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生克五霊獣 73話

「いや、ようやく分かったか。甘えん坊主が」


「は?」


「蜃様は、とうの昔からお前の父親代わりでは無いか」


「どういう意味だ?」


「晴明様が亡くなった時、蜃様は自分が代わりにならなくてはと思っただろう。それで修行に出た。帰って旬介を見た時、何か寂しそうだった。蜃様には子どころか奥方すらいない。余計に私達を子供として見てるのだ、今でも」


綺麗になったとか、大きくなったとか、黄龍を苦しめてきた蜃の言葉だ。お嫁さんにして欲しい、そう願い出た時もそうだった。蜃は黄龍を妹のように、我が子のようにしか見ていないと、散々思い知らされてきたから。


「お前も何処かで分かっていたんだろ? 甘えていたんではないか? 怒られないとなあ」


今度は麒麟が、ぷいっと顔を逸らした。


「あ、今度は麒麟が拗ねた」


「やかましいわ。全く、酒の準備でもしてきてくれ! 今日は疲れた。飲んで寝る」


「はいはい」


と黄龍は、笑いながら部屋をあとにした。



それから3日後に、今度は葛葉と蜃も参列する形で、麒麟邸への集合がかかった。今回の話の中心は恵慈家の2人である。


無論、子供達もその席へ招かれた。


会議が始まる前、大人達がばたばたとしてる中、邪魔にならないように子供達は庭へ集まっていた。


「会議って嫌いなんだよなー。厠行きたくなっても途中で行けないし、眠たくなるし、身体中痛くなるし」


藤治が欠伸しながらぼやいた。それに続いて、紗々丸が欠伸した。


「遊びに行きたい」


「そんなこと言ってたら、母上達に怒られるよ」


旬介が拗ねたように呟いた。


「どうしたの? てか、窶れてない?」


なんとなく旬介の雰囲気が違うことに、藤治と紗々丸は今更気づいた。


「修行頑張ったから」


黄龍から一方的にやられた様な手合わせの修行だったが、旬介はドヤ顔で答えた。


「じゃあ、俺と手合わせしよう」


言ったのは、少し離れたところから様子を見ていた甲蔵だった。


「何処ぞの馬の骨ともわからんガキに、フルボッコにされたと聞いたぞ。情けない。それからどれだけ強くなったか、俺がみてやるよ!」


言うなり、甲蔵は旬介に向かって軽く蹴りを入れた。それは予想通り、軽々とかわされた。


「いきなり何すんだよ! 危ねーな」


「兄ぃ頑張れ!」


幼い声がした。


「甲兄、やめなよ」


可愛らしい声がした。甲蔵は、その声に反応して、旬介への攻撃を止めた。


白百合(しらゆり)、邪魔するな」


「もう、邪魔じゃないよ! 忠告。そろそろ始まりそうだし。(ひょう)ちゃんも応援しないの」


氷ちゃんと呼ばれた、甲蔵の妹にあたる玄武の実子は、ぺえっと舌を出して見せた。


白百合は、白虎と薫風の娘である。


「ふん! また後だな」


旬介は、舌をべえっと出した。


「お前なんかと、やんねーよ!」


「下等だな」


「化け猫みたいな顔した奴が言うな!」


「山猿に言われたくないわ。お前みたいに、ぴーぴー泣くような子供が将来里を受け持つとは、麒麟も終わりだな」


ポカリ! と、甲蔵の脳天に拳が落ちた。振り返ると、そこには玄武が立っていた。


「お前の悪いところは、常に人を見下すところだ」


その後ろをたまたま通った青龍が耳にし、お前が言うなよと言いそうになった。


「確かにお前は優秀だ。だが、そこがあるがために、将来が命取りだ。もっと人として人望を集める努力をせよ。出来ないうちは、里を任せることは出来ん」


青龍は引き続き、お前も大概だと言いそうになって止めた。


玄武から咎められてしゅんとしている甲蔵見ながらゲラゲラ笑っていた旬介だったが、そこに麒麟が来て一言告げた。


「寝小便も治らんのに余裕だな」


くすくす笑う。


旬介の顔が真っ赤になって吠えた。


「あー! なんでそんなこと言うんだよ」


麒麟にとっては冗談だったが、旬介が本気で反応してしまったことで、認めた形になってしまった。


