘くんに事情を聞かれたので話した。
「お前さぁ……俺が言うのもなんだけど、なんでそんなことすんの?」
それも話した。
羽灘くんは呆れたような顔で
「お前って博愛主義者なの?」
そう言った。今度は私が目を丸くした。
「博……愛……?」
「自分の身ぃ削ってまで他人に付き合ってやってさぁ。だいたいセフレは好きだからじゃなくて性欲満たすだけのもんだぞ」
「はあ……」
私がよくわからないなんていう態度をとっていたら羽灘くんは喋る。
「お前はこれからもこんなこと続けんのか?」
「うん」
「即答……」
羽灘くんは頭を抱えた。そして大きなため息をついた後、告げる。
「じゃあ、俺と賭けをしろ」
「賭け?」
「まず、彼氏もセフレも全部切れ。それから俺とだけ付き合え」
「……?」
なんでそんなことを言うのかわからないが羽灘くんは続ける。
「俺がお前を嫌いになったらお前の勝ち。好きなままならお前の負け。どうだ?」
なるほど。
「……いいよ」
「賭けに人生賭ける気あるか?」
人生……。
「……うん」
「なら決まりな」
それから年月が経って、祐司(ゆうじ)さんと私はすっかり老人になって、祐司さんはほとんど寝たきりになった。
病院のベッドで眠っている祐司さんの隣で私は編み物をしている。すると微かな声が聞こえた。
「雪(ゆき)……」
「祐司さん……?」
私は祐司さんに顔を寄せる。祐司さんは皺を深くして笑った。
「賭けは……俺の勝ち……だな……」
そう言って祐司さんは眠った。今度は再び目を覚ますことはなかった。
祐司さんのお葬式が終わって、私は空を見上げる。
「負けちゃった……」
生まれ変わっても私は祐司さんを好きになりたいな。
だって好きは嫌いの始まりじゃないって……祐司さんが人生を賭けて証明してくれたから。
今度は賭けをしなくても、わかるよ。
「大好きだよ、祐司さん」
私は歩き出した。




