Rp6、ダーク・ファクター
それは未知なる宙域と未知なる宇宙、そしてダーク・オブ・ホールに砕かれ、再生された次元である。残骸をすり抜け、別次元から来た異星人と呼ばれる文明が、艦体に傷をつけること、数十万本の束が目撃された。それは宙域戦闘による傷でなくブラックホールによって分解されたダーク・オブ・ホールの闇の束であった。
――そこには遺伝すら残らない程の状況下に在った為、クルー達は艦長の命令通りに通り抜けるほか無かったのである――。
―――
「ミヘル・・・写真は分かるのに、名前が、君の存在が思い出せない・・・」
「まーた、次元干渉に浸ってるな?この艦隊パルマコアが通る宙域はよぉ、ライズのような一時的な死を迎えたヤツは常に記憶が残らないのさッ!」
「え・・・あなたは?・・・フラー機長・・・?」
「あ、いや、時代がね、違うんだ」
(おっとスリープモードの奴にはキツイか・・・)
「・・・時代・・・?」
(僕はライズ・インバルス?前はライズ・トーテルだった様な・・・)
――記憶の残骸。それは新たなる生命活動を宿す者にとって過去のデーターにしか過ぎず、人工生命体と異なる機械生命理論を基に構成された“休眠活動脳”という形をとった研究ラボの成果の一つであった。それは次元を通る上で起きる事なので問題無いが、ライズには記憶が消去される出来事があり、周りは何かと気に掛ける。それが次元干渉によって起きる事は稀な筈だが・・・
「俺は、ライズ・インバルス・・・」
「おう、ライズ。また寝違えたか?」
「前は僕と言っていたけど・・・時代が違うのかな?」
「同じ時代だよ。記憶以外はな・・・」
「でも・・・」
(ミヘルという名は覚えている・・・)
未知なる宇宙次元の闇の中にはあらゆるファクターが存在する。それをダーク・ファクターと眠らないクルーは呼んでいた。
――そう呼ばないと次元干渉による記憶操作が行われてしまうからだ―――。
特に成り立ての機械・人工生命体などは記憶自体を蘇らせられるものの、一字の違いで記憶が異なるモノへと変換される状況に在る。
そのような状態となってまで人類を削減しない様に、次元間戦闘を繰返す哀れな人類の頼み綱は、すべて研究ラボに任せられているのである。それも儚き遠き望みだとして・・・
「それにしても、宇宙の頂きがまさか、記憶喪失という現象を起こすとはな・・・」
「艦長、不遇な時は何時でも修正できると、研究ラボのデーターから出ていますが?」
「不遇なる改善は、故郷である次元の宇宙しか答えては来ないのだよ・・・」
「休眠なさいますか?」
「あぁ、1時間ほど記憶喪失になっておこう。時間旅行としてね、」
―――
儚き夢は、時に過去、体験した生命記憶に応じて、魂が準ずる意識の奥底に呼び掛けてゆくのである。それが、例え辛い体験だったとしても、目覚めれば高まる意識に驚き、周囲の景色が明るく見えるだろうという、研究データーでの結論も出ている。専ら、時の許す限りそれ等は、クルー全員にとっても安らかなる時である事に相違ない――。
「ミヘル・イライザ・・・ミヘル・アントレア・・・ミヘル・ウィナート・・・そして、ミヘル・・・“ミヘル・ブレトーナ”か・・・」
「何を数えている?」
「余命だよ。俺の・・・」
――惑星プローメル――
「安全区域を脱している、この次元の塊は1センチ程しか成長しなかった様だな・・・」
―ォアァ――アキャア―
「幻聴か・・・赤子のような“鳴き”声がするんだが・・・」
―ギャアア――アァ―ン―
「本当ですねぇ、赤子の“泣き”声がします・・・」
どうやら周辺の異変に気付いたのか、ブラックホールと呼ばれる小さな次元物質が拡大しつつあるようだった。それはまるで、何かを求め、何処へやってくるのかさえも分からず訪れてきた様である。
「この声は・・・人類だけど、我々、人間とは違う人類のたぐい・・・」
「手を突っ込んでみるか?」
「いえ、わ・・・私はぁ・・・赤子の世話なんてしたことなくて・・・」
「ほら、穴から少しずつ“遺伝物質”の方がやってくるようだぞ?」
「あ、1ミリ程の大きさに変化した・・・」
「早い!もう10センチに膨らんだッ!」
「まるで、巨体のような質量を持ちあわせている様な気がしますねぇ・・・」
失う世界、散り散りとなった網と線を搔い潜って、それはやってきた。まるで髪の毛の無い球体のような形状をしていた。
ミヘルはそれをそっと掴むと、硬くて砕けそうになかった。15センチ、29センチ、35センチと拡大し、やや、柔らかく赤子の様に小さくなっていった。それは成長として喜ぶべきなのか、皆、言葉を失いかけた。
――我は覇王なるぞ・・・我は道彦・・・インシュビ―なるぞ――
それは一体・・・ッ!?




