7 収穫祭①
収穫祭当日の朝は早かった。
まだ暗いうちに起きて朝からお風呂に入らされ、竜化してからもう一度お風呂に入らされて、鱗がピカピカになるまで磨き上げられた。それはそれはあまりの気持ち良さに子竜のまま寝てしまっていた。竜化すると、どうしても眠気に負けやすくなるのは、子竜だからなんだそうだ。
そして、ピカピカに磨き上げられた後、体に聖水を掛けて清められ、1本の麦を手渡され、その麦を持ったまま最終目的地である神殿へと飛行する。これは雨天決行で、雨の中の飛行はまだ自信が無くて心配していたけど、晴天に恵まれた。眼下では沢山の領民が手を降って応援してくれていて緊張したけど、信頼する側衛のキースと一緒の飛行だからか、何の不安も無く楽しく飛行できた。
1時間程飛行して辿り着いた神殿で、私とキースを出迎えてくれたのは、数多くの人達と、大神官様と聖女由茉だった。大神官様は勿論だけど、聖女由茉として立っているお母さんは、いつもとは雰囲気がガラリと一変していて、凛とした姿は神々しいとさえ思う程だ。
「奉納の儀を執り行いに参りました」
「「お待ちしておりました」」
私が挨拶をすると、大神官様とお母さんが返事をした後、私を案内するように神殿の奥へと進んで行った。
そして、進んだ先の祭壇で持って来た1本の麦を奉納して、その麦に大神官様とお母さんが祝福を掛けて奉納の儀は終了となった。
ちなみに、祝福を授ける事ができるのは、大神官様とお母さんだけなんだそうだ。
ーやっぱり、お母さんはチートだー
今日1日は、私は竜化したままで過ごす事になっている。西領の上空を飛行しまくるのだ。守護竜が健在だとアピールする為で、見回りも兼ねている。私の飛行速度に合わせる為に、飛行に同行するのはキースとカイルスさんの2人で、アルマンさんとマイラさんは、今日は地上での見回りと言う名の元に祭りを楽しんでもらう事にした。
「「ありがとうございます!」」
竜騎士ともなれば、国を上げての祭りの際は警備や護衛としての任務に駆り出されるから、祭りに参加する事が殆ど無いそうで、今日の事は本当に嬉しそうだった。竜騎士になると、デートもなかなかままならないと聞いた事もある。
『そう言えば、アルマンさんとマイラさんって、恋人とか婚約者とか居るのかなぁ?』
『アルマンには婚約者が居る。相手は幼馴染みで仲も良い』
カイルスさんは、その婚約者ともアルマンさんを通して交流があるそうだ。
『マイラ様には婚約者は居ません。恋人も居るとは聞いてません』
それでも、あの明るさと可愛らしい容姿で気さくな性格だから、密かに人気があるそうだ。
『カイルスさんも、今は恋人は居ないんですよね?』
取り敢えず、サラッと再確認をする。
『居ない。マシロの事だけでいっぱいだからね』
『ふおっ!?』
『…………』
ーそれは一体どう言う意味ですか!?ー
いやいや、落ち着こう。自分都合に解釈してはいけない。自惚れたりなんてしたら、後で自分が惨めになるだけだ。きっと、自分が仕える主が新人の守護竜で、尚且つ竜人に成り立ての子竜。おまけに、この世界の事も疎いと来たら、心配でたまらない──と言ったところだろう。
ーあれ?私、ある意味問題児では?ー
主の私を放ってはおけない!とかで、アルマンさんの結婚が遅れたりなんてしたら───
『いたたまれない!頑張る!』
『何を思ったのか分かるが……マシロは相変わらず考え過ぎるところがあるな。素直に受け取ると言う事を知って欲しいところだな』
『そこがまた、マシロ様の可愛らしいところですけどね。まぁ…頑張って下さい』
苦笑しているカイルスさんとキースには気付かず、私は改めて気合を入れ直して飛行し続けた。
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「あ!あれ、守護竜様じゃない?」
「パタパタ飛ぶ姿は可愛いわね」
「本当に白の子竜なのね」
「………」
空を見上げれば、白の子竜のサイドに鷲と隼が寄り添うように飛行していた。
ーカイルス様が守護竜様付きになったと言うのは、本当のようねー
竜騎士カイルス=サリアス
鷲獣人でありながら竜騎士になり、騎士爵を与えられた。あの頃は、まさか本当に竜騎士になれるとは思っていなかった。竜騎士になったと知った時には、私は既に“公爵夫人”となっていたから、その事すら忘れてしまっていたけど、もし、公爵夫人になる前だったら、何かが変わっていたのかしら?と思うのは、私が夫を亡くして“女公爵”になったからだろうか?
ーカイルス様に直接会えば、分かるかしら?ー
気が利くような人ではなかったけど、私を大切にしてくれていたから、好かれていたのだと思う。竜騎士で守護竜付きとなったのなら、騎士爵であっても何の問題も無い。私が女公爵なら、守護竜様と直接会える確率も高いから、その時に声を掛ける事ができる筈。
ー会うのが楽しみだわー