上洛の伴
佐久間は、そっと戸を叩き、姉弟が針仕事をしている座敷へ顔をのぞかせた。
「……あの、少々よいか?」
「どうぞ。……って、その顔はまた何かやらかした顔ですね?」
「いや、やらかしてはおらん。まだ、だ。」
「“まだ”って何ですか、“まだ”って。」
佐久間は咳払いし、姿勢を正した。
「実はだな。来春、武衛様の上洛に……わしも伴として参ることになった。」
刺していた針が、ぷすり、と布を突き抜けた。
瞬きもせずに固まる。
「……は?」
「だから、その……上洛する。」
「ち、ちょっと待ってください。上洛って、都ですよね? 一年とか、二年とか滞在する、あの……?」
「まあ、長くとも二年は超えぬ、と仰せでな。」
「では私の婚儀はどうなるのですか!?」
「ま、まだ相手もおらんわけだしな……。」
「誰のせいですか!」
「うっ……いや、ちゃんと探しておるのだ。ただだな、相手は慎重に選ばねばならんし――」
「慎重すぎて私が朽ち果てる未来しか見えません!」
「そんな大げさな……まだ若いではないか。」
「佐久間様、言っておきますが、女の“若い”は年ごとに値が下がるのですよ!」
「そ、そんな相場みたいに……。」
姉は深々とため息をつき、針山を置いた。
「……で、上洛。危険ではないのですか?」
「まあ、都は大内殿が去ったことで騒がしいのは確かだ。」
「それを危険と言うのですよ!」
「だが、それゆえ義達様の御役目がある。わしも尾張の武士として恥ずかしくは動けん。」
姉はしばし黙り、じっと佐久間の顔を見た。
怒りも呆れも残ってはいたが、その奥底には心配が滲んでいる。
「……わかりました。婚儀は、戻られてからでも……まあ、なんとかします。」
「すまん。」
「でも、必ず……」
姉は唇を引き結び、言葉を飲み込むようにしてから続けた。
「必ず、ご無事でお戻りくださいね。」
佐久間は少し照れたように頬を掻き、静かにうなずいた。
「心配するな。必ず帰る。その時までには……お前の縁談、ちゃんと形にしてみせるさ。」
「ええ、楽しみにしております。言いましたからね?」
「……わかってるって。」
その声に、佐久間はそっと頭を掻きながら笑ってみせた。




