10 保護①
『彼女もまた、黒色の髪だった』
私とキースとカイルスさんと合流したのは、アルマンさんが竜化して飛び立った後だった。
3人で離宮に帰る迄に簡単に説明してもらった内容は─
多くの人で賑わう中、フードを深く被って辺りを気にしながら早歩きをしている人を見掛け、不審に思って後をつける事にした。そうするうちに、人混みから外れて裏路地に入り込んでしまい、そこで数人の酔っ払いに絡まれてしまい、見かねて助けた──迄は良かったけど、『大丈夫か?』と声を掛けると意識を失ってしまったようで、その場に倒れてしまったそうだ。どうする?とフードを捲ってみると、黒色の髪と、あの首輪が現れたから、オークションに掛けられる娘なのでは?と、保護した所にタイミング良くキースが通り掛かったと言う事だった。
『他に首輪を着けられてる人は居なかった?』
『マシロからの指示を待つ間、俺が辺りを探してみたけど、それらしい者は居なかった。彼女は、捕らわれていた所から単独で逃げて来たのかもしれない』
彼女はどんな思いで逃げ出したんだろう。逃げるのも、捕らわれ続けるのも恐ろしい。逃げた先に光があるとは限らないから。私の場合は、本当に運が良かったのだ。
『兎に角、まだ被害者が西領に居る可能性が高いから、人を増やして見回るように手配をしないと』
1人逃げ出したとなれば、今頃探しまくっている筈で、見付からなければ『バレる』と思って姿を晦ます可能性がある。そうなれば、直ぐに助け出す事ができなくなる。奴隷制度が許された国にでも行かれたら、助けたくても助けられないのだ。そうなる前に、何とか助け出して奴隷商人も捕まえたい。
『離宮には3人の守護竜様達と側衛が勢揃いしてますからね。きっと、もう動いていると思うので、運が良ければ今日中には片が付くかもしれません』
守護竜には側衛とは別に近衛が居るし、バージルさんは竜王でもあるから影が必ず控えている。ある意味、精鋭部隊の出来上がりだ。
『無事に全員保護できると良いね』
******
離宮に着くと、キースの予想通り3人の守護竜達の近衛や側衛が街に向かった後で、私は3人の守護竜が居る応接室へと向かった。
「ここの騎士も数名借りたぞ」
と、指示を出して直ぐに動いてくれたのはバージルさんだった。
「それは問題ありません」
寧ろ、西領の土地に慣れている人が動いた方が良い。
「折角の祭りだから、できるだけ静かに動くように言ってあるから、祭りはこのまま予定通り続ければ良いわ」
「はい……それで、保護した女性は?」
「まだ目を覚ましていないから、部屋で寝かせているわ。マシロも、少し休むと良いわ」
「ありがとうございます。彼女の様子を見てから、少しだけ休ませてもらいます」
応接室を出て女性が居る客室に行くと、イネスが寝ている彼女の顔をタオルで拭いているところだった。
「熱があるの?」
「マシロ様、おかえりなさいませ。そうなんです。なので、ナデージュさんを呼んであります」
ナデージュさんは、この離宮の専属医師の1人だ。他にも、男性医師1人と、薬師が2人居る。
ベッドで苦しそうな呼吸をしながら寝ているのは、聞いていた通りの黒色の髪の女性で、年齢は私と同じぐらいに見える。寝ているから、瞳の色は分からないけど、髪色が黒色なのは珍しいから、彼女もまた高額で取り引きされる予定だったんだろう。目が覚めたら色々訊きたい事はあるけど、先ずは体調が優先で、同時に首輪を解除する為に魔道士を呼んで──
「ん?」
ーこの人……どこかで会った事がある?ー
あの時のオークションには……黒色は私しか居なかった。他の場所で見掛けた?黒色の髪なら、この世界では珍しいから、会えば記憶に残っている筈。日本人としては普通だから、既視感があるだけかな?
「イネス、この人の看病を頼むわね」
「はい、分かりました。診察が終わったら、報告します」
「うん。よろしくね」
そのまま執務室に行くと、キースがお茶を用意してくれていた。
「確か、あの首輪は魔法が掛けられていて簡単には外せないから、魔法を解除できる人を呼ばないといけないんだよね?掛けた本人を捕まえられれば直ぐなんだろうけど……」
「そうです。直ぐに見付かる可能性もありますが、念の為にレナルド様にお願いしておきましょうか」
「あ!レナルドさん!」
レナルドさんなら、簡単に解除できそうだ。なんなら、お母さんも解除できそうだけど。
「それじゃあ、レナルドさんの都合の良い時に来てくれるようにお願いしてくれる?」
「承知しました」
キースが部屋から出て行くと、部屋には私1人だけになり、軽く息を吐く。
彼女は、一体どれぐらいの期間捕らえられていたのか。どんな待遇をされていたのか。体調が良くなっても、メンタルもやられている可能性もある。
ーちゃんと、親元に帰してあげないとねー
と、お茶を飲みながら、これからの事を考えた。




