第一話 最弱クラスであることを、俺だけが知っていた
目を覚ました瞬間、俺ははっきりとした違和感を覚えた。
天井が高い。
石造りで、天井には見覚えのない紋様が刻まれている。
病院でも、民宿でもない。そもそも日本の建物ですらない。
(……やられたな)
そう思った時点で、頭の奥に別の記憶が流れ込んできた。
この世界の言語。
通貨の価値。
街の構造。
冒険者という職業の存在。
そして、決定的な事実。
(ここ、あのゲームの世界じゃないか)
学生時代から社会人になるまで、何百時間も費やしたRPG。
攻略情報を暗記し、最適ルートをなぞり、効率だけを追い求めていた、あの世界。
――まさか、とは思うが。
「次の方、鑑定台へどうぞ」
係員に促され、俺は前へ出た。
この儀式も覚えている。冒険者登録前に行われる、クラス鑑定だ。
淡く光る水晶に手を触れた瞬間、表示された文字を見て、周囲がざわついた。
「……ノービス?」
「最弱じゃないか」
「最近多いな、外れ」
係員が淡々と読み上げる。
「クラス:【ノービス】。
基礎能力、最低値。
成長補正、低。
スキル習得効率、劣悪」
周囲の視線が、一斉に同情へと変わる。
ノービス。
この世界では、事実上の“失敗作”だ。
戦闘職としては使い物にならず、
生産職にも向かない。
途中で諦めて、農民や雑用に戻る者が大半。
「まあ……気を落とさずにな」
係員が気まずそうにそう言った。
だが、俺は俯かなかった。
(やっぱり来たか)
むしろ、内心では確信に近いものがあった。
ノービスは、確かに弱い。
序盤では、どのクラスよりも不利だ。
攻撃力も、防御力も、スキル枠も少ない。
だが――
(このクラス、最終的には壊れるんだよな)
俺だけが知っている。
ノービスは、全クラス中で唯一、
成長上限が設定されていない。
通常のクラスは、レベルやスキルに明確な上限があり、
ある地点で成長が止まる。
しかしノービスだけは違う。
極端に厳しい条件を満たし続ければ、
数値が際限なく伸びていく。
問題は、その条件があまりにも非効率で、
普通の人間なら途中で心が折れること。
だから誰も辿り着けなかった。
(でも俺は――)
この世界の失敗ルートも、
成功ルートも、
全部知っている。
必要なのは、才能でも運でもない。
最初から決まっている“正解の行動”を、
一切ブレずに積み重ねることだけだ。
「……農民に戻るなら、紹介状を書きますが?」
係員の言葉に、俺は首を振った。
「いえ。冒険者で行きます」
一瞬、周囲が静まり返る。
無謀だ、という空気。
どうせすぐ辞める、という視線。
それでいい。
(選ばれたんじゃない)
(引き当てたんだ)
最弱クラスから始まる、最短攻略。
この世界は、俺にとって“二周目”だ。
――失敗は、もうしない。




