43 増える幸せ
「竜人だから体力があるって、誰が言ったの?」
「それは本当の事だからな。竜人は、成竜になると病気になる事も滅多に無い」
「獣人は?」
「俺は鳥獣人だけど、竜人の血も引き継いでいるから、普通の獣人より体力はある」
ーそれは、身をって知りましたー
「マシロは、人間として育った時間の方が長いから、体力もあまり無いのなもしれないな」
「…………」
ーカイルスさんのせいでは?ー
なんて、口が裂けても言わない。そんな事を言おうものなら、また『煽ってる』と言われて攻められるだけだから。カイルスさんの目には、私が何をしても可愛く見えて煽ってるように見えるらしい。優しいけど優しく無いカイルスさんからの攻めは、一度で終わる事がなかった。ベッドから出る事ができない日もあった。今なら、芽依さんに蜜月の事を訊いた時、遠い目をした理由がよく分かる。しかも、芽依さんは普通の人間でリシャールは純血の竜人だから、私よりももっと大変だったと思う。
「お風呂に入る?入るなら、連れて行くから」
「ひっ……1人で入れるから!2人で行ったら……入るだけで済まないから!!」
「それは残念」
ー『残念』じゃない!ー
何故カイルスさんは元気なのか分からない。
『俺がどれだけマシロが好きなのか、この1ヶ月でしっかり分かってもらわないとな』
と言われて始まった蜜月。しっかりハッキリ分かりました。何があっても疑いません。隙あらば熱を注がれて、熱の篭った瞳を向けられてしまえば、疑う余地すら無いし、そもそもカイルスさんからの想いを疑った事も無い。
「本当に……子供ができててもおかしくない…よね……」
「それなら嬉しいけどね」
「──っ!?」
と、バックハグ状態でベッドの上に座っている私達。カイルスさんの手が、私のお腹から胸を撫で上げる。
「もっ…もう無理だからね!?あ…明日で蜜月明けだからね!?」
明日で蜜月が終わり、明後日から仕事復帰予定の私達。今日はもう体がグッタリ状態な私なのに、カイルスさんは楽しそうに微笑んでいる。この笑顔はヤバいと知っている。
「明けは明日だから、大丈夫」
「大丈夫じゃないから!」
「マシロ、愛してる」
「っ!!!!!」
そんな声で言われて、そんな瞳を向けられると、私も抗えなくなってしまうのだから、どうしようもない。
「カイルスさんの……バカ!」
ささやかな抵抗ではない抵抗を口にすると、カイルスさんは嬉しそうに笑ってから、また私を絡めとって行った。
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「お姉さん、お疲れ様でした」
「ありがとう、芽依さん」
「今日はゆっくりしなさい」
「ありがとう……お母さん………」
ー居た堪れないー
蜜月が明けた翌日。カイルスさんは復帰の報告を兼ねて王城に行ったけど、私はベッドから出る事ができず、今日はお母さんと芽依さんが私を心配して来てくれた。病気ではなく、理由が理由だから、何とも恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。
「ある意味、ポーションが無かった方が良かったのかしら?」
「お母さん……」
いや、回復のポーションが無かったところで、手加減されたとは思えない──なんて、恥ずかしくて言えないけど。
「回復ポーションは、本当にありがたかったですよ」
と、またまた遠い目をしながら言うのは芽依さん。詳しくは訊かないし、言いたい事はよく分かる。ただ、あのリシャールも………普通の竜人の男性だったんだなぁ……と感慨深い気持ちになった。
「なら良かったけど……本当に、竜人や獣人との結婚は大変なのね……。レナルドがまた泣いてたわ」
父性本能爆発中のレナルドさん。レナルドさんの話をする時のお母さんは、とても幸せそうな顔をしている。それが、私にとっては何よりも嬉しい。
「仕事復帰したら、暫くはバタバタすると思うから、落ち着いたらお母さんとレナルドさん会いに行っても良い?」
「あ、それなら、私とリシャールも合わせて一緒に行っても良いですか?」
「勿論よ。レナルドも喜ぶわ」
3人で笑い合う。家族が増えると言うのは、嬉しくて幸せな事だなと思う。この幸せが、いつまでも続きますように───
*その頃の王城にて*
「やっぱり、マシロは来なかった……来れなかったんだな」
「はい」
そう言って笑っているのは竜王陛下だ。
「後で、レナルドに小言を言われるだろうけど、素直に受けてやってくれ」
「勿論です」
それぐらい、いくらでも受け入れられる。
「改めて、おめでとう、カイルス。これからも、マシロと仲睦まじく過ごしてくれ。そして、護ってやってくれ」
「ありがとうございます」
それから少し話をした後、謁見の間を出て歩いていると、レナルドに捕まり、小言を食らった。
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離宮に帰って来たのは、夕食の時間の少し前で、ユマ様とメイが帰った後で、マシロはベッドで寝ていた。そろそろ夕食だから起こした方が良いか?と思っていると、丁度マシロが目を覚ました。
「カイルスさん、おかえりなさい」
「ただいま。大丈夫?夕食はどうする?」
「ここで食べる……」
むうっ─と、口を尖らせるマシロ。『大丈夫じゃない!誰のせいだと!』と、言いたいのを我慢しているんだろう。
「一緒に食べよう。持って来るから待ってて」
「ありがとう」
頬に軽くキスをすると、マシロがふわりと微笑んだ。
それから5年後。西の守護竜に、白色と黒色の鷲の双子が生まれ、西領は祝賀ムードに包まれた。




