31 招かれざる客①
*カイルス視点*
交流会1日目は穏やかな雰囲気だった。
マシロは最初は緊張していたようだったが、参加者達と会話をしていくうちに笑顔が増え、途中からは楽しそうにしていた。
中には、マシロに息子を紹介して縁を持とうとする者や、近付こうとする騎士爵の者達が居たが、それらは尽くキースが笑顔で牽制していた。忘れがちだが、キースは一番若い上にマシロの前ではへにょへにょになっているが、獣人でありながら竜騎士になった実力者だ。本気になれば、この会場に居る若手の竜人の竜騎士よりもレベルは上だろう。そんなキースが浮かべるのが、圧の掛かった笑顔だ。若手の騎士や普通の貴族にはよく効いている。キースは、自分が守護竜の側衛だとは知らないうちから、自分や親すらも竜人だと知らなかったマシロに執着していた。マシロとキースが主従関係になってから、2人は2人だけの絆で結ばれているのが分かる。不思議な事に、そんな2人の距離の近さに不快感は無い。寧ろ、マシロの近くにキースが居る事で安心している。守護竜と側衛の関係は、本当に不思議なものだなと思う。
だからこそ、白竜であろうがなんであろうが、本当にジャスミーヌが守護竜だと言う事は有り得ないと言える。ただただ、白竜だと言うだけで、彼女にはマシロの様な、形容し難い空気は纏っていない。騎士としても惹かれるような強さも無い。白竜で公爵となって傲慢になっただけだ。女性としての魅力も感じない。今更俺に近付いて来られても迷惑なだけだ。
『ズルズル引き伸ばしても無視しても、あの手のタイプは執拗いし調子に乗るから、さっさと片付けよう』
と、皆の意見が一致したのは有り難かった。
******
『今日中に、リシャールにこれを届けてくれる?』
『それなら、俺が届けよう。丁度、離宮に戻る予定だったから』
『それじゃあ、宜しくお願いしますね』
交流会2日目の途中で、マシロから頼み事をされ、俺は鷲になって直ぐに離宮へと向かった。
バサッ── バサッ──
離宮に向かう者は限られている。入宮を許可された者か、招待された者しか入る事ができないからだ。だから、本来なら、今離宮に向かっているのは俺だけの筈が、俺の後ろから誰かが付いて来ている。
ー本当に、予想通りの動きをしてくれるなー
本来なら警戒して警告を出すところだが、今回はこのまま離宮へと向かう。どこまでも愚かだ。
暫く飛び続け離宮に辿り着くと、俺はまた人の姿へと戻り、そのまま離宮の門へと向かう。
「カイルス様!」
「………ハイエット公爵、何故ここに?」
ジャスミーヌ=ハイエット。俺の後を付けていた人物だ。自分が何をしでかしたのか、理解しているだろうか?
「カイルス様と話がしたいと、マシロ様にお願いしたのに全く聞き入れていただけなくて。だから、こうして追って来たの。ここでなら、2人だけでゆっくりお話ができるでしょう?」
「先ず、側衛キースから名呼びは失礼だと言われてませんでしたか?」
「あら、ごめんなさい。まだまだ幼い子だから、ついつい名呼びしてしまうの。今は本人が居ないから許して下さる?」
「次からは気を付けて下さい。そして、私はハイエット公爵と話す事は何もありませんから、このまま本宮の方にお戻り下さい」
交流会の途中て、挨拶もせずに帰る事は無礼な行いだ。許可無く離宮に踏み入った事も見逃す事はできない。
「私の裏切りを怒っているのなら謝るわ。公爵家の息子に声を掛けられたら、断る事ができなかった……分かってくれるかしら?」
謝ると言いながら、それは謝罪ではなく、ただの言い訳でしかない。
「話はそれだけですか?私からは、何も話す事はありませんから、このまま戻って下さい」
「カイルス!待って!私は、ずっとカイルスの事を──」
パシッ───
俺の手を掴もうとするジャスミーヌの手を払い除ける。
「例え公爵であっても、名前で呼ぶのは止めて欲しい。私には、もう婚約者が居るので、私に触れるのも止めて欲しい。こうして2人きりになる事も、金輪際止めて欲しい。ご理解いただけましたか?」
「婚約者……まさか………」
「そうです。公表はまだですが、マシロと婚約しました。竜王陛下と大神官の承認を得て」
「大神官!?」
普通の婚約、婚姻は竜王の許可があれば成立するが、俺とマシロの婚約には大神官の許可も出た。それは、聖女ユマ様がマシロの母親だからだ。この2人から許可を得た婚約だから、例え公爵が意義を申し立てようとも覆る事は無い。
「でも、カイルスは私の事が好きだったから、大切にしてくれてたんでしょう?婚約は…仕方無いとしても、貴族同士でお互いが良ければ、関係を持つ事は許されるでしょう?」
それはいつの時代の貴族だ?子供が出来難い竜人の貴族は、確かに妾を持つ事が当たり前の時代もあったが、今はそうではない。それが当たり前だったとしても、ジャスミーヌはお断りだし、マシロだけで良い。俺が一緒に居たいと思うのはマシロだけだ。




