6 不穏
「もう、飛行は完璧ですね」
『もう少し飛んで来ても良い?』
『勿論です!お供します!』
体力がついたお陰もあり、長距離の飛行も問題無くできるようになった。いざと言う時の急降下や急上昇や低空飛行もできるようになった。竜騎士の中には、眠りながら飛行する事ができる人も居るそうだけど、それは本当に最終手段としての睡眠方法だから、私が習得する必要は無いそうだ。勿論、教えてもらえるとしても、習得できる気は全く無いけど。
兎に角、飛行に関してはお墨付きをもらったから、許しをもらってキースと一緒に空の散歩をする事にした。アルマンさんとマイラさんとは違って、キースは私と同じぐらいのサイズだから、一緒に飛行するのには丁度良い相手になる。鷲のカイルスさんは、竜人の血を継いでいるからか、普通の鷲よりも飛行速度は早い。それがまたよりカッコよく見えて見惚れてしまうから、困ってしまうところだ。
『マシロ、そろそろ昼食の時間だ』
『カイルスさん!?』
カイルスさんの事を考えているところに本人登場。
『ふわあっ!』
『マシロ!』
『マシロ様!!』
あまりの驚きに体勢を崩すと、透かさずカイルスさんが私の体の下へと回り込んで支えてくれた。
『あ……ありがとうございます』
『俺の方こそ、驚かせてしまったようで、申し訳無い。もう大丈夫か?』
『はい、大丈夫です。お昼…ですね?戻ります』
バクバクする心臓を落ち着かせながら、私は地上に降り立った。
*収穫祭前日*
いよいよ、明日から3日間の収穫祭が始まる。
私は西の守護竜として、西領の上空を飛行する事になっている。最終目的地は西領の中央にある神殿で、そこで豊作を祈願して奉納の儀を執り行う事になっている。
「成竜の大きさなら威厳満載なのに……」
パタパタと飛ぶ子竜では、威厳は全く無い。
「可愛いので問題ありません!」
「“守護竜”と言うだけで威厳満載です!」
キースは安定のキースで、マイラさんも褒め上手だ。
「容姿はそこまで気にする必要はありませんよ。“収穫祭で守護竜が飛行する”事に意味があるんです。それだけで、領民は喜びます」
アルマンさんの言う通り、何と言っても100年ぶりの守護竜の飛行。それはそれで───
「プレッシャー!」
「マシロなら大丈夫だ」
よしよしと頭を撫でてくれるのはカイルスさん。カイルスさんに撫でてもらうのは嬉しいけど、これは子供扱いされているのでは?と思わなくもないけど、嫌われていないだけでも良しとする事にする。
「うん、悩んでも仕方無いから、当日は楽しむつもりで頑張ります!」
ここまで来たら、こつこつと出来る事を精一杯頑張るしかない。威厳はそのうち付いてくる──筈。
西の離宮に来てからは平穏な日々を過ごしていたから、浮かれていたのは確かだった。これからも、平穏な日々が続くと思っていたあの頃の私を殴ってやりたい!と思う日が来るとは、この時はまだ知る由もない。
そうして、収穫祭当日を迎えた。
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「何処に行った!?」
「分からない。遠くには行けないと思うが……」
「くっそ!もし逃げられたとバレたら、俺達もヤバいぞ」
2年前の取り締まり以降、人身売買の売り上げが無くなり、大打撃を食らった。あれからは、正当なオークションだけの収入しかなく、儲けは1/3以下にまで減った。それが、今回は珍しいモノが手に入り、以前から欲しいと言っていた貴族に売る契約を交わしていた。それも、破格の値段で。
100年ぶりの守護竜ありきの収穫祭だから、大賑わいとなるだろう。その大賑わいに乗じて取り引きをする予定だったのに、少し目を離した隙に売りモノが逃げてしまったのだ。
「なんとしてでも見付けなければ」
「どうせ、言葉もマトモに話せないし、金になるような物も一切持っていないから、直ぐに見付けられるだろう。後は……警備兵に見付からないように祈るだけだな」
竜王国での人身売買は禁止されていて、それがバレれば死罪も有り得る。
「捕まえたら……覚えておけよ………」
綺麗なままで売ろうと思っていたが、愉しんでからでも良いだろう。
引き渡しは中日の2日目の夜。収穫祭が一番盛り上がる日だ。そこで金を手にできたら、一度オークションからは手を引く予定だ。数年遊んで暮らせるだけの金はある。それからは、拠点を人身売買を認めている国に移す予定だ。この予定を狂わせるつもりはない。
「捕まえたら、赦しを請うても赦すつもりはないからな」