(43)プロジェクト・コンヤイ
オレは、大使館の壁を乗り越えて道路に降りてきたちくを回収し、大泉さんの車に戻った。
大泉さんは運転しながら、昨日ハナちゃんが届けた荷物について説明してくれた。
「劉公使あてに送った荷物の中身はUSBだ。彼が欲しがっていた情報が入れてある。もちろん偽物だよ。だが、彼らがその中のファイルの一つでも開いた場合、特調謹製のウイルスに感染する」
「ウイルス?」
「あぁ。公使のパソコンに保存されているファイルをすべて、気づかれないように内調のサーバーに全部転送するようにプログラムされているんだ」
「すごい! 木下さんたち、そんなことまで!」
「アイツの得意分野は言語学だが、他のメンバーにホワイトハッカー並みの凄腕がいるんだよ。それに、もし公使が、例えばあのファイルを本国に送って、本国の誰かがそのファイルを開いたら、そのパソコンのデータも全て転送される」
「それはすごい・・・」
「うん、本当に感謝しかない。そして今朝までに転送された分を若井と特調メンバーで解析してくれた。そうしたら、昨日話していたことのいくつかがわかってきたよ」
大泉さんが続ける。
「まず、水中ドローンがどうとか話していた件、あれは日本国内の地下水脈に高性能爆薬を積み込んだ、小型の水中ドローンを24機侵入させ、要となる地点で一斉に爆発させる計画のようだ」
「水脈の情報なんてどこで?」
「ご丁寧に、産総研が日本の地下水マップなるデータベースを公表していてね、大方その辺りから情報を入手したんだろう。高性能爆薬の仕様がまだ掴めていないが、TNT以上のものであれば数グラムでかなりの爆発を誘発できる。場所によっては地盤沈下などの大災害を引き起こしかねない。自然災害を装うことができれば東亜の仕業だと知られずに済むからね」
大泉さんの話を聞いているのかいないのか、ちくわは後部座席のハナちゃんの膝の上で丸まっている。
「年始に日本の各地で井戸から水が噴き出したり、逆に枯れたり、湧き水の名水地から泥水が吹き出たりする現象が発生した、というニュースを覚えているかい?」
「はい」
「あれも彼らの計画だった。本番に向けた試験的な位置づけだったんだろう。今回よりもだいぶ少ない爆薬で滋賀、埼玉、福島の三か所で実施した記録が出てきたよ」
「その爆発で影響を受けた水脈に繋がっている井戸が枯れたり、水が噴き出したりしたってことですか?」
「あぁ、たぶんそうだろう」
オレの頭の中に木下さんの言葉が蘇った・・・水脈の結節点・・・
「もしそれが三角錐が抑えている結節点で爆発したら・・・」
「うん、それは何としても避けなくてはならない。24か所の最終地点がどこなのか、特調チームがAIも使って引き続きデータを調べている」
「そしてもう一つ。これも昨夜の公使たちの話に出てきたことだが、東亜共和国は周級2番艦に、一番艦と同様の生体センサーを積んでいて、そのセンサーからの指令でドローン24機を一斉に爆破させる計画のようだ。プロジェクト・コンヤイという名前で呼んでいるらしい」
「生体センサーって、また猫ですか!」
ハナちゃんが驚いて声を上げる。
大泉さんはバックミラーで後ろのハナちゃんを見ながら、
「今のところ、動物が何かまではわかっていないようだが、前回のことを考えれば・・・おそらく、そうだろう。しかも24機もコントロールしているとなると、負荷も相当なものだ」
振り向かなくても、ハナちゃんの怒りが伝わってくる。
「何としてもドローンを止めて、猫を助けなくちゃ!」
オレがハナちゃんを代弁して大泉さんに言う。
「あぁ、その通りだ。だが24機のドローンは、水脈の中を絶えず移動している。最終目的地がわかれば、先回りしてドローンを回収して無害化することもできるだろうが、水脈が深ければ大掛かりな工事も必要になるだろうし、おそらく時間が間に合わない」
「としたら?」
「EEZの向こう側に待機しているという周級2番艦にこちらから出向き、生体センサーが爆破指令を発信できないようにするしかない」
「え、それって?」
「うん、「かみかぜ」出撃だ!」
ハナちゃんの膝の上で、ちくがにゃおん、と一鳴きした。




