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生克五霊獣 64話

「このままでは、この稚児はすぐ死ぬ。イタチの血を飲ませて育て、その怨霊を取り込み生かすのです。術も武術も私が教えましょう、そうして忌々しきあの者達への復讐を果たした後、この子を喰らうのです。大きな怨霊を取り込んだ穢れなき魂は、美味いし力も増す」


泰親の説得に、富子はむき出した歯を直してその子を見た。


「そうか、この子が我らを助けてくれるか。名は?」


「名など与えてはなりません。情が出てしまう。この子は駒であり餌なのですから」



*****



かつて忍びの村を襲撃せざるおえなかった事件から、領主達は外の様子にも敏感になっていた。


里とは違い、外ではどこかしらで毎日のように戦が行われ、食糧不足も深刻であると。


子捨ての里近辺を巻き込む大戦が始まる、といち早く情報を得たのは朱雀であった。


本来、情報収集を担当するのは麒麟の役割である。そして、事が始まる前に対策するのも麒麟の役目。だが、外との商売をやり取りする中、他の者達が先に情報を入れる事は珍しくもなかった。


近頃は刀や鉄砲がよく売れる。注文まで来た、とあって探りを入れたところ、どうにも大戦の噂は本当のようだと。


言霊で伝えてもよかったのだが、旬介と仲の良い倅の藤治も行きたいと言うので、この所忙しくて誰とも会っていないなと思い麒麟領へと向かった。


麒麟邸に到着すると、藤治は旬介と早々に何処か遊びに飛び出して行ってしまった。


普段は本を読むことが好きな彼だが、旬介といる時は外で遊ぶことが多い。もっぱら山の中を駆け回るのが殆どなのだが、聞けば1人で外に行く気にはなれないと言う。修行は真面目だが、それだけではと考えるので、朱雀はこうして度々藤治を連れて麒麟の元へ来るのだった。


「今日は、何して遊ぶ?」


いい歳になっても、子供の頃と変わらず麒麟は朱雀にそう言う。朱雀は軽く笑うと首を左右に振った。


「今日は遊びに来た訳では無い。話があってきたのだ」


「ふうん」


空気を察して、黄龍が


「では、茶の用意でもしようか。長くなりそうだな」


と、席を立った。


「すまないな、黄龍にも聞いて欲しいのだ」


やがて茶と茶菓子が運ばれてくると、それを飲みながら朱雀は話した。


「少し前から、俺の領の刀と鉄砲がいつもの何倍にもよく売れる。とうとう、注文まで入るようになったので少し探りを入れたのだが、どうやらこの近辺一帯を巻き込む大戦が控えておるとのことなのだ」


「いつもの小競り合いじゃないのか?」


「そうでもないらしい。どうやら何処ぞの大大名が関わっているそうで、これはもはやほぼほぼ決定事項であると。そうなれば落ち武者がここに迷い込んでくる可能性も出てくる。それから、新しい里の者が増え、外では人攫いなんかも増えるだろうなと」


「ふうん」


麒麟はさも面倒くさそうに頷くので、見かねて黄龍が咎めるように問うた。


「これ程の重要事項、もっと早くお前の耳に入らんはずがなかろう。お前は知らんのか?」


「なんか、そんなような報告もあった気がするが……今時珍しくもないし」


黄龍が深い溜息を吐いた。



*****



ドーン!


と、里の端で爆発音がした。川で魚を捕って遊んでいた旬介と藤治が、それに気付いてふと顔を上げた。


「ねえ、旬介。なんの音だろう」


先程まで近くで泳いでいた魚が、音に驚いて逃げてしまった。


「なんか落ちたみたいな音だったね。雷かな。雨降るかも」


言いながら頭上を見上げるが、空は雲1つない晴天である。こんな時、青龍の息子である紗々丸がいればなあと思った。


「お腹も空いたし、魚でも焼こうか。雨が降ったら食べそびれるし」


「そうだね、火付けるよ」


と、川から上がると予め用意していた焚き火の準備に藤治は術で簡単に火を付けた。


ぱちぱちと燃える焚き火に薪となる小枝を足しながら、魚を焼いた。香ばしい匂いが辺りに充満するが、一向に雨の降る気配はない。


「雷じゃなかったのかな」


「かもね、なんだったんだろ」


「後で父上に聞いてみようか」


等と2人で話をしている最中だった。


ふと旬介の背後から鋭い殺気が飛んでくる。考えるより先に身体が動いて振り返ると、魚を焼いていた枝をそれに投げていた。投げられた枝は、殺気の主に突き刺さり、その場に落ちた。


