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生克五霊獣 69話

「感謝?」


「ええ。貴方達が、あの場所にあの様な形で私達を放置したお礼ですよ。そうでなければ、こうして子が育ち、私達が自由になることすら叶わなかったのですから」


麒麟は、はっとした。


「もしかして悔いていますか? 人が近付かず、恐れられた場所にしてしまった事を。近付けば鬼に食われる等と言う噂を聞きましたよ。だからこそ、子はここに来た」


子が哀れに思えた。その反面、親の痛みさえ感じた気がした。少しでも早く、子を神の元に返そうとでも思ったのだろうか。それとも、鬼のせいにして自分達の罪の意識を少しで軽くしようとしたのだろうか。今となっては、わかるはずもない。


「さあ、いらっしゃい。ご挨拶を」


泰親の影から子が現れた。旬介がそれを見て、ハッとしてからキッと睨みつけた。


「この子はねえ、鼬を操ることが出来るんですよ。ふふ……覚えはありませんか?」


「それは……」


玄武の唇が震えた。


「おや、覚えがおありで? どのような?」


泰親は意地悪くも、それを玄武から言わせようとする。


玄武の胸に胃に、焼けるような不快感とと共に激しい怒りが込み上げてきた。


「……妹が、かつて妹が鼬に呪い殺された。貴様のせいか?」


玄武が白虎を見た。


泰親は、にやりと笑った。


「お前だけは許さぬ」


必死に怒りを抑えた玄武の口から、呻き声のように漏れた。


「では、どうしようと? 貴方の術は、もうとうに見せてもらいましたよ」


玄武の周りが凍り始めた時だった。


「まあ、今日はこんな話を気にした訳ではないのです。その事については何れ改めてお相手致しましょう。最も、何も変わりありませんでしょうが……」


「なんの用だ!」


麒麟が叫んだ。


「ふふ。相変わらず、お行儀が悪いこと。流石、葛葉さんの教育ですねえ」


子は丁寧にぺこりとお辞儀をしてみせた。


「ほら、この子のようにお行儀よくあらねば」


「話が見えんな」


麒麟が泰親に手をかざした時だった。


再び目の前をひゅんと何かが通ったため、それをひらりと避けた。


次にふと視線を先に合わせると、そこにはよく知った背中があった。


「……父上?」


声が震えて上手く言葉が作れただろうか? そう思った時、カチャリと刀を鳴らしながら返すと、その背中は振り向いた。


全身に、皮膚病患者よろしく布が巻かれている。隙間から覗く目が紅く光っているような気さえして見えた。だが、それは見慣れた姿だと確信した。


「父上!」


そんなはずはないと分かってはいながら、麒麟の声がうわずりながら、目頭が熱くなるのを感じた。


晴明と思われるそれは、返事もせずにその刀を麒麟に向かって振り下ろした。


麒麟は再びそれを交わし、横から黄龍の渡した刀を受け取ると、それを抜いた。


晴明の次の一手で、麒麟と晴明の刀がぶつかり、火花が散った。


重い、間違いなく父上だ……と麒麟は確信した。


「ね、充分すぎるお礼でしょう」


横から、不快な泰親の笑いが聞こえた。


「私はね、かつてあの世の案内人と契約したことがあるんですよ。だから、その交渉をよく知ってる。だから、晴明さんの魂をあの世に連れていかぬよう交渉したのです」


麒麟の顔が曇った。


「では、なにか? 父上は成仏してないと?」


泰親が応えた。


「成仏? なぜそれが必要だと思うのです?? 私達は晴明さんと、これから先もここで暮らしていくのです」


麒麟が力ずくで押し切り、一旦晴明を後方へ飛ばした。


「泰親!! あの世の番人との契約とはなんだ!? 父上に何をした!」


泰親は扇子で自らの口元を隠すと、笑いながら晴明を呼び戻した。


操り人形のように晴明は従う。


「何をしたって? 私は再び魂を呼び戻したまでのこと。もっとも、時が流れ大半はこの世の理として土に返ってしまいましたが……晴明さんである事は、変わりがありませんから。生贄と言えばわかりやすいでしょうか、番人は生きた人を求めています」


