この世の極楽
釣り堀天ちゃんのおかげで、砦の食糧事情は格段によくなった。
本日の夕飯は隊員たちが釣ってきたキスで天ぷらだ。
久しぶりに食べる揚げたての天ぷらは実にうまい。
畑で作った野菜も一緒に揚げて食べている。
ナスの天ぷらは最高だな!
あ、エイニアさんのことを思い出してしまった……。
それは置いておこう。
サツマイモはそのまま上げるのではなく、焼き芋にしてから揚げたら甘みが強くなっていた。
これに塩をかけて食べるのがまた美味い。
天ぷらって大抵のものを美味しくするよな。
特に食いしん坊のオートレイは天ぷらが気に入ったようだ。
「これで明日からも頑張れます」
「ああ、風呂づくりもいよいよ大詰めだから、たくさん食べて力をつけてくれ」
俺たちの温泉計画は順調だった。
風呂の基礎部分、排水溝、湯舟(岩風呂)、屋根などもほとんど出来上がっている。
後は日本から買ってきた防腐塗料をあずまやに塗り、二本の角を所定の場所に打ち込めば完成だ。
その夜はたくさん食べ、明日に備えて早めに寝た。
朝の見回りが終わると俺たちは総出で防腐塗料を塗った。
七人がかりなので作業はあっという間だ。
すべて終わるとアインが気の早いことを言い出した。
「さあ、角を打ち込んでしまいましょう。私、早くお風呂に入りたいです」
「いやいや、塗料が乾くまで二日は必要だよ。さいわい晴れが続くみたいだから、それ以上はかからないさ」
「なぁんだ。お楽しみはまだまだ先ですね」
俺も早く温泉に入りたいが、こればっかりは仕方がない。
まだまだ強い日差しが続いている。
焦らずに待てばいいのだ。
ついに待望のときがやってきた。
夕方になって塗料の具合をみると、残暑の日差しの下で完全に乾いていた。
これなら温泉の湯気にあてられても問題はないだろう。
「よし、二つの角を打ち込んでみるか!」
こう宣言すると、みんなは歓声をあげた。
まずは浄化の角を打ち込むことにした。
こちらは湯舟の排水と洗い場の排水が合流する場所に設置する。
いらない板を上面に当てて木づちで根元まで打ち込む。
「こんなもんかな?」
「水を流して確かめましょう」
オートレイが桶に水を汲んできてくれたのでそれを穴の中に流しいれてみた。
「おお、みるみるうちに吸い込まれていくな」
「どうなっているんでしょうね?」
水は穴からあふれることなく、どこへともなく消えていった。
「それじゃあ、いよいよ開泉の角を打ち込むぞ」
先ほどと同じ要領で湯舟に注ぐ樋の端に開泉の角を打ち込んだ。
「あれ、なにも起こりませんよ?」
オートレイが角の中の空洞を覗き込んでいる。
「呼び水となる魔力を送り込むんだろう」
頭の中でお湯の温度を五十度に設定して角に魔力を送った。
すると、角の中から滾々《こんこん》と温かいお湯があふれ出るではないか!
お湯は樋を伝わり湯舟に溜まっていく。
湯量は豊富なので時間も掛からずに満杯になるだろう。
「もう少し勢いを強くしてみるかな。お湯がいっぱいになったら減らせばいいんだから」
開泉の角に触れながら念じると、湯量は倍になった。
「さすがは天空王のアイテムだ。とんでもねえな!」
みんなが茫然と湧き出るお湯を見つめる中で、メーリアがキビキビと動き出した。
「隊長、お風呂の準備をしましょう。日本で買ってきたタオルやボディーソープ、シャンプーやトリートメントを運ぶのです」
「そうだったな。よし、さっさとやってしまおう」
俺たちが道具を運んでいる間にお湯は八割がた溜まってしまった。
「そろそろ入れそうだな。まずは君たちから入ってくれ」
レディーファーストと思ったのだが、みんなはそれを許してくれなかった。
メーリアが断固とした口調で俺の提案を拒否する。
「隊長がお先にお入りください。私たちが先など滅相もありません!」
こうなると言い争っても時間の無駄だ。
さっさと入って、彼女たちにはゆっくりと温泉を堪能してもらうしかない。
「それじゃあ先に入らせてもらうよ。みんなは中で待っていてくれ」
「はい!」
いい返事である。
隊員たちが去ると、俺は服を脱いでかごに入れた。
外で裸になるというのは実に開放的だ。
時刻は夕方で西の空が真っ赤に染まり、天空には一番星が輝きだしている。
「まずは桶でかけ湯だな」
作法にのっとり体を流していく。
湯の温度は少しぬるめでちょうどいい。
俺はそっとつま先から湯舟に浸かった。
「ふいぃいいいいい……」
夕闇迫る砦に俺のため息が静かに響いていく。
体を伸ばして湯につかるなど二年ぶりのことだ。
そういえば、こんな感じだったよなあ。
異世界での生活が長すぎてすっかり忘れていたよ。
苦あれば楽ありか……。
苦労があればいいことがあるものだ。
お風呂づくりはたいへんだったけど、こうして身も心も弛緩していられるのはその苦労があったからだろう。
お風呂づくりだけじゃない。
必死で戦場を駆け抜けて、俺はようやくこの場所にたどり着いたのだ。
そう考えると、激動の二年間も無駄じゃなかったのかもしれない気がした。
まあ、生き残るのに必死だっただけだけどな。
ぼんやりと来し方行く末について思いを巡らせていると、人の話し声が近づいてきた。
「失礼します。湯加減はいかがですか?」
メーリアを先頭に隊員たちがみんな集まっている。
ファーミンまで一緒かよ。
さっき、『中で待っていてくれ』と言ったら、『はい』って元気に返事をしたよな?