見れば鼬である。鼬の口から、タコが墨でも吐くように旬介と藤治に何か黒いドロドロしたものを吹きかけて死んだ。


「気持ち悪っ!」


「こんなんで帰ったら、母上に怒られるよ」


半分泣きそうになりながら、2人して着物を川で洗った。


「なにこれ、なかなか取れないよ」


「なんだよ、あの鼬」


イラッとして振り向くと、不思議とそこにあったはずの鼬の死体は消えていた。


「あれ?」


生臭いような奇妙な匂いが漂い、ふと藤治が訴えかけた。


「気分悪くなってきたし、もう帰ろう」


「そうだね」



*****



「久しぶりだな」


自宅かと思うほど自然に、青龍が麒麟邸の居間へと入ってきた。


「何しに来たのだ? というか、ここはお前の自宅ではない。少しは遠慮しろ」


と、黄龍は青龍を咎めた。実は予め竜子から聞いていた情報があった。


『 うちの亭主の浮気につき、喧嘩したのでそっちに行くと思うわ』


と言う。側妻を持つならまだしも、そのつもりなくふらふらと女遊びが止められないと言う。麒麟曰く、竜子に構って貰いたいが故だと言うが、女の立場から言えばどうだかと首を傾げてしまう。だからこそ、こういう時は優しくなれない。


「黄龍、ちょっと冷たいな。久しぶりの相手に対して」


へらっと笑う青龍を、黄龍はぷいっと突っぱねた。


「竜子から聞いている。女の敵め」


「なんだ、また浮気か」


と、朱雀が言う。


「まあな、あいつが五月蝿いし、門閉めやがったから出てってやったんだ。反省するまで帰らんぞ」


「青龍、それは締め出しと言うのだ。反省するのはお前だ」


「朱雀の言う通りだ」


朱雀と黄龍に責められて、青龍はぷいっと膨れながら顔を背けた。


「いつまでも、子供のつもりでおるな。竜子も忙しいのだぞ」


「別に俺だって暇じゃねえよ」


そんな言い合いをしてる中、旬介と藤治が帰ってきた。


「ただいま。あ、青龍さんこんにちはー。紗々丸は来てるの?」


「おう。俺一人だ。あいつはデートだと。いい生活してるね」


「……血は争えんな」


ぽつりと朱雀が呟いた。


「それより、お前達獣臭いぞ。何してきたんだ」


「魚捕ったり、動物捕まえたり」


麒麟と青龍の顔が少し歪んだ。


(この匂い覚えがある)


はっとした。


「お前ら、何してきた!」


麒麟が怒鳴りながら、息子達2人の着物を引っ張ると着物が乱れてその隙間から五芒星形の痣が見えた。それを見た黄龍が激怒した。


「この馬鹿共が! あれ程、祠に近付くなと言っておったろうが!!」


そう、あの時と同じである。麒麟と青龍が誘われ、富子達を解放してしまったあの時と。だから、あの時の匂いを2人は知っていた。


「来る途中、何かが落ちたような衝撃音がしたんだ。お前達だったのか。誘われて壊してしまったのか」


自分達の経験があるから、麒麟も青龍も怒るに怒れない。その分、代わりに黄龍が怒るしかない。


「しっかりお灸をすえてやるから、覚悟せい!」


と、旬介の尻を叩いた。泣きながら違う違うと言うが、聞き耳すらもってくれない。朱雀に怒鳴られる藤治が、泣くことしか出来ない旬介の代わりに怒鳴り返した。


「俺達、本当に知らないし! 行くなって言われた場所に行ったことも近付いて見たこともないから本当に知らないし!! なんだよ、一方的に決めつけて!」



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