13 収穫祭最終日
収穫祭3日目の朝も、奉納の儀から始まった。
お母さんにも既に報告があったようで『何事もなくて済んで良かったわ』と抱きしめられた。それでも、お互いしなければならない事があるから、『明日の夜には帰れるから』と言われて、挨拶を交わしてから私はまた神殿を後にした。
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「凄い量だね」
「記録を見る限り、平年より多いですね」
今日は、豊穣祭1日目と2日目に各所で奉納された奉納品を集めて、全て記録をつけていくと言う作業をひたすらする事になっている。集めるのは一瞬だった。西領に決められた奉納場所があり、そこに魔法陣が描かれていて、豊穣祭2日目の夜にその魔法陣を展開させると、西の離宮の指定された倉庫に転移されて来る仕組みになっていたのだ。
ー黒いネコもビックリだよねー
ただ、それからの記録については、原始的に一つ一つ確認して数や重さを確認して手書きで記録していく。これを、今から私とキースとリシャールとジュストとイネスの5人でするのだ。
「頑張ろう!」
「「「「はい!」」」」
と、私達5人はそれぞれ記録をし始めた。
「保護した女性ですが、まだ眠ってますが、熱は下がったみたいで、呼吸も落ち着いてます」
「なら良かった」
お昼になり、昼食を食べに食堂に行くと、マイラさんから報告を受けた。
レナルドさんも、お母さんと一緒に明日の夜に来てくれる事になっている。夜遅くなっても良いように、レナルドさんがお泊りする部屋の準備もしている。
ーお母さんには言ってないけどー
「明日には首輪も外せるだろうけど、後はメンタル部分だよね」
私の経験からすると、男性に対して恐怖心があって、暗闇が怖かったりした。どれぐらいの期間拘束されていたのかにもよるだろうけど、気を付けてあげないとね。
「マイラさん、引き続き、彼女の看病をお願いしますね」
「分かりました」
私がお願いすると、マイラさんは昼食を食べた後、また保護した女性が寝ている部屋に戻って行った。
それから、記録か終わったのは、日付を跨いだ時間だった。
「ようやく終わった………」
「マシロ様、お疲れ様でした。これからどうしますか?」
「お風呂に入ってから寝たい」
「では、入浴の準備をして来ますね」
「お願いします」
イネスが準備に向かうと、残った4人で倉庫の片付けをしてから離宮へと戻る途中で、保護した女性が寝ている部屋に様子を見に行く事にした。
「マイラさん、お疲れ様」
「マシロ様!?」
慌てて立ち上がろうとするマイラさんを、手を上げ静止させる。
「座ったままで良いよ。彼女の様子を見に来ただけだから」
寝ている女性の顔を覗いてみると、確かに以前とは違って顔色が良くなっていて、呼吸も穏やかになっている。ただ、首輪が嵌められている所が赤くなっていて、引っ掻いた痕もあるから、自分で取ろうとしたのかもしれない。
「痛かっただろうね」
「塗り薬も処方してもらったので、見えてる箇所だけでも塗りました」
この世界の薬のレベルは様々だ。薬師の魔力のレベルが反映されるから、魔力のレベルが高い薬師は貴族の専属薬師になっている場合が多い。そんな薬師が作る薬は高値がつき、庶民では手に入れる事が難しい。勿論、この離宮付きの薬師のレベルは高いから、薬もかなり良い物だ。だから、彼女も直ぐに良くなるだろう。
こんな腕の良い薬師を、離宮だけで囲うのはどうなのか?と思っている。この辺りの改革も必要だろう。
「明日にはレナルドさんが来てくれるから、直ぐに外れると思う。でも、黒色と言うだけで連れ去られて……本当に大変だね」
「竜王国では憧れの色ですが、人間達にとっては珍しい色ですからね。マシロ様も他人の事は言えませんけどね。しかも竜化すると真っ白ですから、レア中のレアですよ?聖女ユマ様の娘で守護竜ですから、手を出す人は居ないと思いますけど」
ー居ないと思うー
子竜な私相手なら何とかできそう!と思われそうだけど、なんと言っても母親が“聖女由茉”だから、私に手を出す人は居ないと……も、言い切れない…か?そう考えると、ベレニスさんは凄かった。“恋は盲目”を体で表していた。
「うん。私も命を狙われるのはもう懲り懲り。もう二度と……三度目が無い事を祈ってる」
「狙われたとしても、私達が護りますし、相手を叩き潰すので安心して下さい」
ーうん。文字通り、本当に叩き潰しそうだよねー
「ありがとう。まぁ……そうならない事が一番だね」
それからもう少しだけマイラさんと話をした後、入浴の準備ができたと知らせに来たイネスと一緒に、その部屋を後にした。
入浴した後、書類の確認をする為に机に向かって───そのまま寝落ちしてしまった。
『フラグと言う言葉知ってる?』
と、その時の自分に訊いてやりたい!




