30 浄化の攻撃
「何て事だ!魔獣を倒す為に、周りの者達まで攻撃するとは、それでも守護竜か!?」
「何を言ってるの?見てから言ってくれる?」
「何を見ろと───なっ!?」
私が攻撃するのを、ニヤニヤしながら見ていたくせに。人が大勢居る所に魔獣が現れると、簡単に攻撃する事はできない。魔獣だけではなく、周りに居る人達を巻き込んでしまうからだ。でも、それは一般的な人の話だ。
「私は守護竜なの。側衛に選ばれて受け入れられた守護竜なの。西の守護竜は“浄化の守護竜”だと言う事は知っているよね?」
「も……勿論だ………」
「魔獣や魔物は、浄化の攻撃で消滅させる事ができるの。でも、攻撃と言っても浄化は浄化だから、普通の人達にとっては攻撃にはならないの。言っている意味、分かる?」
「な…………」
そう。浄化の攻撃は、魔物や魔獣のように穢れた魔力を浄化するだけで、そうでは無い人に当たっても『あれ?何だか風が強いわね』程度にしか感じないらしい。これが、西の守護竜だけが扱う事ができる攻撃の一つなんだそうだ。何となく、お母さんにも扱えそうな気がするけど。
だから、オルトロスはその場に倒れているけど、周りに居る人達は怪我をする事なくその場に立っている。
「私の事を良く思ってない人が居ると把握していたから、態と隙を作っていたの」
「は?態と……」
「おまけに、また魔族が絡んでいると情報を得ていたから、きっと、どこかで魔獣が現れるんだろうなぁ…と思っていたの」
「…………」
その情報は、2日前にプラータが報せてくれたのだ。
『どうやら、人身売買に関わっていたキーラン=ベルナンドとも繋がっていたようで、コルダー公爵が魔獣を1頭飼っているらしい。で、調べてみたら、そのコルダー公爵が、その魔獣を使って何かを企んでいるようだった。おそらく───』
この交流会に魔獣を出現させ、私を陥れようとするんだろうと。コルダー公爵は、私がまだ浄化どころか竜力を上手く扱えないと思っていたんだろう。
私への竜力の扱い方や浄化の訓練が、どんなに大変だったのか………知らないからね。本当に容赦の無い訓練だった。おまけに、お母さんからのスパルタもあった。スポ根だった。お陰で、私はもう、いつでも浄化に行ける状態になっている。ただ、私がまだ子竜だから、飛行距離を考慮する必要があると言う事で、まだ行っていないだけなのだ。
「わ……私は何も知らな──」
「何も知らない─とは言わせないからね」
「プラータ」
今日は動きがある──と言う事で、プラータもこの交流会に潜り込んでいたのだ。
「コルダー公爵邸で、契約書を見付けたよ」
「なっ!」
プラータが手に持っているのは、魔獣オルトロスを買った時に交わした契約書だった。そこには、“コルダー公爵”と“キーラン=ベルナンド”2人のサインがあった。勿論、魔獣の売買も禁止されているから、違法売買で犯罪の証拠となる。
「その魔獣を使って貴族を襲わせて、守護竜に手を出そうとした。奪爵だけでは済まないだろうね」
「ひっ────」
基本、プラータは可愛い容姿をしていて、庇護欲をそそられる事もあるけど、何故か、笑顔の時のプラータは背中がゾクゾクする。
「魔族と魔獣が関わっているから、このままこのブタ──公爵を竜王陛下の所に連れて行って良い?」
「うん……大丈夫。宜しくお願いします」
ー今、“豚”って言い切ってから言い直したよね?ー
「戒めの拘束」
「何だ!?これは───」
ー“戒めの拘束”何度見ても凄いよねー
薔薇の蔦の様なモノが、コルダー公爵の体に絡みついていく。あんなにも小柄で無害な魔法使いから生み出された、攻げ──拘束魔法だなんて思えない。
「それじゃあ、マシロ、また改めてゆっくりお茶でもしよう」
「うん。分かったわ。楽しみに待ってるね」
その時に見たプラータの笑顔は、普通に可愛らしい笑顔だった。
*プラータ視点*
「これで、ダミアンと繋がっていた者達全員を捕らえる事ができました」
「マシロの交流会でやらかすとはな……コルダー、守護竜に手を出したのだから、マトモな最期を迎えられると思うな」
「………」
このブタは、もう既に声を出せる力すら残っていない。戒めの拘束に絡め取られて、王城に来る迄の間暴れまくっていたから、かなりの竜力を失った。『暴れる程竜力が失われる』と、忠告する事をスッカリ忘れていたのだ。
「私のお気に入りに手を出したのだから、その分の代償はキッチリ払ってもらいますよ。このブタ─コルダーも、私が預かっても?」
「今回は竜人だから、どんな状態になっても返してもらえれば大丈夫だ」
「それにしても、守護竜としてのマシロの成長は凄いですね。まさか、既に浄化の攻撃ができるとは…本当に驚きました」
「“あの親にしてこの子あり”だろう?この先も楽しみだ」
これでまだ子竜だと言うのだから、竜王の言う通り、これからマシロがどう成長するのか楽しみだ。
「これ以上、マシロに手を出す者が出ない事を祈りますよ」
ー出たところで、その者は終わりだろうけどー




