40 幸せの押し寄せ
「もしもよ?もし、茉白に“お父さん”ができたらど──」
「レナルドさんがお父さんになるなら、いつでも大歓迎だからね!」
「え………」
「え?」
ーあれ?ひょっとして間違えた!?ー
「何で……レナルドさんだと………」
「え?レナルドさん以外に誰が居るの?レナルドさんしかいないよね?」
「え………」
お母さんが顔を赤くして焦っている。明日は雨が降るかもしれない。
「それで?レナルドさんにプロポーズでもされたの?」
「茉白……楽しそうね」
「勿論!でも、楽しいと言うより、嬉しいかな?」
リシャールと芽依さんの婚約が調ってからは、お母さんがレナルドさんの家でご飯を作るようになって、私達が浄化巡りに行っている間は、レナルドさんの家で過ごしていたと、芽依さんから聞いていたから、もしかして?と思ったりしていた。
「ようやく、“戦友”から“恋人”になったんだね。あ、違うか…“夫婦”になるのかな?」
「茉白……本当に、私が結婚する事に反対じゃない?」
「相手がレナルドさんなら、反対するところはないよ。レナルドさんなら、安心してお母さんを任せられるからね」
この世界に二度も召喚されたお母さん。そんなお母さんを、一度目の時も二度目の時も助けてくれたのがレナルドさん。反対する理由なんて何一つ無い。2人が結婚すると、お母さんがこの離宮から出て行く事になって寂しいけど、それよりも、お母さんがレナルドさんと幸せになってくれる方が嬉しい。
「ありがとう茉白。私も、茉白にはカイルスさんが居るから、安心してレナルドさんのところに行けるわ」
お互い笑い合って、その日は夜遅く迄、話に花を咲かせた。
それから、私の周りでは幸せな事が続いた。
先ずは、リシャールと芽依さんが結婚した。
竜王国での結婚は、2人だけで神殿に行って神官の目の前で結婚を宣言した後、婚姻届けにサインをして終了となる。そして、後日改めてお披露目会を開いてお祝いをする──と言う流れなんだそうだ。
リシャールと芽依さんの希望で、お披露目会はせず、離宮で身内だけでお祝いを兼ねての宴会をする事になった。とは言え、レナルドさんからのお祝いがとんでもないものだった。王都の外れにある庭付きの邸だった。勿論、レナルドさんのレナルドさんによる結界付き。
『可愛い娘の安全が第一だからね』
と、親馬鹿ぶりを発揮していた。芽依さんは魔力も竜力も無い、普通の人間だから、より過保護になっているのかもしれないけど、レナルドさんは本当に良い親だなぁ…と思う。
そうして、リシャールと芽依さんは離宮から出て、王都に住むようになり、リシャールもその邸で領地運営をし、週に1日だけ離宮に報告がてらに来る事になった。その2人の生活が落ち着いた頃、今度はレナルドさんとお母さんが結婚した。
『『お披露目会はしない(わ)』』
歳も歳だから──とは言え、2人は初婚になる。しかも、お母さんは聖女だから、盛大なお披露目会をしないといけないでは?と思っていたけど、『別に要らないだろう』と、竜王の一言でしなくても良くなった。
2人は婚姻届けを出した後、新婚旅行として1ヶ月の旅に出た。新婚旅行後は、お母さんも離宮から出て、レナルドさんの邸に住む予定だ。
そして、2人が新婚旅行に行っている間に、アルマンさんが結婚した。もともと仲の良い婚約者との間に、子供ができたらしい。所謂“できちゃった”だけど、子が出来難い竜人にとってはめでたい事でしかない。本来なら結婚後にある“蜜月休暇”を利用して、アルマンさんが妻をサポートする為に1ヶ月休む事になった。結婚後に1ヶ月の休みが当たり前の竜王国は、日本よりもホワイトな国だ。
そして、何より一番嬉しい事は────
「姉上、今、時間は大丈夫ですか?」
「お姉さん、一緒にお茶しませんか?」
「する!時間は大丈夫!!だよね!?キース!!」
「大丈夫です!────ふっ………」
ーキースに笑われても気にしないー
離宮内でだけだけど、リシャールと芽依さんが私の事を『姉上』『お姉さん』と呼んでくれるようになった事。週に1日離宮に来る時は、そう呼んでくれるようになり、3人で一緒にお茶を楽しむようにもなった。これも、芽依さんのお陰だ。『姉や兄が欲しかったんです!“お姉さん”と呼んでも良いですか!?勿論、プライベートな時だけでも良いので!』と芽依さんに言われて『勿論!喜んで!』と即答した私。『なら、私も“姉上”と呼ばせていただきます』と、リシャールのデレも頂いた。無理かな?と思っていた野望も叶って、これ以上の幸せがあるだろうか?
「幸せが押し寄せ過ぎてる!」
「それは良い事ですね」
「でも、姉上自身の幸せはこれからですよ」
「あ……ありがとう、リシャール」
そうして、私とカイルスさんの結婚も、いよいよ3ヶ月後となった。
誤字脱字報告、ありがとうございます。




