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生克五霊獣 35話

少し、時を戻すとしよう。

旬介達の話は夕方になっても、結局結果は出るはずも無く、宛もなく目的もなく、落ち着きなくうろうろしていると、吸い込まれるように小さな神社に着いた。

真新しくもあるが、薄暗く隠されるようにその神社は建っていた。最初は、その周りの変わりように気付かなったのだが、そこはかつて旬介が生まれ育った場所だった。祠の後に、その神社は建てられていた。

実際、この神社に富子と泰親を祀っているのだが、案じた葛葉はその事を子供達には告げなかった。ただ、あの場所には二度と行くな、としか言っていなかった。

「なんだ? この神社……」

紗々丸が呟いたあと、あっと旬介が思い出したように声を出した。

「ここ、俺が育った場所かも。お前と出会った場所」

「え? こんな事になってたんだ?」

それを聞いた藤治が、はっとした。

「帰ろう。ここは、近寄るなって葛葉様が言っていたとこだよ。きっと」

「なんでだろうな。神社なんだから、それも変な話だよな。ちょっと参ってこーぜ」

軽い気持ちで声に出した紗々丸の袖を、獅郎がつんつんと引いた。

「気味悪いし、俺はもう帰るよ?」

「俺も帰るよ、2人も早く帰ろう。暗くなったら怒られるよ」

と、藤治。

「なんか、ちょっと気になる」

嫌な懐かしさを覚えた旬介が、ぽつりと口に出した。懐かしいが、凄く嫌な気配だった。それ故にか、子供ながらの好奇心もあったのか、怖いもの見たさで妙に気になって仕方がない。

「俺、ちょっと入ってみようかな」

旬介が、一歩踏み出した。

それを藤治が止めようと、袖を引いた。

それを見た獅郎は、やれやれという感じで少し離れて見守っていた。

「気味が悪いし、言いつけは守らないと。こんなのバレたら折檻されるよ」

「この年になって、折檻なんかないだろ」

紗々丸は、笑いながら旬介の横をすり抜け、神社の鳥居をくぐり抜けてしまった。

「あ! 待てよ、俺も行くし」

旬介も続いて藤治を振り払うと、紗々丸を追いかけて中に入っていった。

「もう! 仕方ないな。獅郎、そこで待ってて。俺、連れ戻してくるから」

「はーい」

藤治は、嫌々ながらにそれに続いた。


真新しい神社にも関わらず、人の手もないようで、中は草木がお生い茂り、既に荒れていた。外より一段と暗く、空気すら重く感じる。

「もういいだろ、明らかにおかしいよ。帰ろうよ。獅郎も待ってるし」

絶叫にも近い声で、藤治は叫ぶが2人は薮を分けながら奥へ奥へとずんずん進んでいく。

「ここに、何があるのさ」

その質問は、旬介が返した。

「知るかよ。それを見に行くところなんだから。帰りたいなら先に帰ってろよ」

「なんだよ! それ」

必死に止めようと追いかけてきた藤治は、旬介の言葉に腹が立った。彼がその場で立ち止まったのを、2人は気付いて振り返った。

「もういいよ、俺知らないから。今から、言いつけに言ってやるから」

「なんだよそれ! 子供かよっ」

紗々丸も、腹が立ったのか立ち止まり、今度は藤治の服を掴んだ。

「何すんだよ!」

「弱虫」

どっと、紗々丸に突き飛ばされた藤治が藪の中倒れた。

「行こうぜ」

少し離れて待っていた旬介に駆け寄ると、ずんずん中に進んでいく。

藤治もここまでされたのだ。さっさと帰ろうと思った時だった。旬介の、声が聞こえた。

「祠が祀ってある。やっぱ、ここだったんだ。懐かしいな」

「なんで、こんなとこ祀ってんだろうな」

藤治は酷く嫌な予感がし、背中に悪寒さえ走った。直ぐに逃げないといけない気さえした。

「女の人がいるんだけど?」

「え? ホントだ。どうされました?」

「なんで、泣いてるんですか?」

姿の見えない、旬介と紗々丸の奇妙な会話だけが聞こえる。

藤治の全身から血の気が引き、身体が僅かながら震えた。嫌な気しかしない。

この場所に、人がいるはずがないのだ。何故なら、荒れた道もないような場所。そして、道のようなものがあるとしたら、自分たちが歩いてきた場所くらいしかない。そして、長らく誰一人近づいてさえいない様子なのに、そもそも泣き声などしないのだ。

