中間テストで成績1位を取るべし!①
「無理だぁああ」
奏汰は問題集を放り出して、顔を伏せた。
数学、国語、日本史は何とか点は上げられそうだが、英語と理科は絶望的だ。
ましてや一位なんてありえない。
“お前が彼女を落とさなければ、世界は崩壊する”
未来の自分の声が蘇る。
「そういわれてもなぁ・・・」
“彼女は成績のいい男が好きだ”
(大久保梨央は成績がいい男が好き・・・なのか・・)
「お前、本当にどうしたんだよ?」
図書室へ勉強しに行くと奏汰が言うと、誠はまるで化け物をみたかのように驚いた顔をした。
「何が?」
「図書室で勉強ってガラじゃないだろ?」
「もう俺らも高2なんだし、勉強しないと」
「いやいやいやいや、お前そんなキャラじゃないだろうが」
「うるせぇ」
最後まで怪訝な顔をしていた誠を振り切って、図書室へ向かった。
勉強と言えば、やはり図書室だろう。
静かで集中できるし、それに今日は金曜日だ
梨央の近くにいけばモチベーションも上がるかもしれない。
図書室の奥に向かうと、やはり梨央がいつもの席に座って本を読んでいる。
そこだけまるで光が当たっているように輝いてみえる。
気づいたらぼーっと彼女を見ていた。
怪訝な表情で横を通り過ぎる女子生徒の視線で正気に戻ると、梨央から少し離れた席に荷物を置き、教科書を広げていく。
中間テストまであと3週間。
どこまでいけるかわからないが、やれることをやるしかない。
世界の未来がこの頭にかかっている。
(くぅ、なんで日本語も危ういのに英語覚えないといけないんだよ)
勉強を始めて30分も経たないうちに、極限までやる気が低下した。
そもそも今まで定期テストは一夜漬けで戦ってきたから、計画立てて勉強すること自体難しい。
もう何回目だろうというため息をついていると、「市川くん?」と聞いたことのある声がした。
振り返ると、梨央が立っている。
「テスト・・・勉強?」
奏汰の広げまくった教科書を見て、少し驚きながら「えらいね」と小さな声で言った。
「いやいや、さっき始めたばっかりなんだけど、すでに心折れてるし、大久保さんと違って勉強得意じゃないから、どう勉強したらいいかもわからないから、ハハハ・・・」
奏汰のスベッた笑い声だけが響く。
梨央が少し考えたような表情をしている。
(そうだった・・失敗した・・・大久保さんは勉強できる人が好きなんだった)
真逆の発言をしてしまった。
これはかなりのマイナス点になった気がする。
(地球が、俺らの未来が・・・)
また絶望して下を向くと「じゃあ、教えようか?」小さな可愛らしい声が聞こえる。
「え?」奏汰が顔をあげると、梨央は「市川くんさえよければ、勉強教えるよ。私もそろそろ試験勉強しようと思ってたし」と続けた。
「それはもちろん、ありがたすぎる申し出だけど」
「じゃあ早速今日はテストまでの計画を立てましょう」
梨央は自分の荷物を持って、奏汰の隣に座った。
あと数センチで触れてしまうほどの距離だ。
なんだかいい匂いがする気がする。
梨央のうなじまで見える。
勉強になんて全く集中できそうにない。
「市川くん、聞いてる?」
「え!あ、すいません」
「苦手教科教えて?」
「あ、苦手教科ね、英語かな」
「得意教科は数学だよね?」
「そうだけど、なんでそれを?」
「・・・たまたま先生が数学はよく出来てるって市川くんに話してるのを聞いたから」
そういえばそんなことを言われたような気がしなくもない。
「じゃあ学習計画は英語を中心に考えましょうか」
「よろしくお願いします」
家に帰ると、19時を回っている。
図書室で最後までみっちりと梨央に教えてもらっていた。
最初は梨央にドキドキしたが、途中から梨央の質問に答えられなさ過ぎて違う意味でドキドキした。
ベッドに横になりたいが、時間がない。
机に向かうと、梨央が立てた学習計画を広げる。
綺麗でやわらかい字が並んでいる。
ただ内容に可愛らしさはない。計画というよりもはやノルマである。
「毎日・・・この量・・・」
動画を見てだらだらする時間は、しばらく取れそうにはない。
梨央の研究ノートに「ドS」と書き足した。
翌日から放課後の図書室でみっちり梨央に勉強を教えてもらう日々が始まった。
梨央は頭脳明晰なのは事実で、どんな質問に対しても答えてくれた。
わからないことをさらけ出すのはかなり恥ずかしかったが、梨央はまるで気にしていないといった感じで淡々と教えてくれる。
「大久保さんは本当によく勉強してるんだね」
「・・・ありがとう」
小さな声でそういうと、恥ずかしそうにうつむいてる。
褒められるのは苦手らしい。
「勉強するのが好きなわけじゃないの」
「そうなの?」
「うん。将来の夢があるから頑張ってるだけ」
「将来の夢って?」
「・・・秘密」
梨央はいたずらっぽく笑うと、「じゃあこの問題を解いてみて」と勉強に戻った。
少しずつだが、梨央と仲良くなっている気がする。
この調子でいけば世界を救えるかもしれない。
奏汰のペンが止まると、梨央が「ん?」とこっちを見てくる。
こういうふとした気を許した表情にドキッとしてしまう。
(これって―)
「違う、違う、世界の為だから」
思わず声がでる。
「世界のため?」
梨央がきょとんとした顔でこっちを見ている。
「いや、えーっと、将来世界のために働けるような人間になるために勉強しないといけないなって思って」
「・・・壮大な夢だね」
「ハハハ」
「じゃあ世界のためにこの文章を訳してみてくれる?」
梨央にそう言われて、奏汰は真っ赤な顔を隠しながら、問題に向き合った。




