1.きゅーこーしゃ
何も考えずに、雰囲気で読んでください。
率直に言おう。私は女の子が好きだ。
恋愛的……という訳ではなく、女の子同士が、あんなことやこんなこ……やめておこう。可愛いことをしているのを見るのが好きだ。
世間的が言うには、百合厨とやらにあたる。しかし、私のことなどどうでもよかろう。
ここの鳩が丘女子学園に入学したかったのは、何を隠そう。女子校だからだ。
百合に挟まるような奴がおらず、かつ可愛い子たちを見れるのならば、なんて楽園なのだろう。なんて素晴らしいのだろう!
そのため、必死に勉強して掴んだ合格。「必死に勉強して」の部分は思い出すだけで辛いので割愛しておく。
そして私、楠木なこ は、鳩が丘の門を今、くぐるのだ!
「助けて……」
一歩を踏み出したとき、校舎側ではない、旧校舎側から囁くような、掠れた声が聞こえた。
「誰か、助けて……なこ……」
誰か、と言っているというのに明らかに個人名を言うその声に、私はツッコミたくなるのを抑えきれず、入学式をサボる衝動が溢れる。何よりその声、可愛すぎるのだ。助けたい。俺が守りたい……。
しかし抑えろ、ただ一人を助けたいがために折角の入学式を棒に振るのか?
考えろ楠木。考えるんだ。
校門の前でウロチョロする私。さぞ変なうめき声を出しているのだろう。校門をくぐる美少女たちが、不審者を見るような目で私に一瞥していく。
葛藤の中、後ろにいた誰かが私のカーディガンの裾を掴んだ。
「貴方、ずっと変な動きをしている……。大丈夫、ですか。体調、悪いですか」
萌え袖ショートヘアロリ系美少女が、上目遣いで私を見ていた。
「ウチ、掛坂雅……。新入生です。貴方は?」
「わ、私は楠木なこです。よろしくね、掛坂さん」
「何か、あったのですか。あまりに、挙動不審でした」
会ったばかりの掛坂さんに心配されてしまった。しかし、「旧校舎から助けを求める声が聞こえた」なんて信じてくれる訳がないだろう。
私は適当に誤魔化して、入学式に向かうのだった。
掛坂さんは幼馴染とかいるのかな、親友とか、唯一無二の友達とか、腐れ縁とか、不仲とか……。
っと危ない危ない。流石に自分の考えがピュアな瞳の掛坂さんに申し訳なさすぎて、早々に頭から思考を追い出した。
そんなとき、思考を追い出した脳という名の部屋に、声が響いた。
「なんで助けてくれないのよ、ばか」
―
「なこさんとウチ、クラス同じですね、嬉しい……」
ホワホワと笑う掛坂さん。その朗らかな笑みが五臓六腑を癒やし尽くしていく。
しかし、私の思考回路には、先程の声が未だに響いていた。
「ずるいわよ、カケサカばっかり。なーこー、あたしを見て〜。」
「なこ、担任の眼鏡を見て! おしゃれよ!」
「あたしのこと覚えてる? あたしのなこ」
うむ。先程助けを求めていた美少女ボイスと一致している。全然元気そうではないか。しかしなぜ「助けて」なんて言っていたのか疑問ではあるが。
辺りを見渡しても、読書家✕ギャル、優等生✕ボーイッシュ、姫系✕騎士系カプなどが目に映るくらいで、同じ声の人はいない。
つまりこの声は、私にだけに話しかけている。こんな可愛い声で。背徳感に溢れ、思わず高笑いしそうになる。
「せんせーの話聞いてますか」
私の一つ後ろの席にいる掛坂さんが小さな手で小さなメモを手渡してくる。そこには私を注意する内容が書いてあり、非常に可愛い。
おそらく掛坂さんは、私があまりにも集中していなさそうなのを察してくれたのだろう。私は「聞いてるよ」と書いたメモをこっそりと手渡す。
すると脳内の声がうるさくなる。
「あ゙ーっ! あたしにもメモ頂戴よ!」
嫉妬だろうか、もれなく尊い。
しばらく騒いだ後、諦めたような声色で、脳内の少女が言った。
「……なこ、もうあたしは我慢ならないわ。今日中に一人で旧校舎に来て頂戴」
旧校舎。その言葉が、妙に頭にこびりついて離れなかった行かないと。
先生の話が終わり次第、行かないと。