「そんなに、泣かないでください。閉じ込められたんですね。今開けますよ」

「誰がこんな酷いことを? いつからですか」

2人の奇妙な会話だけが続く。

さわっと揺れた草の音。風で揺れた草の音さえ聞こえるほど静寂しているのに。

「もう無理」

半泣きになりながら、藤治は来た道を戻ろうと後退りを始めた。



ギイィィィー……



2人が、祠を開けたのだ。



ガシャアアン!!



今度は、何かが割れる音がした。

「ひいいいい!」

藤治の腰が抜けて、その場にしゃがみこんでしまった。

薄暗い中、更に視界が闇に遮られた。少し失禁してしまったのか、恥ずかしさと恐怖に俯いた顔の上で、嫌な気配を感じた。ガクガクして顔が上げられない。もしも、それが2人で、腰を抜かした自分をからかっているのだったらどんなにマシかと考えた。

が、悪い予感は的中した。藤治の頭に、大きな手が当たるとその手は締め上げるように首を持ち上げた。引き上げらるようにして、強制的に見せられた前にあったのは、見たことも無いような醜い鬼の姿だった。

藤治は、葛葉があれだけ近付くなと言っていたのを、瞬時に理解した。これが、ここに封じられていたからだと。誰も近付かないのではなく、誰一人この場所に近付けなかったのだ。最初から感じていた嫌な感じは、封じきれない何かがここにあったのだと。

逃げなきゃ!

必死に術を発動させると、鬼は藤治の発生させた炎に包まれた。鬼が怯んだすきにその手の中から転がり出ると、火達磨になる鬼を呆然と見ていた。 鬼は人形のように、その場に崩れ落ちた。鬼にしては脆いが、助かったと思ったのも束の間、はっとして2人を連れ出しに奥に走った。

旬介も紗々丸も、その場に倒れ込んでいた。脇には、割れた鏡が2つ。よく見れば、旬介も紗々丸も気を失い、その口から吐瀉物でもない黒い液体のような物が流れ出ていた。

「なんだよ、これ」

2人を触ると、生きてはいるが、酷く熱いのだ。人の熱ではなく、物質的な熱のようで、藤治の手が火傷するかと思うほどに熱かった。

仕方ないので、獅郎を家に向かわせ、藤治は2人の側に残る事にした。


*****


一刻も待たないうちに、飛んできたのは獅郎と蜃だった。

「あれ程、近付くなと言ったのに!」

気を失う傍ら、蜃が物凄い剣幕で怒鳴った。

「俺は止めようと思って、必死で止めたんだけど、2人が効かなくて」

蜃は2人に持ってきた札のような物を貼ると、藤治と獅郎に2人を屋敷まで運ばせた。

屋敷に戻り、一旦旬介と紗々丸を布団に寝かすと、葛葉、晴明、蜃が集まる中、藤治と獅郎は呼ばれた。

「あの二人は、目が覚めたらキツい折檻じゃ。話の次第では、お前達にも受けてもらう。経緯と見たものを全て説明しろ」

藤治と獅郎は、青い顔で全てを説明した。一応、2人は止めたという事で、折檻は免れたが、暫く謹慎するように言われた。

旬介と紗々丸は3日掛かりでキツい折檻を受けた後、そのまま地下の独房に幽閉された。それでも足りないくらいの罪を犯してしまったのだから、仕方なかった。


「旬介達は、どうなりましたか?」

心配したのか、様子を見計らって新月が蜃の元に訪れた。

「心配か?」

「はい、あれから1度も姿を見せませんし……どうなったのか母上に聞いても、知らなくてもいいって」

蜃は、力なく笑って見せた。

「母上と父上にしっかり尻を叩かれて、子供のように泣き喚いていたよ。今は真っ赤な尻を抱えて、独房に幽閉されている。それでも足りんくらいだ」


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