愛とか恋とか、
「愛だの恋だのくだらない」
そう言ったら、幼馴染みは困ったような、かなしそうな顔をした。
「るーちゃんがそういうふうに考えてしまうのも仕方ないのかもしれないけど、愛とか恋は、きっといいものでもあるよ」
私の意見を一面として認めながら、それでもそうでない面もあるよと言う。
これが脳内お花畑による産物だったら切り捨てるのだけど、幼馴染み――ユイは私と同じくらい愛とか恋とかに夢を持てないはずの身の上だ。それなのにどうしてそういうふうに思うのか、気にならないわけじゃない。
視線で先を促すと、ユイは小首をかしげて、少し迷うように口を開いた。
「僕もるーちゃんも、真っ当な家族愛には恵まれてないから、恋も愛もくだらなく見えてしまうけど。僕はるーちゃんが好きだよ。るーちゃんがいるから生きてるし、るーちゃんがいるから世界が続いててもいいかなって思うし、僕達みたいな悩みがなくてそれでも不満たらたらに生きている人を見てもまあいいかって思う」
「私にかかる比重が大きすぎない?」
「るーちゃんは僕の一番だから」
「それで、それが愛とか恋とかくだらなくない理由?」
「るーちゃんがいるから世界が輝いて見えるし、るーちゃんが笑うと幸せだって思うし、るーちゃんが悲しいと僕も悲しい。そういうの、愛とか恋とかの作用でしょう?」
ユイは微笑んで、私の手を包むこむように握った。
「るーちゃんがあったかくて、生きてるなぁって思うだけで、僕は他のどんな理不尽もどうでもよくなるよ。そういう気持ちを抱かせてくれるものだから、くだらなくない部分もあるって思う」
包み込まれた手が、私より少し高い体温を伝えてくる。
いつの日か、縋り合って、寄り添い合って、理不尽を乗り越えた体温だ。
愛も恋も、人を馬鹿にする。愚かにする。どうしようもない存在にする。
それは私の持論だけど、ユイがそう言うのなら。
「……ユイの愛とか恋とかは、くだらなくないのね」
「最初はそこからでいいよ。きっと世界には、他にもくだらなくない愛とか恋とかが転がっているはずだから」
溢れてる、とは言わないのが、ユイのどこか欠けたところを表しているんだろう。
私はユイの手を包み返すようにもう片方の手で触れた。
ユイがやったのとは違って、包み込む、とはお世辞にも言えない様子に、大きくなったな、と思う。
小さくて、泣いてばかりだったあの子が。
こんなに大きくなって、「恋とか愛とか、くだらないばかりじゃないよ」と言えるようになった世界なら、まだ少しだけ許せる気がした。
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