24 攻めるカイルス
「この離宮に居る者達は、空気を読むのも忖度するのも上手いんだ」
「ハイスペ………」
皆が優秀なのは知ってたけど、私の気持ちもバレバレだった──と言う事か。
「まさか……カイルスさんが、私の近衛になったのは………」
「俺がマシロが好きで、マシロも俺の事を良く思ってくれていたからだろうな。勿論、マシロを護る実力がある上での話だけどね」
それこそ、カイルスさんの実力は知っているし疑った事など一度もない。カイルスさんが側に居るだけでも安心する。ただただ、他の守護竜や側衛達にも私の気持ちがバレバレだったと言う事が恥ずかしい。
『なるべき人がなる』
ローゼさんが言っていたのは、そう言う事だったのか。
「本当は、恋愛に不慣れなマシロに合わせてゆっくり…と思っていた時もあったけど、マシロがあまりにも俺の言葉を変な方向に理解するから、どうしてやろうか?と、少し恨めしくもなっていた」
「恨めし………」
「素直に受け留めてもらえない上に、ハイエット公爵が近付いて来て、更に彼女が白竜となれば、またマシロが変な方向に走るんじゃないかと思ったから、こうなったら、もう逃げられないようにするしかないと思ったんだ」
「逃げ……え?」
気が付けば、カイルスさんが至近距離に居て、私の腰に手を回して引き寄せた。
「マシロが少しでも俺を拒否したら少しは考えたけど、俺はもうマシロを逃すつもりはないし、他の男に取られるのも嫌だから、もう素直に俺に落ちてくれないか?」
逃がすつもりはないと言いながら、私に逃げる路を残しているカイルスさん。私もカイルスさんが好きだから、逃げるつもりはないけど、そんな優しさが嬉しい。自分本位ではなく、私を思い遣ってくれているのがよく分かる。
「残念ながら、私は既にカイルスさんに落ちてしまっているから、『逃げろ』とか『要らない』とか言われても、カイルスさんから離れる事は……ないです。ただ、私は守護竜だから、カイルスさんよりも他を選ばなければいけない時があると思うんです。そんな私でも、良いですか?」
「そんな真っ直ぐなマシロだから、俺はマシロが好きになったんだと思う」
「ありがとうございます」
今度は、私からもカイルスさんに抱きついた。
ーやっぱり、カイルスさんの腕の中は落ち着くなぁー
まさか、恋愛感情を持ってもらえているとは思わなかった。好きだと言われて嬉しくてドキドキするけど、安心感の方が強いかもしれない。
「マシロは小悪魔なのか?」
「こあくま??」
何が“こあくま”なのか?──と、意味が分からず、顔を上げてカイルスさんと視線を合わせて小首を傾げる。
「く─────っ」
「え?カイルスさん、どうかしま──」
「これは、マシロが悪い」
「はい?」
カイルスさんが、眉間に皺を寄せて呻いた後、いつもとは違う不敵な笑顔を浮かべたと思ったら、そのまま顔が近付いて来て────
「…………」
「好きな子から好きだと言われて、更に抱きつかれたら、こんな事をされても文句は言えない─と言うことだ」
「……え?んっ────」
それから私は、カイルスさんからのキスを必死で受け留め(させられ)た。
*キース視点*
「マシロ様以外の2人の白竜について、調べはもう終っています」
1人は老竜の女性で、南領で伴侶と共に余生を過ごしている。元子爵の夫とは恋愛結婚で、3人の子供に恵まれた。その子供達は白竜ではなく、父親と同じ緑竜だ。白竜だからと傲慢になる事も無く、とても穏やかな性格をしている。彼女の周りにも、怪しい者や怪しい動きをする者は全く無かった。問題は、もう1人の白竜だった。
“ジャスミーヌ=ハイエット公爵”
彼女は学校卒業後、直ぐにハイエット公爵家の嫡男と結婚。結婚してすぐに、計算の合わない出産をした。身分に拘る当時のハイエット公爵が、息子と格下の令嬢のデキ婚を許容した理由は、相手が白竜だったから。
『側衛がまだ目覚めていないだけ』
『ジャスミーヌが守護竜である可能性が高い』
と、当時の公爵はよく口にしていたそうだ。
その跡を引き継いだ、ジャスミーヌの夫であるヴィクターもまた、『我が妻こそが守護竜に相応しい』と、事ある毎に口にしていたそうだ。
そんなヴィクターが病死すると、周りは嫡子ではなく、夫人であるジャスミーヌを当主に押し上げた。
それから、100年ぶりに選ばれたのは、勿論ジャスミーヌではなく、今迄居なかった、まだまだ子竜の白竜だった。人間の年齢で言えば、二十歳を超えて成人しているのにも関わらす、飛行するのがやっとな感じの白竜。それもそのはず、西の守護竜は、あの救国の聖女の娘で、つい最近まで人間として育った異世界人だったのだ。その上、父親が誰なのかは公表されていない。
それを、快く思って居ない貴族が、ハイエット公爵の周りには居るのだ。




