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リンリとの面談(下)


隊長室に戻り、俺はリンリに座るよう促した。


「えーとな……、さっきのアレはどういうことだ?」


 リンリはまともに俺の顔を見ようとはしない。

 もっとも、俺だって恥ずかしいよ。

 リンリの言うことを信じるのなら、こいつは俺の目の前で絶頂を迎えてしまったのだから……。


「隊長、私のことを軽蔑しますよね?」

「いや、戸惑っているだけで軽蔑なんてしていないぞ」


 人には様々な事情があることはわかっている。

 生まれついての体質など、本人にはどうしようもないことだってあるのだ。

 リンリは下を向いたまま鼻をすすった。


「話したくなかったら強制はしないが、さっきのアレは自分から攻撃を受けにいっていたよな?」

「はい……」


 やはり俺の勘違いではなかったか。


「どうしてだ? わかっているとは思うが、非常に危険な行為だぞ」

「誘惑に……勝てませんでした……」

「誘惑って……、攻撃を食らうこと?」


 まだ幼さの残る顔を絶望に染めてリンリは打ち明けた。


「私……ドMなんです……」


 とんでもないカミングアウトがキターッ!


「え、えーと……。それは攻撃を受けると快感を覚えてしまうということ……かな……?」

「はい……」


 それ、格闘家として致命的だから!


「子どものころは誰と戦っても連戦連勝でした。でも、思春期を迎えてしばらくたったころ、自分の隠された嗜好に気がついてしまって……」

「そこから勝てなくなってしまったというわけか」


 リンリは悲しそうにうなずいた。

 待てよ……、リンリは魔物との戦闘で二回も死にかけていたよな。


「まさか、対魔物戦でもそうなのか?」


 だとしたら戦闘なんてさせられないぞ。


「うぅ……」


 手で顔をおおって泣き出してしまったリンリはかわいそうだったが、これははっきりさせておかなければならない。

 命にかかわる問題である。

 場合によっては除隊を促して、新しい職を探す手伝いをしてやらなければならないだろう。


「答えろ、リンリ。魔物が相手でも誘惑に勝てないのか?」

「私、鈍器を見ると濡れるんですっ!」


 頭を鈍器で殴られた衝撃だった。

 鈍器を見ただけで濡れるって……。


「刃物が相手なら避けようと考えるんですが、鈍器だとぼんやりしてしまって……」

「それでオークの棍棒で殴られて死にかけたというのか?」

「はい……」


 立派な武器を持つ魔物は少ない。

 棍棒は魔物が持つ武器としては非常にポピュラーなのだ。

 これ、終わったかもしれない……。


「なあ、リンリ……、こう言ってはなんだが本気で除隊を考えた方がいいんじゃないか?」

「それは困ります! お願いです隊長、私をここに置いてください」

「だがなあ……」

「敵がインセクト系や四つ足なら戦えるんです。鈍器を持った二足歩行の魔物以外なら……」


 そうやって泣かれると俺も強くは言えなくなってしまう。

 この状態のまま放り出す方が酷というものだろうか?


「わかった。当面は様子を見ることにしよう。だが、ひどいようなら除隊勧告もありうるからな」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 拾われた子犬のように喜ぶリンリを放り出すのは、さすがに忍びない。


「隊長、質問してもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「こんな私ですが、異世界へ行ったら変われるでしょうか? ディカッサさんが言っていました。異世界へ行けば特殊な能力を得られるって」


 あのサイコパスは余計なことを広めているな。


「必ず得られると決まったわけじゃない。それに、リンリが異世界へ行けるかどうかも不明だ」


 キスをして試してみればわかるとは思うが、積極的に頼むのはなあ……。

 いや、リンリはじゅうぶんかわいいのだが、それを頼む勇気が俺にはないのだ。


「そうですか……」


 リンリはとても残念そうだ。

 しかし、本当に異世界へ行きたいのかねえ?


「なあ、リンリは異世界へ行くのが怖くないのか?」

「怖いですよ。でも私はドMですから……」


 即答に納得してしまった。


「よし、今日はここまでにしよう。次はアイン二等兵を呼んでくれ」


 ぺこりと頭を下げてリンリは隊長室を出ていった。

 まさか、こんなに手のかかる部下を押し付けられるとは思わなかったぞ。

 あまりのことに頭痛がひどくなりそうな俺だった。


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