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のんびり国境警備隊 ~異世界で辺境にとばされたけど、左遷先はハーレム小隊の隊長でした。日本へも帰れるようになった!  作者: 長野文三郎
第二部

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夏の終わり


 荒野に吹く風の匂いが変わった。

 夏はその勢いを失い、秋の気配が遠くに感じられる。

 山の上を漂う大きな雲の塊を見ながら、メーリアがつぶやいた。


「夏も終わりですね。なんだか寂しい気がします……」


 それは俺も同じ気持ちだ。

 体の内にとどまっていた夏の熱が、少しずつ冷めていくような感傷がこの季節にはある。

 だが、寂しがることはない。

 季節が廻ったとしても、同じようにまた不幸と幸福がめぐってくる。

 いまは終わりかけの夏を惜しみ、楽しむとしよう。


「そうだ、せっかくだから花火をしようぜ」


 二年の異世界暮らしで忘れていたが、夏の風物詩といえば花火だよな。

 きっと隊員たちも喜んでくれるだろう。


「花火とはなんでしょうか?」

「火薬を燃やして色とりどりの発火を楽しむのさ」

「火薬を……燃やす?」


 この世界にも火薬はあるのだけど、魔法が発達しているからそれほどメジャーなものではないんだよね。

 俺は詩人ではなくて軍人だから、現物を見てもらう方が早いだろう。


「美しく、迫力があって、たのしい遊びさ。日本で買うことができるから、今日は花火を買いに行ってくるよ」

「今日の当番はアインでしたね……」


 メーリアは残念そうに視線を逸らした。

 昔だったら、「はっ、アインに伝えておきます!」とかなんとか言って、敬礼していたような気がする。

 ストレートな感情を見せてくれるようになったのは、二人の距離が縮まった証だろう。


「メーリアにはどんな浴衣が似合うかな?」

「浴衣ですか?」

「日本の夏の伝統着だよ。いろんな柄があるんだ」

「それは楽しそうですね」

「せっかくだから、みんなで浴衣を着て花火を楽しもう」

「うわぁ、なんだかワクワクしてきました。さっきまで寂しかったのが嘘みたいです」


 メーリアに笑顔がもどって俺も嬉しかった。


「日本へ行く前にみんなの身長を測るから、今から広間に集めておいてくれ」

「承知しました」


 浴衣のサイズはアバウトでも大丈夫だろうから、簡単に計測してしまおう。

 俺は巻き尺を取りに隊長室へいった。



 隊長室で二、三の雑務を済ませた俺は、巻き尺を手に広間へ入っていった。


「みんな、そろっているか? うわっ!」


 目の前の光景に一瞬だけ脳がショートしてしまう。

 なんと、全員が素っ裸で横並びに立っていたからだ。

 どうして下着まで外しているんだよ!

 彼女たちに背を向けて俺は叫ぶ。


「服を脱ぐ必要はない! 身長を測ればそれでいい!」


 既製品のサイズなんてS・M・Lがわかればいいのだ。

 そんな厳密な数値を知りたいわけではない。

 すぐ後ろでメーリアの声がする。


「失礼しました。私はてっきり……」

「いいから、君も早く服を着てくれ」


 とんでもないものを見てしまったな。

 軍人らしく、みんな直立不動で立っていたのだ。

 しかも右から、アイン、リンリ、ディカッサ、メーリア、ファーミン、オートレイの順番である。

 身長順ではなく、胸の大きさの順番で並んだ?

 わざとやっているとしか思えないのだが……。

 彼女たちの裸はこれまでも見たことがあったけど、今回のは壮観というか、迫力の光景だった。



 みんなのサイズを測り終えた俺はアインと一緒に日本へやってきた。

 平日の昼間なので両親は不在だ。

 俺たちはそのまま近所のホームセンターへ向かいビニールバッグに入った花火セットを購入していく。


「これが花火ですか」


 アインはパッケージの裏の注意書きを熱心に読んでいる。

 火薬を使った製品なので仕方がないのだが、使用方法や注意だけでなく『警告』といった強い文言も使われている。


「なんだか怖いですぅ。隊長、花火をするときは私の手を握っていてもらえませんかぁ?」

「かえって危ないって」


 アインはいつものようにあざとく甘えてきた。


「正しい遊び方をすれば問題は起きないよ。子どもにだってできるんだぞ」

「子どもも楽しめるのですか?」

「もちろんだ。俺もガキの頃から大好きだったな」


 夏の花火は俺にとっても楽しい思い出のひとつだ。

 子どもにも遊ぶことができると聞いて、アインは顎に指をあてて考えている。


「隊長、私のお給金からいくつか花火を買ってもらってもかまいませんか?」

「どうした?」

「レビン村の子どもたちにも遊ばせてやろうかと思いまして。生意気な子ばかりですが、たまには楽しいことがあってもいいかなって」


 実を言うと、アインは子どもたちに人気がある。

 子どもの前だとアインはいたって普通なのだ。

 自分のか弱さをアピールすることもなく、なんでもズケズケとしゃべっている。

 また、レビン村の子どもが高熱を出したなどという知らせがあれば、夜中でも軽トラに乗って一人で出かけていくくらいだ。

 子どもたちからは「ちっぱい聖女」などと呼ばれて怒っているが、それだって本気じゃない。

 じゃれあっているのをむしろ楽しんでいるような節さえある。


「いい考えだな。いっそ、村人全員ぶんの花火を買って行って、花火大会でも開こうか?」

「私、隊長のことを惚れ直しました……」

「そ、そうか?」


 アインはどさくさに紛れて俺の腕にしがみついてきた。

 店のお客さんが呆れた顔でこちらを見ているぞ。


「おい、離せよ」

「嫌ですぅ。小さな胸の女の子はお嫌いですか?」

「…………」


 小さな……胸……?

 少しかたそうな小ぶりのふくらみ、淡いピンクをした薔薇色の先端などが脳裏によぎる。

 嫌いじゃない……。

 あれはあれで、いいものなのだ。


「胸で人を判断したりは……」


 俺が振りほどこうとしないのをいいことに、アインは満足げに腕にもたれかかり、そのまま甘えている。

 バカップルに成り下がった俺たちは売り場にあった花火を買い占めて、今度は店員さんに呆れられてしまった。


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