泰親がニヤリと笑うと、晴明は麒麟へと再び太刀を振った。


間合いは充分であったが、その空間にエレキテルを纏った風が巻き起こった。それは土を抉り進む。麒麟は咄嗟に術で防御した。


次に向けて構えたが、晴明は静かに泰親の方へと向き直った。


「今日はご挨拶までです。では、また何れお会いしましょう。近いうちに。その時は、是非葛葉さんと蜃坊っちゃまも」


泰親、晴明、子は、その場から煙のように消えた。


ハッとした麒麟は、周りを見渡した。特に皆に影響はないようだが、玄武だけは地面に突っ伏していた。それを白虎が慰めるように寄り添って見ていた。


「畜生」


と玄武の声が聞こえて、皆を再び一室に集めた。事態を把握するため、物事を整理する時間が必要だ。


黄龍が告げた。


「子供達、部屋に戻って休め」


その場の雰囲気に、誰も意見するものはおらず、子供達はそれぞれ部屋へと戻って行った。


大人達だけになった部屋で、麒麟に代わって黄龍が話し出した。


「不味いことになったな。色々な事が繋がってきたといえばそうなのだが……玄武、お前だけで先走るな」


玄武は顔を背けて頷いた。


「わかってるよ。わかっているが……」


畳に強く拳をぶつけた。


「祠が全て壊され、泰親がああして父上を引き連れて現れたと言うことは、富子も復活してるという意味だ。里と……母上、兄上が目的か……」


麒麟の言葉に、朱雀が続けた。


「我々は邪魔だということだろうな。奴等はこの里で暮らすと告げていた。今後外の人間が入ってこようものなら、そ奴らを喰らい、この里は近い将来人喰いの里とでも言われるに違いない」


「子捨ての里が人喰いの里か。あまりセンスがいいとは思えんな。まあ、その時には、俺達はこの世におらんのかもしれんが」


青龍が苦笑した。


「それは避けねばならん」


麒麟が言った。そして、黄龍が続けた。


「泰親は、父上を蘇らす為にあの世の番人と契約したと言ったな。番人は人を求めておると。不憫なのは、鼬に呪われたあの子じゃ。何も知らず、育てられ、恐らく最後には番人の生贄とされるのであろう。あの子を保護したい」


「それは、俺達がやらなければいけない仕事だ」


白虎が、そう同意した。


夢路は身体を失った。そして、鼬のせいで死に追いやられた。何れあの子が気付いた時に、夢路と同じ結末になるのかもしれない。


夢路には、甲蔵がいた家族がいた。しかし、あの子は独りだ。


「あの子を保護しよう。夢路と同じ事を……繰り返すのは辛い。けど、俺は世話してやれない」


黄龍がふっと笑った。


「心配するな、私達が引き受ける。夢路とお前への、せめてもの償いというのはおかしな理由かもしれないが」


「私達って、勝手に決めるなよ」


麒麟がぷうっと膨れた。


「反対か?」


「……反対ってわけじゃないけど」


麒麟は、黄龍がこの場で勝手に決めたことに少々不満だ。


「ほう、では事の次第を葛葉様と蜃様に報告する。その上で、あの子の事は相談しよう」


「あー!! それを言うか!」


「自ずと、そうなるだろ」


「俺んとこで面倒みるわ」


竜子の溜め息が上がった。


「麒麟は、何がそんなに嫌な訳?」


麒麟ではなく、黄龍が笑いながら応えた。


「葛葉様に、何をやっとるのだ! と怒られるのが目に見える。それと、蜃様に会いたくないのだ、麒麟は」


「呆れた。まだそんなことは言ってるの」


「ほっとけ」


ぽんっと麒麟が仕切り直した。


「さて、こっからが本題だ。泰親と富子をどうするか。生克五霊獣の法の使い方などわからん。俺達が出来ることとしたら、五霊獣の封印だ。それぞれの霊獣、すなわち5人いる分なんとかなるはなる。前回の生克五霊獣の法が破られた事例を踏まえてみれば……あまり利口な手段であるとは言い難い。あと、封印自体が脆すぎる事実も否定はできん。あくまで応急処置の範囲と考えるしかないのだろうな」



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