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大久保梨央を落とせ

パソコンの画面には真っ暗で何も映らないが、声だけが聞こえる。


「信じろって言っても無理だろうな。・・・そうや、俺が今からお前のこれから起こることを言い当てる。それで信じられるだろ?」


日本の国民的アニメ〇〇えもんのようなことを言って、いくつか今後起こることについて話し始めた。


「もし当たってたら明日もう一度同じ時間にこのパソコンの前に来てくれ」


その声が聞こえなくなると、いつものようにYouTubeが流れ始めた。


「な、なんだったんだ!?」


ゆっくりとパソコンに近づくが、パソコンには何もおかしなところはない。


「ゆ、夢でも見てたんだろ、ハハハハ」


奏汰は大きな独り言をいうと、ジュースでも飲んで落ち着こうと1階へ向かった。


“階段で滑ってコケる”


あの男の言葉が蘇る。


「滑るなんて母親が関西人なのにそんなん最悪の言葉やで、すべるわけにはいかへん。ハハハ」


慎重におりたら大丈夫や、そう思って、ゆっくりと階段を下りる。

すると、ドンと上から大きな音が鳴り響き、びっくりして振り返った瞬間、階段を踏み外した。


「いてぇ!」


4段ほどだったが思いっきり尻をぶつけてしまった。


「大丈夫か~?」


2階から母親がこちらを見ている。


「なんだよ、あの音!」


「ちょっと押し入れ片付けようとしたら、荷物落としてもたんよ」


“お前の大事にしてたものが壊れる”


またあの男の言葉が蘇る。


「ま、まさか!」


2階に駆け上がって、母のもとに行くと、何かが粉々になっている。


「奏汰、ごめんなぁ・・・」


恐る恐る近づくと、2ヶ月かけて大事にここまで作ってきた戦艦のプラモデルが、地に還っている。


「う、うそだ・・・うそだぁああああ!」

奏汰の叫び声が響いた。


「なんやねん、ほんまに」


翌朝の憂鬱な気持ちで、奏汰は学校に向かっていた。

憂鬱な気持ちでも、空は綺麗な青色で天気は1日よさそうだ。

空を見ていると、ぴちゃっと何かが顔についた。


“鳥のフンがかかる”


アーホー、アーホーと鳥が鳴く声が聞こえる。


「・・・なんでついてない未来ばっかりなんだよ」


鳥のフンを拭きとると、学校で顔を洗った。


「あと何予言してたっけ・・・」


あの時びっくりして、あまり覚えてはいない。

奏汰は次の不幸を起こさせないため、授業をぼんやり聞きながら、思い出そうとした。

しかし結局思い出せないまま、あっという間に放課後になった。


「奏汰-!帰るぞー」


誠に呼ばれて振り返った瞬間、思い出した。


“サッカー部の流れ弾が当たって、鼻血がでる”


思い出した時には、サッカーボールが目の前に来ていた。

ボンっと音がして、奏汰にぶつかったサッカーボールは上に高く上がった。


「お前、不幸すぎん?」


鼻にティッシュを詰めた奏汰を見ながら、誠は3度目の爆笑をしている。


「本当に笑いごとじゃないから」


これで終わりだといいんだけどなぁ、と奏汰がため息をつくと、雨が降り出した。


「俺、用事あるから走って帰るな」

誠はバッと走って帰って行った。


空を見上げると、雲は真っ黒で、雨はすぐに止みそうにない。

近くの本屋で雨宿りをしていると、大久保梨央も店に入ってきた。

雨に制服が濡れて少し透けている。


“雨に濡れた彼女にタオルを貸してあげる”


奏汰はカバンからタオルを取り出すと、梨央に差し出した。


「このタオルまだ使ってないから」


梨央は少し驚いた顔をして、「いいよ、濡らしたら悪いし」と小さな声で返事をした。


「いいから」

そう言って梨央の肩にタオルをかけた。


「未来の俺にやるように言われたことだから」


奏汰がつぶやくと、梨央は何の話?という顔をしている。

長いまつげが艶めいて、黒い大きな瞳がこっちを見ている。

さすがに美人に見つめられると、ドキッとしてしまう。


「こっちの話だから。また学校で」

奏汰は雨の中走り出した。


(あれ以上見つめられたら心臓止まる)


家に着くと、パソコンを立ち上げた。

昨日と同じ時刻になろうとしている。

ここまで当たってるとなると信じるしかないだろう。


「まぁ、一応ね」


昨日と同じようにYouTubeを立ち上げた。


「い・・いち・・・いちかわ・・・」と途切れ途切れで音が聞こえる。


昨日と同じだ。


「・・・はい、あの、僕になにか・・?」


「お、お前につ、伝えたいことがある・・・伝えたいことがあるから」


「伝えたいこと?」


「お前が彼女を落とさなければ、世界は崩壊する」


パソコンの画面に必死にこっちに訴えかけてくる男性が映っている。

昨日はぼんやりしていた姿が、はっきりとしていく。

奏汰は、その男性を見て驚いた。

画面に映っている男性は、自分そっくり。いや、まさに自分だった。

ただ今の自分より少し歳を重ねているようだ。

20代後半〜30代といったところだろう。


「昨日の話でわかっただろ?本当のことなんだよ」


「あの・・・あなたは、僕の親戚?」


「俺はお前、未来の市川奏汰」


「は?」


未来?頭が追い付かない。


「未来にいたから予言できたんだ」


「いや、え?どういうこと?」


「ゆっくり話したいけど、時間が限られてるから簡単に説明する。簡潔に言うと、お前が大久保梨央と付き合いさえすれば、世界の崩壊を止められる」


「は?なんで付き合ったら世界の崩壊を止められるんだよ?というか崩壊ってなに?」


「2056年にある国で戦争が起きる」


未来の俺によると、本当に些細なきっかけで世界を巻き込んだ戦争が2056年に起きるらしい。

それを食い止めるために、秘密裏に世界中の科学者が集まって研究をした。

その過程で今みたいにデータ通信で過去と未来を行き来できるようになって、ほんの少し過去を変えることで未来が変わることがわかってきた。

何度も実験を繰り返し、戦争を止めるにはどのように過去に働きかければ未来がかわるのか計算した結果がでた。


「それが、お前と大久保梨央が付き合うという未来が戦争を回避するきっかけになることがわかった。だから、大久保梨央を落とせ」


「いや、何言ってるんだよ。意味が全然わからない」


「もう時間みたいだ。頼むぞ、未来のために」


そう聞こえた声が最後で、その後はどれだけ呼びかけてもいつものYouTubeの動画が流れるだけだった。

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