おれ、トラ 2
おれ、ねこ。
なまえ、トラ。
きのう、しろねこにふられた。
あいつ、ちゃとらより、きじとらすき、いった。
はらたつ。
きじとらより、おれ、すてき。
にいちゃのまわり、めす、いっぱい。
それなのに、おれ、ひとりぼっち。
つまんない。
おれ、おこってる。
はらたつから、いせきで、ばじりすく、かる。
あいつら、つよい。
でもおれ、もっと、つよい。
おもいっきりうごいて、はっさん、する。
おれ、いいこ。
いせき、きた。
おれ、おりこうさん。
てんそうそうち、つかえる。
このうえ、たつ。
これ、おす。
てんそう、かんりょう。
いせきのおく、きた。
ざこ、にげてく。
でも、おれ、おわない。
きょう、おれ、つよいのと、たたかいたい。
おれ、ばじりすくのにおい、おぼえてる。
くんくん……。
あっちだ。
おれ、はしってく。
ばじりすく、はっけん。
にひきいる。
ならんでる。
こうび、するの?
りあじゅう?
おれ、にいちゃいがい、りあじゅう、ゆるさない!
きしゅう、かける。
…………
ばじりすく、かった。
さすが、つよかった。
あれ?
おれ、またおおきくなった。
あし、はやい。
もっと、つよくなった。
しろねこ、おれ、すきになるかな?
ん?
ひげ、ゆれた……。
かぜ、ふいてる。
どこから?
ん~……。
かべ、すきまある。
つめ、ひっかけて、あける。
おれ、とくい。
まど、これであける。
まど、あける、しょうじ、やぶく、ぜんぶ、とくい。
あいた!
また、てんくおの、かんばん……。
よくぞこの隠し扉を見つけたな。
諸君らは実に注意深い。
今回も特別なご褒美を用意したぞ。
やっかいな敵に遭遇したら使ってみるのも手だ。
特に、敵が強力な装備を持っているときは……。
諸君らのさらなる精進を期待する!
天空王
ごほうびか……。
てんくおのごほうび、ちーる、ない。
へんなの、ばっか。
でも、まあ、みてみるか。
これ、つえ?
ふたのうら、せつめい、ある。
武装解除の杖
敵に杖を向けて魔力を送ってください。
光の玉が飛び出し敵を自動追尾するので必ず命中します。
命中すればあらゆる装備を引っぺがします。
武器、防具、衣服(下着類を含む)、装飾品など、例外はありません。
はぎとった武装は使用者の手、もしくは後ろに置かれます。
エッチな目的にも使えますが、お薦めはしません。
もっと、過程を楽しみましょう。
ふ~ん……。
イラネ。
おれ、ぶき、ふく、つかわない。
さて、かえるか。
***
隊長室で日誌をつけていると前足で扉を開け、トラが入ってきた。
相変わらず器用だなあ。
そういえば、昔から実家の窓を前足で開けていたっけ……。
トラはすっかりここでの生活が気に入り、日本と異世界の二重生活を続けている。
この子にとって砦は別荘みたいなものなのだろう。
「にいちゃ、だっこ」
俺の膝に飛び乗ったトラは丸くなって目を閉じた。
どこかで遊んできて疲れたのだろう。
俺は右手にペンを持ち、左手でトラの顎の下をなでる。
「ん~、そこそこ……」
ゴロゴロとのどを鳴らしてトラは顔をすりつけてくる。
「きょうもいっぱい遊んだのか?」
「うん。おれ、いっぱいあそんだ」
「そうか。異世界は楽しいか?」
「ここ、だいすき」
「でも、そろそろ母さんたちが寂しがっているかもな」
そういうとトラは丸い目で俺を見上げた。
「かあちゃかぁ」
「トラも母さんに会いたい?」
「ん~、おれ、かあちゃ、だいすき」
「そうだよな」
「あした、おれ、かえる」
母さんもトラに会いたがっているから、明日の異世界転移時には、忘れずにトラを連れていかないとな。
でも、トラはいつも不意にいなくなってしまうのだ。
いまのうちからよく言っておかねばなるまい。
「トラ、明日は朝の見回りが終わったら日本へ帰るぞ。ちゃんと俺のところにいてくれよ」
「ん~、わかった!」
返事はいいのだが、トラは猫だけに気まぐれだ。
きっと忘れてしまうのだろう。
「日本へ帰ったら新しいチールを食べような」
「あたらしいちーる! おれ、にいちゃのそば、はなれない」
これで大丈夫だろう。
「にいちゃ、つえ、いるか?」
突然、トラが聞いてきた。
俺のことを気遣っているのだろうか?
言語チートにより賢くなっているのはわかるが、どうして杖なのだろう?
「杖ねえ……。俺の足腰は丈夫だぞ。それはもっとおじいさんになってからだな」
「やっぱりな。おれ、しってた」
「ありがとう、トラ。心配してくれたんだな」
「おれ、にいちゃ、だいすき」
トラが眠ってしばらくたったころ、リンリがやってきた。
「隊長、遺跡へ行く時間ですよ」
「もうそんな時間か。よし、すぐにいく」
「きょうは昨日のところより、さらに奥に進みませんか?」
リンリはやる気を見せているが、それは気が早いというものだ。
「いやいや、あそこにはバジリスクがいただろう? みんなにはまだ早いよ」
「そうですか? いけると思うんだけどなあ」
「石化光線を舐めない方がいい。俺だって討伐はギリギリだぜ」
光線を撃ちだす前の予備動作でそれとわかるが、避けるにはずば抜けた動体視力と反射神経が必要となるのだ。
「一体ならまだ何とかなる。だが、もし二体同時に現れたらどうするんだよ?」
「たしかに……」
「地道に実力を上げてから挑戦しような」
寝ているトラを起こさないよう、膝からそっとおろして、俺は遺跡探索に向かった。
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