中間テストで成績1位を取るべし!③
「今日は休んどきなさい」
翌日の朝にはすっかり熱は下がったが、親に言われて念のために休むことになった。
ベッドに横になって天井を見ていると、ぼんやり梨央のことが浮かぶ。
潤んだ大きな瞳が思い出される。
(今日行けないって言いたいけど・・・)
そういえば連絡先を交換していない。
まさに高嶺の花である梨央と連絡先を交換するという発想がなかった。
(交換したいって言っても大丈夫だったのかな・・・大分仲良くなった気するけど、向こうはどう思ってるかわからないしな)
暇だと要らないことばかり考えてしまう。
身体はすっかり楽になっているので、少し勉強することにした。
カッコつけて1位を目指すといった以上、頑張るしかない。
陰キャは、多少のプライドと自分は特別かもしれないという厨二病という最強の力を持っているのだ。
梨央からの課題が昨日の分も残っている。
「やりますか」
腕まくりをすると、机に向かった。
しばらくして時計を見ると、夕方になっている。
集中して勉強できていたようだ。
(俺、本当は天才かもしれん)
そんなことを思っていると、チャイムの音がする。
「誰だろ?」
2階の自分の部屋から下をみると、見知ったやつが立っていた。
「これ、今日の授業のノートコピーしてきた」
家の扉を開けると小春が立っていた。
「最近、勉強頑張ってるみたいだから、今日の授業も気になるだろうなと思って」
小春が、ほい、とノートのコピーを差し出した。
「ありがとう。お茶でも飲んでいくか?」
「ううん、今日はここでいいよ。市川もしんどいでしょ」
「すごく助かったよ。いつもさんきゅ」
「これくらいのこといいよ。あんまり無理しないようにね」
そう言って、小春は「また明日」と帰って行った。
ノートのコピーの字は綺麗で、先生の言ったことまで細かく書いてくれている。
「あいつ、本当に良い奴だな」
奏汰は背伸びをしてストレッチをすると、再度机に向かった。
「おはようさん」
学校へ向かっていると、誠が後ろから声をかけてきた。
「おぅ、おはよう」
「もう身体いいのか?」
「昨日ももう熱はなかったしな」
「それは良かった。今日は放課後デートできそうだな」
誠の視線がニヤニヤと揶揄いを含んだものになっている。
「・・・え?」
「雪女と放課後デートしてるやろ?」
「お前、それ・・・」
誠がにやにやとわざとらしく時計を見た。
「あ、もうこんな時間だぞ、急がないと遅刻だ」と走り出した。
「誠―!!待てよ!」
「キーンコーンカーンコーン」とチャイムの音がする。
やっと放課後になった。
鞄を持つとニヤニヤした誠に見送られながら、図書室へ向かった。
教室で梨央に昨日行けなかったことを詫びたかったが、誠が知っていると思うと恥ずかしくて声をかけられなかった。
梨央も奏汰が教室に入った時、少し驚いた顔をしたが、声をかけてくることはなく、本を読んでいた。
それに対して小春は、奏汰が教室に入るとすぐに声をかけてきた。
そのタイミングで奏汰はノートのコピーのお礼にコンビニで買ったチョコを渡すと、嬉しそうに「ありがとう」と言って席に戻っていった。
(あいつは昔からチョコさえ渡せば機嫌良いんだよな)
そう思いながら、また梨央を見たが、梨央の視線が本から動くことはなかった。
「大久保さん」
やっと放課後になって図書室へ向かうと、梨央はいつもの場所に座っていた。
声をかけると梨央はビクッとなったが、すぐにほっとしたような顔をした。
「市川くん、来てくれたんだ」
「そりゃ来るよ、約束だろ。あの、昨日はごめん」
「ううん、体調悪かったんだよね。・・・なんか学校休むほど嫌われたかなとか考えちゃって」
本当に悩んでいたようで、大きな瞳が少し潤みだす。
意外とネガティブな性格らしい。
「んなわけないだろ。俺が勝手に知恵熱出して休んだだけで・・。それよりこれ」
梨央の課題をやったノートを見せた。
「ばっちり解いてきたから」
「ダメだよ。体調悪い時は休まなきゃ」
「昨日は昼には熱もなかったし、なんか時間あるといらないことばっかり考えるちゃうからさ。勉強しようと思って」
「いらないこと?」
「あ、こっちの話。それより今日は何から勉強しますか?先生」
誤魔化すように奏汰がふざけると、梨央はにこっと笑って「これを解いてください」と理科の問題を指した。
「これは予習してきたから余裕ですよ」
そういって奏汰はペンを握った。