「マジでかっ!」


藤治が笑いながら、旬介の脇腹を肘で小突いた。


「もう1年くらいはしてないし! 治ったし!」


ぷっと麒麟が笑った。


「旬介、お前の弱点はそこだな」


「おねしょしないし!」


「違う! 寝小便の話はもういい。素直すぎるとこ!! 冗談だったのだ、少しは冷静に受け流す事を覚えろよ」


旬介が、顔を真っ赤にしながら涙目でそっぽ向いた。


「さあ、皆集まれ。会議するぞ」



広間には、既に葛葉と蜃が並んで座っていた。その前に麒麟達が並び、その後ろに子供達が並んで座った。


「さて、全員揃ったようだな。ではまず、麒麟から報告してもらおうか」


発言した蜃に、麒麟は一礼した。


「国衆との交渉は、今のところ上手くいったと思う。実際あ奴等はまだ動いてはおらんが、もし事が動くようであればこの里の壁になるだろう。強要させるために黄龍の影を置いてきたし、現に影からのマメな報告からしても今のところは安心だ」


「そうか。青龍はどうだ?」


「麒麟と同じく。こちらは、竜子の影が見張ってる」


「では、朱雀は?」


「こちらも同じく。華炎の影が見張っています」


うんっと蜃は頷いた。


「では、この件は一旦様子見という事で……そうだな、麒麟に預けとこうか?」


ちらりと目配せする蜃の視線を受けて、麒麟は冷静に一礼返した。


「さて、本題はここからだ。今回の元凶、つまり先代をどうするかだが。母上と話し合った結果、やはり2人を討伐する方向でいきたい。問題の方法だが」


言葉を濁した蜃に、葛葉は続けた。


「生克五霊獣の方は、あまりに強い力ゆえ選ばれたものでなお、一生に1度しか使えぬ。恐らく、使えたとしてあと1度だけ。だからこそ、今回は封印等という生温いことは言えんのだ。そこでだ、先ず術を発動するのに、術者は麒麟がやれ」


「は?」


と、思わず麒麟の口から疑問符が上がる。


「私と晴明の血を与えたお前なら、ギリギリ使えるかもしれんのだ。そこは察してくれ」


確かにそうだ。蜃が戻ってくると思っていなかったはるか昔、幼少の麒麟をもしもの時のための跡取りにするために、葛葉と晴明は血を与えた。その上葛葉の乳で育った麒麟であれば、術を使える可能性は強いように思えた。


「もし、俺が使えなかったらどうするんです?」


「私が刺し違える」


麒麟の心臓が、ゾクッとした。


「まあ、どのみちそのつもりでおるのだ。何度かあの術を目の当たりにして、分かったことがある。術は生贄を欲するから、その生贄として元凶2人を差し出すつもりだ。代わりに私が封印される。事が上手く運んだあと、蜃に封印を解いてもらってもよいし……」


葛葉が言葉を飲み込んだ。そして、間を開けて言う。


「そのままでもいい」


「どういう意味ですか?」


と、黄龍が堪らず問うた。


「私は疲れた。事の発端は私と私の父上が原因だから」


「それが、葛葉様を、母上を封印したままにしておく理由にはなりません」


黄龍がきっぱり言い切った。


「これはあくまで私の意思だ。任せるよ」


「必ず無事に助け出します。蜃様が……兄上が放棄したとしても、この私が」


「だが、問題は生贄の対象が上手く母上に向いてくれるか。かつて松兵衛が生贄を買って出たが、生贄に選ばれたのはお蝶さんであった。その後、生贄として選ばれたのはお前達で、それを父上が自害する事で食い止めた。今回、もし母上を確実に生贄とするならば、母上には自害してもらわねばならぬかもしれぬ。けれど、出来るだけそれは避けたい」


「避けねばなりません!」


珍しく感情的になる黄龍に、麒麟は驚いていた。


「そう避けねばならぬが、確実な方法が見つからないのだ」


蜃が悔しそうな表情で、そう呟いた。


「黄龍、落ち着け。私達は、最悪を想定して物を言っとるのだ。そこまで、悪いようにはなるまいて」


葛葉の黄龍に対する、気休めだった。



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