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18 花より団子?

畑中(はたなか)芽依(めい)です」


彼女は20歳で、あの日は大学からの帰宅途中だったそうだ。お母さんの出勤時間と、芽依さんの登校時間が週何回か同じだったそうで、言葉を交わした事はなかったけど、お互い認識はしていたそうだ。


「芽依さんは、どの国に来て、どれ位経つの?」

「国名は分からないけど、1ヶ月位です」

「「1ヶ月!?」」


お母さんがこっちに来たのは5年前。私ですら2年だ。


「あの魔法陣は完璧ではないから、ユマとメイで時間の差ができたのかもしれないな。試してみる事はできないから、推測でしかないが……」

「あの……私は……元の世界には………」

「正直に言うと、戻れるとは言えない」

「…………」


例え、お母さんがチートであっても、レナルドさんが優秀な魔道士であっても、芽依さんは正式に召喚されて来た訳ではないから、戻れる可能性は低いとの事だった。お母さんが一度戻れたのは、正式に女神の神託によって召喚された聖女だったかららしい。


「これからは、芽依さんが良ければ、ここで暮らしてもらおうと思ってる。これからの事は、ここでゆっくり考えてくれたら良いから」

「ありがとうございます」


それからも少し話を聴いてから、今日は部屋でゆっくり休んでもらう事にした。





******


畑中芽依さん。

あの日、お母さんと同じバスに乗っていて、フィンの転移の魔法に巻き込まれた普通の日本人。お母さんの2列後ろのシートに座っていた。その2列の差で、お母さんとは渡って来た場所と時間に差ができたのかもしれない──と、あくまでも予想する事だけしかできない。奴隷商人に捕まって大変だっただろうけど、命があって良かった。

髪色と瞳の色が茶色の使用人を紹介してみると、芽依さんは怖がらなかったから、そのまま彼女に付き添ってもらう事にした。特に、性別は関係無いようだ。


ーカイルスさんに抱きついている姿を見ずに済むー


「心が狭過ぎる……よね……」

「マシロの心は広過ぎると思うけど?」

「ふぉー!?カイルスさん!?」


部屋に1人だと思っていたし、気持ちが口から出ていたとは思っていなかったところでの、まさかのカイルスさん。本当に、竜騎士は気配を消すのが上手過ぎじゃないかな?


「えっと……どうしたんですか?」


今日は特にする事は無く、イネスにも私が呼ぶまでは休んでて良いと言ってある。


「主から自由時間をもらったから、マシロに会いに来た。一緒に紅茶でも飲まないか?」

「折角の自由時間なのに、私と居たら護衛と変わりなくないですか?」 


ーカイルスさんは、仕事人間なんだろうか?ー


「護衛として居るなら、こんな事はできないだろう?」

「へ?」


カイルスさんは、私の髪を少し掬って口付けた。


「なっ!?」

「マシロは甘い物が好きだろう?」

「へ?はい」

「これ、西領で人気の焼き菓子なんだ」

「ありがとうございます!」


何だかよく分からないまま流されているけど、焼き菓子に罪は無い。丁度、甘い物が欲しいな─と思っていた。西領のお菓子はどれも美味しい。我が副料理長が作ってくれるデザートも外れた事が無い。


「はい」

「ん?」


カイルスさんが自ら紅茶を用意してくれて、そのまま私の横に座ったと思えば、お皿に乗せた焼き菓子を一つ摘んで、私の口元に差し出した。


「ありが───」

「はい」

「…………ん?」


お礼を言って受け取る為に手を出そうとすると、その手を握られて机の上に下ろされ、焼き菓子はそのままの位置でキープされている。


「はい」


と言って、カイルスさんが更に笑みを深めた。


ーま……まさかの「あーん」じゃないよね!?ー


カイルスさんは、そんな甘い人じゃない筈。優しいのは優しいけど、基本はクールな人だ。だからか、街に出てもイケメンだから女性の視線を集める事はあっても、声を掛けて来る女性は居ない。“話し掛けるな”オーラが凄かったりもする。そんな人が私なんかに「あーん」をするとは思えない。一種の悪戯か?


「えっと……ありがたくいただき──っ!?」

「美味しい?」


口を開いたとのろに、カイルスさんが焼き菓子を私の口に付けたせいで、それを「食べる(あーん)」する流れになった。


「んー!美味しい!」

「良かった……ふっ…………」


「恥ずかしい」より「美味しい」が勝る私は、まだまだ子供なのかもしれない。そんな私を、カイルスさんは変わらず優しい目で見てくれる。面白そうに笑っているけど。


「笑いたければ笑って下さい。どうせ、私は花より団子ですから」

「そんな素直なマシロが可愛いだけだな」

「か────っ!?」


すっかり忘れていた。色んな事があって忘れていた。西の離宮に来てから、カイルスさんが私に甘くなっていた事を。一体どうしてなのか?その理由を知りたいような知りたくないような──。もし、それが母性本能みたいなものなら……もうショックで、暫く私は立ち直れない気がする。


「時間ができれば、この店に行ってみないか?店内飲食限定のケーキがあるらしい」

「行きます!行きたいです!」

「約束だな」

「ゔっ─────」


ふわっと微笑むカイルスさんに、心臓を鷲掴みにされたのは、言うまでもない。








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