42 蜜月
*茉白視点*
結婚の翌日の朝は、比較的ゆっくりと始まった。
昼からのお披露目会も、格式張ったものではなく、『これから夫婦でよろしくね!』みたいな感じの食事会のようなもので、私の服装も白色のワンピース。
招待客も、女性はワンピースタイプのシンプルなドレスで、男性もフォーマルスーツタイプの服で、招待客は竜王国の人限定だから、リオナさん達には手紙を送った。
交流会の時とは違って、私を見下すような人が居ないから、会場は穏やかな空気に包まれている。
「守護竜様、おめでとうございます」
「ありがとう」
「カイルス様も、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
招待客の人達と挨拶を交わしていく。
私の隣に立つのは、真っ白な騎士服を着たカイルスさん。
ーカッコ良過ぎる!ー
この人が私の旦那さん。結婚したと言っても、宣言して紙にサインをしただけだから、いまいち実感はなかったけど、こうして並んで立って祝ってもらえると、結婚したのか──と、じわじわと来る。そうしてカイルスさんを意識しだすと、ドキドキして落ち着かなくなり、普段通りの様子のカイルスさんが恨めしい。少しだけ心の中で愚痴ってから、また気持ちを切り替えて挨拶回りを続けた。
招待客との挨拶が終わると、私とカイルスさんがダンスをして、1曲目が終わると、他の人達もダンスや食事や会話を始めた。
「マシロ、何か食べる?」
「少しお腹が空いてるから、何か食べようかな」
「それじゃあ、俺が取って来るから、マシロは椅子に座って待ってて」
と言うと、カイルスさんは私を椅子に座らせた後、食事を取りに行ってくれた。
「はい」
「えっと……自分で食べれ─んぐっ!」
お皿に数種類のデザートを乗せて戻って来たカイルスさん。私の横に座ってからお皿を受け取ろうとすると、フォークに刺したデザートを、私の口元に差し出して来た。人前での『あーん』は流石に恥ずかしいから、拒否ろうかと口を開けば、問答無用で口に突っ込まれた。
「これは、旦那の特権だから、マシロにも譲れ無い。馴れてもらうしかない」
「特権………」
ー『あーん』に特権があるとは思わなかったー
周りを見てみると、微笑ましい目で見られていた。『あーん』は、竜人や獣人の夫婦にとっては普通の事なのかもしれない。なら、恥ずかしいけど、ここは素直に受け入れるしかない。
「えっと……ありがとう……」
「どういたしまして」
と、それからもニコニコしているカイルスさんからの『あーん』攻撃は、最後迄続いた。
*カイルス視点*
シンプルな白色のワンピースを着たマシロは、本当に可愛い。黒色の髪は、より一層綺麗に見える。
マシロとの初めてのダンスは、今迄して来たダンスの中で一番緊張した──と言うよりも、あまりに意識がマシロに集中し過ぎて、『このまま攫ってしまおうか?』と言う欲を抑えるのでやっとだった。
給餌行動
おそらく、マシロはその意味を理解していない。竜人や獣人にとっては大切なものだ。愛する人や番に対しての求愛行為だ。俺が差し出した物を食べるマシロは、俺の求愛を受け入れたと言う事だ。もう、既に結婚して夫婦になっているから問題は無いし、周りに居る者達も、ただただ微笑ましく見ているだけだった。
昼過ぎから始まったお披露目会も、3時間程でお開きになり、招待客の見送りが終わると、俺はアルマンの背に乗り離宮に向かい、マシロは少し遅れてからキースと一緒に離宮へと戻って来た。
それからも、俺とマシロは夜までは別行動となる。
「女性は色々と準備がありますから」
と、イネスがそう言いながらマシロを連れて行った。
その、色々な準備をしているらしい間、俺は、キースとからこれからの1ヶ月の予定の再確認をする。
1ヶ月の蜜月の間、離宮での使用人は最低限のみとする。
緊急時以外の来客の受け入れや執務は行わない事。
食事は1日3回必ず摂る事。
「そして、一番大事なのは、“無理をさせない事”です。宜しくお願いします」
と、キースが軽く俺に圧を掛けて頭を下げた後、部屋から出て行った。
そのキースが出て行ったドアとは反対側の奥にあるドアの前に立つ。そのドアを開けて入ると、そこは夫婦の寝室で──
「あ、カイルスさん………お疲れ様です」
「マシロ……」
ベッドの端に座っているマシロが居た。
ーやっと、マシロと2人になれたー
「ふわあっ──」
俺はマシロの隣に座ってから、マシロを俺の膝の上に抱き上げて、マシロの肩に顔を埋めて抱きしめた。
「やっとマシロを捕まえた」
「ん?」
ここ数日は、すぐ側に居たのに、手に触れる事すらできなかった。どうやら、それが、かなりのストレスになっていた──と言う事に気付いた。
「ふふっ…やっとって……もうずっと前から捕まってたのに?」
「この……無自覚………」
「え?」
無自覚に可愛いマシロには、そろそろ自覚してもらわないといけない。
「俺を煽るとどうなるか……分かってもらわないとな」
「あおる?なにを────」
更に何かを言いかけたマシロの口を塞いで、長い───長い蜜月が始まった。




