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世界を救うために君を落とします  作者: 月丘 翠
作戦《1》彼女を研究せよ
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彼女を研究せよ②


それからしばらく梨央と二人になる機会がなかった。

別に他のクラスメイトがいてもいいのだろうが、美人で有名の梨央に陰キャが人前で話しかけるのは勇気がいるのだ。

梨央は相変わらず、休み時間は静かに本を読んでいる。


「奏汰?奏汰!」


声に気づいて振り返ると、誠が立っていた。


「次、体育だぞ。早く着替えにいかないと」

「そうだった」と奏汰はジャージの入った袋を持つと、男子更衣室へ向かった。


体育は苦手だ。

運動自体は苦手ではなく、好きなのだが、この強制的にやりたいと思ってない運動をやらされるのが苦手なのだ。


「今日はバスケらしいぞ」

「マジか」


苦手な競技だ。

仲良くもないクラスメイトとチームプレイなんて地獄でしかない。

ある程度ドリブルやシュートの練習後、体育教師に決められたチームで試合を行う。

チームを教師が決めてくれるのはありがたい。

誰ともチームになれないなんてなったら、立ち直れない。


(これも立ち直れんな)


試合が始まっても、奏汰のところにパスはなかなか来ない。

試合と言っても陰キャにパスが来るわけないのだ。

ふと、女子の方が気になってみてみると、ちょうど梨央がドリブルをしてシュートを決めているところだった。

どうやら運動神経抜群なのは本当のようだ。

女子たちから拍手が起こっている。


「危ない!!」

「え?」

その声が聞こえた時にはバスケットボールは目の前にあり、次の瞬間には衝撃的な痛みが走った。



「試合中、よそ見するバカがどこにいるんだよ」

誠がため息をつきながらそう言った。

「保健室まで運んでもらって、すまんな」

「この前はサッカーボール、今回はバスケットボールって。次はバレーボール辺りがぶつかるのかもな」

「うるせぇよ」

「まぁゆっくり休めよ」

そういって誠は保健室から出ていった。


天井を見上げると、鼻に突き刺さったティッシュの先が見える。


(鼻血とかカッコ悪・・・)


間違いなく、梨央にも見られたであろう。


(未来が終わってしまったかもしれん)


「市川君、先生ちょっと席外すけど、すぐに戻るからゆっくり休んでおいてね」

保健室の先生が出ていくと、静かだ。


なんとなく絶望した気持ちでぼんやり横になっていると、保健室のドアが開く音がする。

先生が帰ってきたのだろうか、でもそれにしては早すぎる。

誰か気分の悪い学生でも入ってきたのだろうか。


(こんな鼻にティッシュを詰め込んだ状態で、どんな顔して会えばいいんだ)


だんだん足音が近づいてくる。

奏汰は仕方なく、寝たふりをすることにした。


「市川くん?」


(ん?この声は…)


ベットを囲っていたカーテンが開けられる音がする。


「寝ちゃったのかな…大丈夫?」


間違いない、大久保梨央だ。

置いてある椅子に座ったようだ。

そのうち本がめくられるペラペラという音が聞こえる。

定期的に聞こえる本を捲る音と、ポカポカした気温に眠気が襲ってくる。

ガラリとまた保健室の扉が開かれる音がする。

その音で目覚める。

気づいたら寝てしまっていたようだ。


「あら、大久保さんじゃないの。市川くんを見に来たの?」

「はい。保健委員なので」

「そう。でも保健委員だからって昼休みを潰してまで見なくていいのよ」


(鼻にティッシュ挟んだままとか恥ず…)


「私もいるし、教室に戻りなさい」

「もう少しでキリのいいところなので、そこまで読んでからにします」

「わかったわ」

保健室の先生が離れていく音がする。

そして再び本をめくる音がする。


「・・・読んだ?アガサクリスティ」


(起きてるのバレたのか・・?)


「起きてるんでしょ?」

「・・・バレてたか」

「バレバレ」

「・・・読んだ」

「え?」

「アガサクリスティ」

「やっぱり定番なんだけど、『そして誰もいなくなった』は面白いよな」


「でしょ!」

梨央の声が上ずっている。

共感を得られて相当嬉しいようだ。


「『罪悪感とは奇妙なものだ。頭の中で何度も繰り返し、その重さが増していく』このセリフに妙に共感したんだよなぁ。約85年前の話やのに人間の心の動きって変わらないんだな」


「私も同じこと思った!」

梨央が微笑んでいる。

クールなのも美しくていいが、やっぱりこうやって可愛らしく笑っている方がいい、なんて思っていると、バッとベッドを囲っていたカーテンが開いた。


「そんなお話ができるほど元気なら教室へ戻りなさい」

保健室の先生にそう言われて、二人で教室を出た。


「じゃあ、私は図書室に寄ってから教室に戻るから」

梨央がそう言って、小さく手を振って去っていった。


(これっていい感じなのでは?)

そう思ってふと窓ガラスをみると、鼻にティッシュを詰めた間抜けヅラがいた。


「んなわけないな・・・」

奏汰は鼻のティッシュを抜くと、トボトボと教室へ向かった。

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