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33 ハイエット公爵

「彷徨い人を解放する」


西の離宮の門の前で私が宣言すると、そこに膝を抱えて蹲っている女性が現れた。


「ハイエット公爵だったのね」

「っ!?」


私が声を掛けると、ビクッと体を震わせてから顔を上げた。


「あ………わた…し………ここは………」

「ここは西の離宮の門よ。貴方は、私の許可無くこの門を潜ったの。私の許可無くこの門を潜るとどうなるかは……もう分かってるよね?」

「…………」




『ジャスミーヌ=ハイエットが、予想通り門を潜った』と報告を受けたのは、昨日─交流会2日目─の夕方前。


『ジャスミーヌ=ハイエット公爵が、交流会から戻って来ない』と、ハイエット公爵家の執事が西の離宮に手紙を飛ばして来たのが、今日─交流会2日目の翌日─のお昼過ぎだった。状況を把握していたけど、敢えて知らない、気付いていないフリをして、公爵家側からのアクションを待っていた。“私達は何も知らない”“ハイエット公爵が勝手にした事だ”とする為に。


ジャスミーヌさんは、その間、この門の中を彷徨っていたのだ。視覚も聴覚も無意味となる程の暗闇が広がっている。ジャスミーヌさんが本当に守護竜だったなら、彷徨う事にはならなかった。


「何故、招待された訳でもなく、許可されてもいないのに、この離宮の門を潜ったのか──改めてハイエット公爵家に質問状を送らせてもらうわ。その回答によって、これ迄の貴方の行いを含めてどう対処するか考えさせてもらうわ」

「わたしは……ただ……門を潜ろうとしただけで…」

「貴方、ここが何処の門だか理解していないの?ここは、西の守護竜のプライベートな領域なの。そこに許可無く入って来ると言う事は、“西の守護竜に敵意有り”と判断されてもおかしくないと言う事よ」


西の離宮がどう言う場所なのか知らなかった─とは言わせない。門の特性は公にはされてはいないけど、離宮の意味を知らない貴族は居ない。しかも、ジャスミーヌさんは公爵だ。


「兎に角、西の離宮の門内で見付かったから、本殿の方に迎えを寄越して欲しいと、ハイエット家に報告はしてあるから、今日のところは帰ってもらって良いわ」

「ありがとう……ございます………」


ジャスミーヌさんは1人で立ち上がる事もできなかった為、門衛の1人が竜化して、ジャスミーヌさんを鷲掴みにして本殿へと運んで行った。


「えっと……一応女性だから、もう少し丁寧に……」

「丁寧に運ぶ必要はありません。罪人ですから」

「あれでも丁寧な方です」

「運んでもらえるだけでも、有り難いと思ってもらわないと」


キースもアルマンさんもマイラさんも容赦なかった。







翌日。ハイエット公爵家から、正式な謝罪文が送られて来た。そして、その謝罪文と共に、ジャスミーヌさんを当主から外して、先代公爵の従兄弟が公爵を引き継ぐと言う事が書かれてあった。竜王の承認次第になる為、そうなるかどうかはまだ分からないとあったけど、おそらく承認されるだろう。ジャスミーヌさんは、失態が続いていたし、コルダー公爵とも繋がっていたから。キースの調べでは、引き継ぐ従兄弟はマトモな人なんだそうだ。


ジャスミーヌさんはどうなるのか?


「修道院送りあたりかな?」

「それが妥当ですね。命が脅かされた訳じゃありませんから。残念ですね……」


ベレニスさんと比べたら、本当に可愛い範囲だった。

ある意味、ベレニスさんのお陰でジャスミーヌさんの攻撃が、子供レベルの嫌がらせぐらいにしか思えなかった。


「白竜だから強いって事でもないんだね」

「そうです。黒竜は生まれ持って竜力が強いので、黒竜として生まれれば、その竜人が将来国王になる事がほぼ決まってると言われていますが、白竜の場合は“浄化の竜”と同じ色“珍しい色”なだけなんです」


私も“白竜だから”それなりの竜力を持っていて、浄化の力も強いと思っていたけど、そうではなかった。“守護竜だから”だった。


「勿論、その持って生まれた竜力を最大限に使いこなせるかどうかは、本人次第なので、マシロ様が素晴らしい守護竜だと言う事には代わりありません」


本当に、キースは褒め上手だ。


「ありがとう、キース」

「本当の事を言っただけなので、お礼は必要ありませんが、しっかりお受けします」

「ふふっ……。まぁ、取り敢えず、これで一段落ついたね」


この世界に来てから、ずっと色んな事があって大変だったけど、これで少しは落ち着くだろう──と言う事は、これから私がする事は一つ。


「それじゃあ、そろそろ浄化の日程を組まないとね」

「そうですね。それでは、各領地からの報告書を纏めてお持ちします」

「うん。よろしくね」




それから1週間後。ハイエット家に新しい当主が就いた。




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