日本語が通じないの?
いや、レンブロ語か。
てか、言語チートでどっちも完璧なはずなのに!
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ入ったばかりだから……」
「どうぞ、そのままリラックスなさっていてください。私たちも一緒に入りますので」
「は? メーリア、なにを言って……」
俺の言葉を遮るようにアインが甘えた声を出す。
「隊長のお体を洗ってさしあげますね♡」
「そ、それは……」
困っている俺にファーミンがとりなしてきた。
「いいではないか。いずれはみなイツキの嫁になる女たちだぞ」
俺の前で隊員たちが服を脱いでいく。
なにこの理想郷?
でもさ、俺はまだ彼女たちに手を出すわけにはいかないんだよね。
天空王の床入りにはいろいろと制約があるらしい。
何だか知らないけど、みんなはそれを踏襲したいようだ。
「さあ、こちらへいらしてください。お背中を流しますから」
メーリアが俺を手招く。
スタイルの均整が抜群だ。
「ちょっと、それは私の役目よ。邪魔しないでくれる?」
アインが文句を言っているぞ。
控えめな胸やお尻も趣がある。
「隊長、二人のことは放っておきなよ。私が洗ってあげますよ」
リンリの引き締まった体も素晴らしい。
みんな違ってみんな素敵なのだが、おかげで困った事態になった。
俺のアソコがギンギンに反応してしまっているのだ。
これが、楽あれば苦あり、ということか……。
湯舟の中で動けないでいる俺にファーミンが近づいてきて、耳元でささやく。
「苦しそうだな。夜になったら部屋へいく。私に任せておけ……」
「すまん……」
いまはこの場をしのいで、夜になったらファーミンに……。
俺は隊員たちに背を向けて脱衣かごまでカニ歩きだ。
「俺はもう上がるから、みんなはゆっくりしていってくれ」
手早く体を拭いて衣服を身に付けて行く。
そこへオートレイが近づいてきた。
「わかっています。隊長も辛いのでしょう? 夜にいきますので……」
「いや、あの……」
だが、明確な返事をする前にオートレイは他の隊員たちのところへ行ってしまった。
これはまずいことになったな。
いったいどうすればいいのだ?
その後、今夜はいいと二人に伝えようとしたのだが、女子たちは固まっていてその機会がないまま深夜になってしまった。
隊員たちは同じ部屋にいるのでたずねるわけにもいかない。
どういうわけか今夜はファーミンも彼女たちと一緒にいる。
みんなが寝静まるのを確認してから来るつもりなのだろう。
これじゃあ、ダブルブッキングじゃないか!
俺はじりじりしながら隊長室でウイスキーを煽っていた。
やがて、深夜の砦にノックの音が小さく響く。
どっちが先にきた?
どちらにしろ、今夜は帰ってもらうとしよう。
ところが、ドアを開けると、そこにいたのはファーミンとオートレイだった。
二人同時に来ちゃったの?
「え、どうして……?」
ファーミンは俺を強引に押しのけて隊長室へ入ってきた。
後から入ってきたオートレイが扉のカギを閉めている。
「通路でオートレイに会ったのだ」
「お互い、雰囲気でなんとなくわかってしまいました。も、もちろん私は邪魔する気なんてありません。隊長だって私なんかより神官さまの方がいいでしょうし、邪魔をする気なんて毛頭なかったのです。でも、神官さまが一緒に来いとおっしゃられて……」
いつものように早口でしゃべり始めたオートレイだったが、最後の方は尻切れトンボになっていた。
そんなオートレイを見てファーミンが苦笑する。
「まあ、こんな感じなので連れてきた」
「連れてきたって……」
「だから、今夜は私とオートレイでお前を慰める」
「は?」
あまりのことに俺は言葉を失った。
「いや、でも……、え……?」
「イツキは同時に六人の嫁を娶るのだ。いつかはこういうこともあるだろう。今のうちに練習しておくのも悪くないさ。その代わり、イツキも頑張るのだぞ」
「ウ、ウス……」
これは夢だろうか?
それとも、苦あれば楽ありということか?
その晩、砦のおっぱいツートップに挟まれて、俺は楽……極楽の味を知ってしまった。
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