彼女を研究せよ③
今日も凛と背筋を伸ばし、梨央は本を読んでいる。
特に成果は得られないものの、なんとなく観察を続けていた。
そのおかげで観察で⑧月曜と金曜に図書室へ行くのがわかり、金曜の放課後に図書室へ向かった。
図書室には、様々な本があるのだが、うちの高校には結構最新の小説なんかも置いてある。
図書担当の教師がよほどの本好きらしく、色々買っているようだ。
レイアウトも工夫されていて、本屋のように最近映画化された図書コーナーなんかもあったりする。
最近は近所で本に関連したイベントが行われたことも影響しているのかもしれない。
今日も明日の土日で読む本を借りに来ている学生がたくさん来ているようだった。
辺りを見回すが、梨央はいないようだ。
少し進むと、奥の方に人気の少ないところにぽつんと閲覧用の机と椅子が置いてある。
「いた」
梨央が窓際の席に座って本を読んでいる。
そこにだけ光があたって、またドラマのワンシーンのように見える。
美少女とはこんなに絵になるものなのか、そう思いながら、奏汰はゆっくりと梨央の方へ向かった。
「大久保さん」
梨央はびくっとしてこちらを見ると、「市川くん」と声をかけてきたのが奏汰と少し気が抜けたよう微笑んだ。
「ごめん、突然声かけて」
「全然いいけど、どうしたの?」
「これを返そうと思って」
借りていたアガサクリスティの本を差し出すと、「もう全部読んだんだね」といって梨央は微笑みながら受け取った。
「貸してくれてありがとう。それで、貸してくれたお礼にと思って、これなんだけど」
奏汰は一冊の本を差し出した。
「俺の好きな本なんだけど、良ければ読んでみて」
「ありがとう。この本、本屋さんで見かけて気になってた」
本屋で買おうとしていたところまで観察で確認済みだ。
梨央が目をキラキラさせて、本をぱらぱらとめくっている。
「喜んでもらえて良かった。じゃあ、俺行くわ」
「うん。あ、そういえばどうして私がここにいるってわかったの?」
「え?いや~それは・・・」
(観察してたんで、なんて言えるはずがない)
「たまたまだよ、たまたま図書館へ入るのが見えた」
「そっか。本ありがとうね」
「おぅ」
なんとかバレずに済んだようだ。
ホッと胸をなでおろすと、その場を後にした。
「奏汰、どこ行ってたんだよ」
教室へ戻ると、誠が奏汰の机に腰かけながら、不機嫌そうな顔をしている。
「すまん」
「お前が今日ゲームしようぜって言ったんだろー」
「そうだったな、ごめん」
奏汰は急いで鞄に荷物を詰め込む。
「それにしてもどこに行ってたんだよ」
「え?図書室だけど」
「図書室?陰キャのお前が図書室とか絵になりすぎるからやめとけ」
「うっせぇよ」
「なーんか最近お前おかしいなぁ」
誠が眉をひそめながら、眉間に人差し指を置いた。
「は?なんだよ」
「ぼーっとしたり、いつもとちゃうとこ行ったり・・・これはズバリ」
〇田一少年のようにびしっと奏汰を指差す。
「君は恋をしている!!」
そう言って誠がにやにやしている。
「ば、バカやろ!んなわけないだろ」
「おい、顔赤くすんなよ」
「怒って赤くなってるんだろ!」
タオルを差し出されてびっくりする梨央
クールに本を読んでいる梨央
恥ずかしそうにうつむく梨央
微笑む梨央
本を貸してくれる梨央
保健室で静かに本を読んでいる梨央
目をキラキラさせながら本をめくる梨央
「恋なんてしてない。じっちゃんが泣くぞ、誠少年」
「俺のじっちゃんは名探偵じゃないから。ただの大工だよ」
教室を出て歩きながら、奏汰は恋と言われて梨央のことがたくさん浮かんだことに気づいた。
奏汰と梨央が結ばれなければ、未来で世界が崩壊する。
そう言われたから、梨央に近づくために観察をしていただけだ。
それなのに微笑む梨央を思い出すと、胸がドキドキしてくる。
(まさか、俺は本当に恋してんのか・・・?)
「危ない!」
誠の声が聞こえた時には、スパーンっとソフトテニスのボールが奏汰の顔を直撃した。
「・・・っ!」
奏汰がその場でしゃがみ込むと、上から「バレーボールやのうて、ソフトテニスやったか。硬式やなくて良かったな」と誠ののんきな声が聞こえた。
文句を言おうと立ち上がると、鼻からたらりと血が垂れた。
鼻にティッシュを詰めたまま帰宅すると、自室へあがり、鞄を投げるように置くとそのままどさっとベッドに横になった。
「マジ疲れた~」
天井を見上げると、梨央の顔が浮かぶ。
「ちゃうちゃう、俺は未来のためにやってるだけや」
ふとした時に親の関西弁が出てしまう。
「・・ったく、落ち着け、俺」
ジーっと小さなパソコンの起動音が聞こえる。
「え?」
恐る恐る起き上がってパソコンに近寄ると、「次の中間テストで成績1位を取るべし」と文字が表示されている。
「は?」
カタカタと音がして、「彼女は成績のいい男が好きだ」と表示された。
「未来の俺ならわかるだろ、俺の成績は中の下なんだ」
またカタカタと音がして「未来のためだ」と表示された。
「未来の為ってなぁ・・・」
プシューっと音がして、パソコンの電源が切れた。
「やるしかないんかあああ」
ため息が混じる。
(次の作戦は「成績1位をとるべし」か―)
奏汰は、とりあえず席に座ると、問題集を手に取った。




